生と死の狭間、御伽横丁 ~異世界転勤? ふざけんなっ!~

美袋和仁

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 謎で謎を解く御伽横丁

 鏡の裏側 ~よっつめ~

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「そういうことかよぉぉっ! 導入からして罠だったんだっ! 推奨技能で削られていたことを疑うべきだったのに.....っ!」

 ぬるりと呑み込まれた腕を凍った眼差しで見つめ、彼は絶叫する。
 まるで固い水飴が内側に巻き込むかのように、ぬちぬちと引きずられていくおぞましさ。一見、水面にも見えた異形の悪辣な仕様に、彼は死に物狂いで抗う。

「くっそっ! 抜けろ、抜けてくれようぅぅぅ!!」

 .....ここに至るまでの経緯。あそこで、言いくるめか説得があればっ!!

 推奨技能が、交渉系を除いた全てなのも間違いではなかった。.....しかし推奨でなく、必須だったのだ。交渉技能は。
 それを、このシナリオ主は導入で削った。どれも必要な技能だから騙したわけではない。ただ、導入に載せないだけで、それが不要とは書いていないのだ。

 .....ちくしょうっ! あざとい真似を!

 ふうふう息を荒らげつつ、彼は目玉が飛び出しそうなほど見開いた眼に涙を浮かべる。

 導入の羊皮紙は嘘を言っていない。黙っていたに過ぎない。必須技能があることを。
 目に見えるものが全てではないと御伽街や各セッションで死ぬほど学んだのに。むしろ疑ってかかれと。信じるなと。
 なのに、これまで羊皮紙の導入に不正があったなど聞いたことはなく、そのようなモノだという先入観が育っていた。
 誰も導入の説明を疑うことなどなかった。

《馬鹿だあねぇ? 偽りは、真実の中に交ぜるものさ。.....罠も然り。ま、もう終わりだけど》

「うがあぁぁーーーーっ!!」

 にちゃ.....と誰かのおぞましい笑みを見た気がしたが、鏡の裏側へと引き込まれた彼がそれに気づくことはない。



「次郎が消えたっ?」

 思わず狼狽える、パーティー《神楽坂》の面子。

 事の起こりは半時ほど前。

 海岸で温まり、身の振り方を考えていた七人にGMの指示がくだった。

《このシナリオは朝、昼、夜の三ターン制だよ。それぞれ食事時に申告し、探索や調査を行う。それ以外でも行動は可能だが、ペナルティとして使える技能値は半分になるから。ついでに、まずは持ち物没収ね》

 GMがそう言った途端、翔の鞄や朏のウェストポーチが消える。他の者も同様だ。

「げっ!」

 当麻の肩にかけていた鞄が、ふっと消えた。.....と思えば、祐輔も右手の袖をまくって慌てふためいている。

「うわぁ、俺の仕込み銃がぁっ!」

「.....海関係なのに、銃を仕込んでくんな、馬鹿だろ、お前」

「ちゃんとビニールでコーティングしておいたわっ! 引き金んとこだけ、大きめの鳩目にしてっ!」

 きゃんきゃん泣きわめく祐輔に、なるほどと相づちをうち、朏は笑うGMの声を聞いていた。

《必要な物は、その都度申請して? 常識の範囲なら許可するし、逸脱した物でもダイスしだいで所持可能にするから》

 .....まあ、そんなもんだよね。

 ふと彼女は、情けない顔で天を仰ぐモノノケに気がついた。ポーチの中に御菓子が入っていたことを知るアマビエ様が、非常に切ない顔をしている。不謹慎だがと、朏は少し笑った。

《探索場所は、村、各家々、船、鎮守の森、海岸、.....ってとこか。もし他に気になる場所があれば申請を》

 つらつら並ぶGMの説明。

 それに眉を跳ねあげ、当麻が訝しげな声をあげた。

「多いな。この辺り全域ってことか」

 言われて朏も気づく。これまで経験したセッションでは、大抵決まったエリアがあった。でなくば、建物内とかクローズドとか、行ける場所が限られたエリアばかりだ。

「マジでフィールドか。こりゃ、眷族なんかのエンカウントも視野に入れないとだな」

 ブツブツ呟き合う朏達。その背後で陽気な声がする。

「あんたら腹は減ってないか? 大したモノはないけど、飯の用意をするぜ?」

 にかっと破顔する海男。彼はカツと名乗り、この村の長の息子だと探索者らに自己紹介した。
 その親切をありがたく受け取った朏達は、彼の家に案内される。

 そこは少し大きな家で、他の苫屋と一線を画した建物だった。
 言うなれば純日本家屋。平屋五十坪もあろうか。部屋数も多そうだ。
 立派な門扉と瓦屋根。染み一つない漆喰の白さが少し異質でもある。まるでついさっき建てたかのような真新しさが。

「さ、足を洗って上がってくれ。塩焼けしたら不味いし、まずは風呂だな」

「塩焼け?」

 言われた意味が分からないらしく、不思議そうな顔の祐輔。

「塩でかぶれることだよ。海の海水は濃いからね。放置すると汗疹みたく赤くかぶれてくるんだわ」

 さらりと答える朏。それに眼を細め、翔が笑う。

「相変わらず物知りだな。助かるよ」

「仮にも雑学99ですから」

 にっと悪戯げに口角を上げた朏だが、そこで再びGMの声が割り込んできた。

《あー、忘れてたわ。それ禁止カード入りね》

 .....なんですとぉぉーっ!!

 ばっと天を仰ぐ探索者達。それを嘲るかのように、GMの声が愉しげに震える。

《ぶ.....くくっ、あーっはっはっ、良い顔するなあ、もう。当たり前じゃない。99なんて数字、反則でしょ?》

「そりゃそうかもだけど......っ!」

 笑いが止まらないGMの正論に、朏は苦虫を噛み潰した。ひとしきり笑って満足したのか、GMは少しだけ譲歩してくれる。

《はあ.....、おっかしー、しょうがないなあ、君は僕のお気に入りだし。ちょっとだけ甘くしてあげようか。幸運半分でダイスして? 成功で1D4、失敗で0ね》

 .....南無三っ!

「ダイスっ!」

 言われたとおり振った彼女の出目は二十六。

《ま、成功するよね。んじゃ1D4で、どぞ》

 再び振られたダイス目は4だった。

《うえっ? ホント、呆れるくらい運が良いね。おけ、このセッション中、四回だけ雑学使っても良いよ》

「うひゃ.....ぁぁ、よかったぁぁ」

 安堵のあまり、思わず朏は頽れた。

 .....や.....ったぁ。たった四回でも無いよりマシだわ。

 あからさまに脱力する彼女を見て、周囲の人々が疑問を口にする。

「99? 雑学? なんのこった?」

「いや、それより何よ、今のダイス」

「GMと一騎打ちしたみたいだけど、何があったんだ?」

 あれやこれやと質問され、朏は致し方なしに自分のチートじみた技能を説明する。



「「「「技能99ぅぅっ??」」」」

 驚愕の顔を隠さずに叫ぶ《神楽坂》のメンバー。それはそうだろう。ある意味、無敵の数字だ。チートと言われても反論出来ない。

「そりゃ制限されるわ。技能は、ポイントを極振りしても上限90って決まってるはずだし」

「例外は、星のクローズドで受けた判定だけだろ? それで翔も幸運97だって聞いたぞ?」

「97っ?」

 .....アタシより高いじゃん。どうりで。

 初回の洞窟ミッションの時、幸運半分でダイスの42を上回れたわけである。
 思わず感嘆の眼差しで翔を見上げる朏を凝視し、賢が思案げに呟いた。

「それって、もしかして最初からか?」

「え? あ、うん。多分? ギルドに登録したばっかな時に気づいたから」

「.....ってことは、リアル数値か。現実世界の数値は、上限設定に引っ掛からないのかもしれないな」

「あ.....」

 .....そうか。リアル、ベテランの医者で医学に精通した者ならそれに合わせて数値もあがり、状況によっては医学90越えとかあるかもしれない。

「そうだよね。でないと説明つかないし?」

「そうかもな。俺の拳も92だしな」

 さらっと放たれる爆弾発言。

 眼を皿のように見開いた周囲が、一斉に翔を凝視する。
 視線の集中砲火におののきながら、翔は朏を膝にのせて足を洗ってやった。

「ちょっ、自分でやるからっ!」

「洗わせて..... なんか落ち着く」

 .....どういう理屈ーーーーっ?!

 わきゃわきゃ慌てる朏と、相変わらずマイペースな翔。
 通常運行らしい暢気な姿に毒気を抜かれ、はああぁ.....と大仰な溜め息が、そこここから聞こえる。

「お前ら、揃いも揃って..... ま、良いわ。」

「塩かぶれね。風呂の用意もしてくれるみたいだし、ありがたく頂こう」

「...............」

 疲れはてた顔で苦笑いな《神楽坂》の中で、なぜか次郎のみが、据えた眼差しを朏に向ける。
 その鋭い眼光に気づかぬまま、風呂をもらった七人は夕食で探索の相談をした。



「とりあえず村の散策から始めるか?」

「二手に分かれてみたら、どうよ?」

「それならいっそ、三つに分けたほうが良くないか? 朏らに一人多くつけてさ」

 アレコレ相談する《神楽坂》のメンバーに、朏は慌てて口を挟んだ。

「ちょ、待って待ってっ! 探索はなるべく一塊でやるべきだよ。バラけるなんて自殺行為だわ」

 ......特にクトゥルフとかのホラーでは。

 こういった探索は、必要に迫られない限り纏まって行動するのがセオリーだ。どこかで被害者が出ても、バラけているとその原因が分からず同じ轍を踏む可能性がある。
 即死ギミックなどでも、多人数でいれば救出出来るし、罠の発見も容易だ。

 そう説明する朏を見て、《神楽坂》の面子が不思議そうな顔を見合わせた。

「言われてみたら?」

「そうかもな..... なんで今まで気づかなかったんだろう?」

 目から鱗といわんばかりなベテラン探索者らを見渡し、朏は背筋に悪寒を走らせる。

 .....ひょっとして。探索者のセオリーを御存じない?

 まさかと思いつつも、彼女は嫌な予感を拭えないまま、その日の夕食を終わらせた。

 
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