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謎で謎を解く御伽横丁
鏡の裏側 ~むっつめ~
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誰もが寝静まった深夜。
十二畳の和室に敷かれた七つの布団から、そっと一人が起き出した。
「.....行動申請だ。動くよ、GM」
《かまわないけど。探索時間外の行動は技能やステータス半減だよ?》
「いいよ。浜辺にいく。忍び足でダイス」
《了解、2D10で》
ぼそぼそ小声で呟きながら、静かに玄関から出ていくのは太郎だ。彼は忍び足を成功させ、誰にも知られぬように家を抜け出した。
夕刻に行われた探索で、朏が機転を利かせたダイス。それは太郎に次郎の行方を教えてくれる。
ただし、一人でなくば役にたたない情報を。
《おわ、クリティカルかぁ? う~ん、そうだなあ。あの岩場には秘密があります。誰かに知られると閉じてしまう水鏡が存在し、新たな生け贄に喜ぶ何かが潜んでいます》
.....新たな生け贄っ?
ぞっと背筋を震わせた太郎は、脳裏に弟の顔を過らせる。
新たなというのだ。その生け贄は次郎に間違いない。
.....なんだって、そんなことに?
妙な焦燥感に煽られ、太郎は口を引き結んだ。この情報を他に知られるわけにはいかないからだ。
そんなことになったら、その水鏡は閉じてしまう。せっかく弟に繋がる手がかりを彼は失いたくなかった。
「今、行くからなっ! 待ってろよっ!」
何とか一人で謎を解こうと、太郎は単独で浜辺の岩場へ向かう。
「ふあっ、は.....っ! ここだ、確か.....っ」
例の子供らが出てきた隙間を必死に調べる太郎。そこは翔が吹っ飛ばされた岩場でもあった。
だが、真っ暗闇の岩の間は暗すぎて何も見えない。
「GM、所持品申請だ。ライトが欲しい」
《ん~、ま、いっか。幸運半分でどぞ》
すでに数値半減なところをさらに半分と言われ、一瞬、太郎はたじろぐ。しかし、それより大切な弟を思い浮かべて、彼がダイスと口にしようとした瞬間。
いきなり背後に立った何者かに、その口を塞がれた。
ぎょっと硬直する太郎の身体。しかし、その何者かの放った言葉が、彼を安堵させる。
「GMにのせられるな。なんのために仲間がいるんだよ、あ?」
それは慣れ親しんだ賢の声だった。
ひきつった顔で後ろを見た太郎は、そこに勢揃いしている面子に倍驚く。自分を除いた六人。つまり、探索者全員が浜辺に立っていたのだ。
.....なんで?
眼は口ほどにモノをいう。
疑問符全開な太郎を見下ろし、朏が説明した。
「アンタが何かを隠してるのは分かってたんよ。だから、泳がせてたの」
「そうそう。明らかに挙動不審だったもんな」
にっと笑う仲間達。
彼らは翔と情報共有し、太郎が沈黙する理由を皆で考えた。
彼をよく知る《神楽坂》のメンバーは、多分、弟のことだと予測をつける。
『行方不明なんだ。何かそれに関したこと..... たとえば、俺らに知らせられない事情があるとか? その辺かな?』
『あり得るね。邪神のゲームだもの。どんな悪辣な条件づけがされているか分からないわ』
そうお互いに確信し、朏らは抜け出す太郎の後を静かに追ってきた。次郎のこともあるし、いよいよとなるまで動かない約束で。
「そしたらGMの口車にのりかかってるんだもんなあ。心臓に悪いよ」
.....知られた? それじゃ次郎は?
真っ青な顔でガクガク震える太郎。それを真っ正面から見据え、朏は子供に言い聞かせるかのよう優しく話しかけた。
「何を知ったのか分かんないけど、共有したくない情報は出さなくても良いのよ? 教えてもかまわないことだけで。たとえば、今、必要な物はある? 頼りなさい、仲間を」
あ..... と、太郎の目が見開いていく。
そうだ、わざわざ詳しいことを知らせる必要はない。何を言わずとも、太郎を信じて協力してくれる仲間がいるのだ。
小さく頷く太郎を見て、賢はその口から手を離した。
「明かりが.....欲しい」
「はいよ」
太郎が力なく呟いた途端、朏はライターを投げる。これは村の散策で目星を振りまくって手に入れた物だった。
物品とは、何もGMに申請して手に入れるしか方法がないわけではない。現場を探索し、手に入る物も沢山ある。
TRPGではお馴染みの手法だ。だが、そういった概念の薄い御伽街の探索者は、全く気づけていなかった。
「ついでにコレもね」
次に朏は取り出した新聞紙を棒のように捻りあげる。新聞紙とは存外肌理細やかで硬い代物。ぎっちり捻ると薪とかの代わりになったりもするのだ。
「こういったのもリアル雑学よ。豆知識ってヤツね」
「リアルアイデア成功かい。.....ダイスが全てだと思ってたわ」
当麻の呆れ気味な呟きを耳にして、ぶはっと口々にまろびる笑い声。
逼迫した状況を覆す頼もしい仲間達に、太郎は心から感謝した。
そして彼はもらったライターで新聞紙に火をつける。ぼぼ.....っと音をたてて燃える炎。
それが岩場を明るく照らし、太郎の探し物を浮かび上がらせた。
岩場奥で妖しく光る水面。
「.....水溜まり? これが、何かのヒント?」
無言でそれを覗き込む太郎。
すると明かりに照らされて煌めいていた水面が、突如大きくうねり、その向こうに次郎の顔を映し出す。
「次郎っ!!」
思わず叫んだ太郎につられ、他のメンバーも水溜まりを覗き込んでしまい、一斉に息を呑んだ。
その動揺をGMは見逃さない。
《へーい、行方不明の仲間を思わぬ場所で見つけた君らは、激しく動揺したね? 全員、SANチェックだ。成功で1D4、失敗で1D6な♪》
......この野郎ぅぅっ!
苦虫を噛み潰しつつ、朏らはダイスする。結果、翔のみが失敗し、さらに不定を食らった。
「5? 運がないっ! .....うおあぁぁっ?! くっ、来るなっ!」
ずずっと後退りつつ、何かを振り払うよう翔は両手を振り回す。
ここ御伽街では、不定の種類を選ぶダイスは振られず、ランダムで症状が現れるのだ。今回、翔に起きた症状は幻覚のようである。
「ちっ、GM! 精神分析でダイ.....」
《要らぬ》
咄嗟にかまえた朏を一瞥し、ふんっと鼻を鳴らすモノノケ様。翔の肩で、のほほんととまるアマビエにより、彼の幻覚はすぐに治まった。
冷や汗びっしょりで岩壁に背をもたれさせる翔の肩から飛び降り、そこに座るようアマビエは朏と翔を睨み付ける。
《今は探索の時間外で能力値が半減しておろうが。やたら技能を使おうとするでないわ》
「すいません.....」
正座した二人の前で、きゅあきゅあ説教する異形様。
その暢気な姿に毒気を抜かれ、太郎や他のメンバーも冷静さを取り戻した。
そこはかとない日常感が醸される光景に脱力しながら。
「けど、なんだって次郎がこんなとこに?」
「分からない..... どうしたら良いんだろう」
水面の向こうにいる次郎は、虚ろな眼差しでこちらを見ている。
どろりと濁った黒い瞳。それは深い闇に蕩け、今にも呑み込まれそうな錯覚を《神楽坂》のメンバーに起こさせた。
「KP、今の状況を説明出来るか?」
朏の質問にしばし逡巡をみせつつも、GMは許された範囲の情報を開示する。
《そうだねぇ。まあ、みんな目にしちゃったし話しても良いか。ここは異世界への入り口。あることを行うと通行可能。ただし、一度使われた入り口を別の誰かが使うことは出来ない。ダイスなしで答えられるのは、こんなとこか》
「な.....っ! それじゃ、僕が皆に黙ってここに来た意味はっ?!」
声だけしか聞こえない姿なきGMを睨めあげるように、太郎が天を仰いだ。
するとまるでそれを見ていたかのごとく、辛辣に嘲る声が探索者らの脳内で谺する。
《全くの無意味~♪ 探索時間外に動くとか、馬っ鹿じゃないのぉ? あっはっは》
ぐっと奥歯を噛み締め、太郎は湿った砂を握りしめた。
そんな太郎を気の毒そうに見つめて朏はGMに悪態をつく。
「そういう生き物なんだよ、邪神って奴は。はあ.....」
《そういう君も邪魔ばっかしてくんね? ここで彼には無謀なダイスしまくって欲しかったのにさあ。少しは忖度してよ》
「邪神にする忖度なんぞ持ち合わせておりませ~ん。べ~っだ」
一歩間違ったら大惨事待ったなしな状況なのに、なぜか仔犬のじゃれあいみたく言い争うGMと朏。
つまりGMは、太郎が次郎を救うために動き、能力値1/4の失敗確定ダイスを振ることを楽しみにしていたのだ。
人間、焦れば焦るほど正常な判断が出来なくなる。それを見越した悪質な悪戯だった。
《大体さあ、クリティカルした時に聞けば良かったんだよ。僕が出した情報の詳細をさ。そいつのへまだよね?》
「え? 聞かなかったの? なんで?」
「.....聞く? なにを?」
すっとんきょうな顔を見合わせる太郎と朏。なぜか噛み合わない気がする二人の会話。
ここでようやく彼女は知った。
御伽街の探索者らが邪神の本質を知らず、言葉遊びを理解せず、PLとしては途方もなく未熟なことを。
初めて御伽街を訪れた真の探索者、朏。
クトゥルフの内容すら覚束ない《神楽坂》のメンバーが、翌日、朏の口から語られるクトゥルフ神話やクトゥルフの呼び声などの話に度肝を抜かれるのだが、それは余談である。
これが今回のセッションで、吉と出るか凶と出るか。
それは朏にも分からない。
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