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謎で謎を解く御伽横丁
鏡の裏側 ~みっつめ~
しおりを挟む「深き者.....じゃないな? なんだ? それ」
海に棲まう邪神の一味、深き者。それは半人半魚の異形だ。非常に強靭な身体を持ち、獰猛なほど攻撃性の強い生き物である。
《あんな出来損ないと一緒にするでないわっ! 我は海と人の守り神ぞっ!!》
思わぬ展開に次郎も毒気が抜けたようだ。きゅあきゅあ叫ぶアマビエ様を、物珍しそうな目で凝視している。
「なんか..... 怒ってるか?」
おずおず差し出された祐輔の指に、アマビエの嘴が躍りかかった。
がちんっと音をたてて合わさる鋭い嘴。咄嗟に手を引いておらねば、今頃祐輔の指は流血沙汰になっていただろう。
顔面蒼白で怯える彼を見て、朏は軽く噴き出した。
「アマビエ様は気難しいんだよ。ほらほら、怒らない怒らない。助けにきてくれたの?」
そっと撫でる朏の柔らかな手に気を良くし、アマビエは甘えるように喉を鳴らす。
《無論だ。邪な気配がしたでの。.....そこのも随分な邪悪持ちだがな》
つい.....っとアマビエの視線が動き、鋭い眼光で次郎を射抜く。
.....邪悪持ち? なんだろ、それ。
疑問顔の朏を見上げ、アマビエが淡々とした声で答えた。
《クトゥルフ神話技能よ。こやつ、それが47あるのだ。ある意味、邪神のお気に入りじゃよ》
「いいいぃぃっ?!」
《何を驚くか。翔も持っておるぞ? そなたもな》
思わぬ事実の暴露に狼狽える朏だが、この会話は周囲に理解されていない。それを目敏く察し、彼女は無理やり表情を取り繕った。
「へえ? そうなんだ? 珍しいね」
《まあ、確かに珍しくはあるな。ここには邪神のお気に入りが勢揃いしておるわ。奴らも、これを待っておったであろうしの》
.....も、良いから。お腹一杯っす。情報過多で胸焼けしそうぅぅ。
うんうんと軽く相づちを打ち、朏は懐から出したチョコレートを与えてアマビエを黙らせた。
獲物を見つけて、ギラっと煌めく猛獣の瞳。
《これこれ。その方、いつも気が利くのう。これは妙なる甘味じゃ》
.....そういや、のじゃビエって誰得よ。長生きなせいなのかしら? 口調が古いわよね、この子。
器用に銀紙を剥がしつつ、板チョコをもちゃもちゃするモノノケ様。それを珍しそうに横目でチラ見しながら、《神楽坂》の面子と翔は岸に辿り着いた。
一見して長閑な漁村風の海岸。遠目に見える村には、苫屋が何軒も並んでいる。
しかしそれはどれも朧気で、妙に存在感が薄い。
「とりあえず周囲に目星」
そう賢が呟くと、サイコロが宙に現れ、かららんっと音をたてて転がった。砂浜とは思えない音を余所に、出た目は二十と七。
《成功です。ここは、とある漁村。純朴な人々が生きる、質素な村です》
「周囲に人は?」
《居ますね。皆、作業に没頭していて貴方達に気づいていません》
そうGMが説明した途端、ボヤけていた光景に存在感が与えられる。
何かが収束し、そここであらゆる物が息吹を上げた。
燦々と煌めく陽光。抜ける海風に通うは仄かな火の香り。
村と砂浜の間に蠢く人影が、大きな焚き火を囲んでいた。
虚ろだった風景は、あらゆる物に生気が漲っている。
「.....な。.....こういう。びっくりしたぁ」
「最初は驚くよな。目星を使うまで核心部分は曖昧なんだ」
「へえ..... なんか、TRPGらしい仕様だねぇ。あ、あの人、こっちに気づいたみたい」
真っ白な砂浜と遠くに霞む村。その中間で作業していたらしい人々が、朏達を指差して叫んでいた。
「おおい、大丈夫か? どうしたんだ、びしょ濡れでっ」
素足を砂に咬ませながら駆けてくる男性。赤銅色の肌をした彼は、如何にも海男な体躯で筋骨隆々。
.....短い上着と褌って。テレビの中でしか見たことないかも。
にかっと笑うと真っ白な歯がこぼれ、朏の目に眩しい。
「ああ、助かったよ。俺達の乗った船が事故にあってな。命からがら、ここに流れ着いたんだ」
しれっと導入の羊皮紙にあった説明を口にする賢。それを聞いた男性は、大仰な顔で驚き、朏達を労ってくれる。
「そりゃまた..... 一昨日の嵐か? ありゃあ酷かったからなあ。さ、こっちで火に当たれ? 丁度、海女らのための焚き火を焚いたところだからよ」
こっち、こっちと手招きする男性。これが本当にNPCなのかと、朏は眼をしばたたかせた。
「NPC..... なんだよね?」
「たぶんな。本当のところはどうなのか分からない」
歯切れの悪い翔の言葉に、またもや過剰な反応が返ってくる。
「NPCに決まってんじゃんっ! 仮想世界だよ、そうでもなきゃ、あんなサクサク殺されたりしないだろうがっ!」
ギリギリ奥歯を噛み締めるように吐き捨てる次郎。彼はすでに二年も御伽街に住んでいるのだ。
しかも最前線の攻略組で。きっと朏が想像も出来ないほど、NPCの死に様を見てきたに違いない。
.....どんな修羅場をくぐってきたのさ。あ~、まあアタシらもか。あの洞窟に折り重なった死体が本物だとしたら、やりきれないもんなあ。
はあっと深い溜め息をつき、朏は翔が下ろしてくれるのを待つ。.....が、翔は朏を腕に抱き上げたまま、のしのしと焚き火に向かっていった。
「ちょっ、翔っ? もうダイジョブだから下ろして?」
「いや..... 半分溺れてたし、濡れた服も重いだろう? 俺が運ぶから」
「いぃぃっ?!」
暴れる彼女をモノともせず、翔は焚き火に向かう。それに眼を据わらせて、賢が翔の腕を掴んだ。
「下ろしてやれって。恥ずか死ぬぞ? 朏が」
「へ?」
.....ありがとう、賢さんっ! 死ぬっ! 抱っこされて移動とか、マジで恥ずか死ぬっ!!
パニック状態で、あわあわする朏の内心を代弁してくれた賢に感謝しつつ、朏は、ようとして外されない翔の腕で必死に足掻いた。
すっとんきょうな顔のまま朏を見た翔は、その小さな身体を真っ赤にして俯く小動物を見つける。
腕の中のモノノケをぎゅっと抱き締めて縮こまる姿は、如何にも可憐で、翔の眼を鋭く射た。
.....可愛いな。いつもの勇ましい彼女が嘘みたいだ。
予期せぬ眼福をいただき、うっとり蕩けた顔をするバーサーカー。
それに呆れを通り越した祐輔が、翔の脳天に拳骨を御見舞いするべくダイスを振る。
「GM、申請だ。拳でダイスっ!」
《許可する。失敗で0。成功で1D4、クリティカルなら+1D4》
ダイス成功の擬音が響き、翔の脳天を見舞う祐輔の拳。
それは非常に良い音をたてて、翔の頭にめり込んだ。
「~~~~~~~~っっ!!」
声のない悲鳴を上げて硬直する翔。
そして弛んだ腕の隙をつき、当麻が朏を翔から奪い取って、すとんっと彼女を地面に下ろす。
見事な連携プレーで、ようよう翔の腕から逃げ出せた朏。
「.....ったくっ、ガタイがデカいから、要らん技能使ってまったわっ! うら若き乙女の羞恥心煽ってんじゃねぇよっ! .....目の保養でした。御馳走♪」
ニヤニヤ生ぬるい笑みに囲まれ、いたたまれない朏は、恥ずかしまぎれに焚き火へ駆け出した。
それを残念そうに見送るバーサーカー。
「可愛かったな。うん」
のほほんとした翔の呟きに、《神楽坂》の面子は苦虫を噛み潰す。
「お前.....っ、.....無自覚だもんなあ、二人とも。見てる方が焦れったくて、わきわきするわ」
「同感。だからってちょっかいばかりかけるなよ? こういうのは、そっとしとくモンだ」
訳知り顔で頷き合う《神楽坂》のメンバー。
「セッション入ると、妙に神経がおかしくなるしな」
「それそれ。やけに神経が鋭敏になるというか。本能が刺激されている感じ?」
「次郎の癇癪もソレだろうしな」
先程から変に噛みつく弟を見やり、太郎が意味深な笑みを浮かべる。兄弟の勘なのか、何となく感じるモノがあるようだ。
「癇癪なんて.....っ! あの恵まれた女を見てると、何かイラつくんだよっ!」
朏が絡まなくったって、セッションに入った次郎が、やたら怒りっぽくなることを仲間は知っていた。
なので、彼が悪態をつく姿にも慣れたもの。特に思うところはない。
「俺もなぁ。こう、地味~に破壊衝動が増す気がしてんだよ。何でもかんでも壊して中身を確認してみたいような?」
「ああ、分かるわ」
「それ、たぶん、ここにいるメンバー全員感じてる感覚。うん」
これを朏が聞いていたなら、知らぬが仏と思ったことだろう。
アマビエ様の暴露により、彼女は知っていたから。ここにいる面子全てが、邪心のお気に入りなことを。
クトゥルフ神話技能、四十前後。
これが、ここに揃った人間達に共通する特異点だった。.....朏を除いて。
《君に加護をあげたいんだけど。.....SAN値、九十二って何さ。つけいる隙が八しかないじゃん。ん、もうっ!》
そう呟く、どこかの誰か。
その誰かは、ほんの少ししかない朏のスペースに、ちょいちょいと己の加護を詰め込んでいた。
こうして、何も知らない朏達のセッションが始まる。
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