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彼等が住んでいるのは、世界から隔離されるように海で囲まれた、あまり知られていない小さな田舎街だった。
閉鎖的で窮屈なこの場所では、同性との恋愛など許されはしなくて。
それでも同じ日に産まれ、運命の悪戯とでも言うべきか、家も隣同士だった螢と昴は、いつしか互いの胸に恋心を芽生えさえ、どちらからともなく一線を越えた。
頭では駄目だと分かっていたが、どうしても想いを止めることが出来なかったのだ。
皆には気付かれないように、学校や両親の前では今まで通り仲の良い幼馴染みの友人を装った。
唯一恋人という関係でいられるのは、街の外れにある廃墟化した教会に忍び込んでいるときだけ。
どんなに僅かであっても、人目を気にせずに愛を囁き合えるその時間は、二人にとって掛け替えのないものだった。
ついにあの気味悪い教会が取り壊されるらしいよ、という話題で街中が持ち切りになったのは、彼等が中学も三年生になった六月のこと。
ちょうど梅雨の時期に入り、毎日のように雨が降り続いていた。
いつ崩れてもおかしくないよね、なんて笑い合ってはいたが、何十年も放置されていたのだから、まさか突然なくなってしまうとは想像もしていなかっただろう。
「此処、無くなるんだよな…」
「…っ、うん…」
放課後になっていつものように教会で合流すれば、長椅子に並んで座り普段と何ら変わらない他愛のない話をしていた。
ところが不意に会話が途切れると、昴が切なげな表情で呟く。
こんな顔をしているのを見たことがなかった螢は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに寂しさの方が上回り、コクンとただ小さく微かに頷いた。
思い出が詰まった場所だから、というのは勿論あるだろう。
けれど一番の哀しみは、もう恋人としていられなくなってしまうことだった。
「もし明日の天気が晴れだったら、夜中にこっそり家を抜け出して結婚式をしようよ」
「…結婚式?」
「そう。愛を誓い合ってさ、この教会ごと俺達の関係を永遠にするんだ」
「素敵だね、それ」
浮かんだばかりであろうアイディアを、先程までとはまるで正反対な明るい口調で昴は言う。
戸惑った様子で小首を傾げる姿に、更なる言葉を続ける。
すると意図を察した螢は、強張っていた頬を緩ませ嬉しそうに微笑むと、寄り添うようにして肩に凭れ掛かり手を握った。
もっと大人だったなら、共にこの街を出て行くことも出来ただろう。
しかし彼等はその術を知らない程に、どうしようもなく若かったのだ。
「…もう帰る時間か」
「そうだね…」
暫くして硝子窓に映る灰がかった景色が濃紺に染まりつつあるのに気付いた昴は、ため息にも似た声を漏らした。
指摘されてしまったことで、見て見ぬふりをしていた螢が諦めたように返事をする。
そうして二人は名残惜しそうに立ち上がり、出入口の前まで来ると傘を広げ、別々の道で家路に就いた。
閉鎖的で窮屈なこの場所では、同性との恋愛など許されはしなくて。
それでも同じ日に産まれ、運命の悪戯とでも言うべきか、家も隣同士だった螢と昴は、いつしか互いの胸に恋心を芽生えさえ、どちらからともなく一線を越えた。
頭では駄目だと分かっていたが、どうしても想いを止めることが出来なかったのだ。
皆には気付かれないように、学校や両親の前では今まで通り仲の良い幼馴染みの友人を装った。
唯一恋人という関係でいられるのは、街の外れにある廃墟化した教会に忍び込んでいるときだけ。
どんなに僅かであっても、人目を気にせずに愛を囁き合えるその時間は、二人にとって掛け替えのないものだった。
ついにあの気味悪い教会が取り壊されるらしいよ、という話題で街中が持ち切りになったのは、彼等が中学も三年生になった六月のこと。
ちょうど梅雨の時期に入り、毎日のように雨が降り続いていた。
いつ崩れてもおかしくないよね、なんて笑い合ってはいたが、何十年も放置されていたのだから、まさか突然なくなってしまうとは想像もしていなかっただろう。
「此処、無くなるんだよな…」
「…っ、うん…」
放課後になっていつものように教会で合流すれば、長椅子に並んで座り普段と何ら変わらない他愛のない話をしていた。
ところが不意に会話が途切れると、昴が切なげな表情で呟く。
こんな顔をしているのを見たことがなかった螢は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに寂しさの方が上回り、コクンとただ小さく微かに頷いた。
思い出が詰まった場所だから、というのは勿論あるだろう。
けれど一番の哀しみは、もう恋人としていられなくなってしまうことだった。
「もし明日の天気が晴れだったら、夜中にこっそり家を抜け出して結婚式をしようよ」
「…結婚式?」
「そう。愛を誓い合ってさ、この教会ごと俺達の関係を永遠にするんだ」
「素敵だね、それ」
浮かんだばかりであろうアイディアを、先程までとはまるで正反対な明るい口調で昴は言う。
戸惑った様子で小首を傾げる姿に、更なる言葉を続ける。
すると意図を察した螢は、強張っていた頬を緩ませ嬉しそうに微笑むと、寄り添うようにして肩に凭れ掛かり手を握った。
もっと大人だったなら、共にこの街を出て行くことも出来ただろう。
しかし彼等はその術を知らない程に、どうしようもなく若かったのだ。
「…もう帰る時間か」
「そうだね…」
暫くして硝子窓に映る灰がかった景色が濃紺に染まりつつあるのに気付いた昴は、ため息にも似た声を漏らした。
指摘されてしまったことで、見て見ぬふりをしていた螢が諦めたように返事をする。
そうして二人は名残惜しそうに立ち上がり、出入口の前まで来ると傘を広げ、別々の道で家路に就いた。
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