4 / 43
第1話 序幕
しおりを挟む「なあ、兄ちゃん。冥途の土産に教えてくれよ。あんた一体どこのスパイだ?」
屈強な体躯の大男が足元を見下ろす。その視線の先には、手足をロープで縛られた男が転がっていた。男は小さく鼻を鳴らすと、
「冥途の土産なんて言葉、実際に聞くとは思わなかったな」
女物のパンプスのつま先が鳩尾にヒットし、男は声も出さずに呻く。
「あらら、いい男が台無しね」
パーマがかった赤髪の女が膝をつき、男の顔を指で持ち上げた。天井からぶら下がる頼りない電球の灯りがその横顔をうっすら照らし出す。切れ長の涼しげな目に、高く通った鼻筋。唇は薄く小ぶりで、歌舞伎の女形が似合う顔立ちだ。だが、両の口角には血が滲み、片方の頬は痣ができ腫れあがっている。傍には人間の歯が一本落ちていて、拷問を受けたことは火を見るよりも明らかだ。
「でも私、ボロボロになった色男を見るの、好きよ」
真っ赤な唇を歪め、女は婀娜っぽく笑う。
「ねえ、色男さん。潔く白状しちゃいなさいよ。そうすれば、せめて痛みを感じないうちに死なせてあげるから。痛いのは嫌でしょ?」
注射嫌いの子どもを宥めるような口ぶりだ。だが、男は顔色一つ変えずそれどころか女の脅しを嘲るように、
「痛いのが嫌だって。笑わせるね。だったら拷問を受けた最初の数分でとっくに白状しているさ」
「お仲間の情報は死んでも売らないってわけね。厚い友情だこと、感動して涙が出るわ」
目尻を拭う仕草をして、女は立ち上がる。
「もういいんじゃない? この男、何も話す気なさそうよ」
「残念だが、仕方あるまい――兄ちゃん、その強情さだけは認めてやるよ」
大男は迷彩柄のズボンのポケットに手を入れる。何を取り出すのか見定める前に、女に上半身を起こされた。
「ほんと、よく耐えたわね。今までの連中は拷問を始めて五分ともたなかったのに」
女と向かい合うように座らされた。ざっくり開いたスーツの胸元に、つい目が吸い寄せられる。右胸の上部、鎖骨の下あたりに不思議な刺青が刻まれていた。数字の〈6〉を横向きにして二つ並べたような、奇妙なデザインだ。
「そのマーク――お前ら、もしかして」
言いかけた瞬間、女に唇を奪われた。柔らかく、少し湿っぽい感触。めまいがするほど甘ったるい匂いが鼻を突く。
「大丈夫、あの世は楽園だから」
正常な思考が戻る前に、背後から物凄い勢いで首を締め上げられた。空っぽの胃から何かがせり上がりそうになる。首元に指を這わせるが、二重に巻き付いたナイロン製の紐には爪を引っかける間隙さえない。藻掻くほど苦しくなるだけだと判っていたので、余計な抵抗はしなかった。
だが、せめて彼らの正体に少しでも近づきたい――その一心で、男は最期の力を振り絞って首を回そうとした。その動きに勘付いた大男が、紐を握る手に力を込める。その様子を、赤髪の女は冷笑を浮かべて見守っていた。
やがて、人間の首が折れる音が閑散とした空間に響いた。大男が腕の力を緩める。首に紐を絡めたまま、男の体がどうっと地面に倒れ込んだ。床に積もっていた埃の粒子が宙を舞い、女は微かに顔を顰める。
ピクリとも動かない人間の屍を、感情のない四つの瞳が静かに見下ろしていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる