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【グランツには目を覚まして欲しい】
急に希望が見えてきちゃいましたね
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走り去ったアビゲイルを追いかけながら、私は考える。
もう姿は見えないけど、食堂の方面に向かって走って行ったから、アビゲイルを見つけることはできると思う。重要なのは、アビゲイルと合流した後だ。
グランツになじられたことがショックでアビゲイルは逃げたんだと思うけど、彼女をどう言って慰めようか。グランツはアビゲイルのことを好きでやきもち焼いてたんだよと伝えたとしても、アビゲイルは信じそうにないしな。
そもそもずっと女遊びの激しかったグランツがアビゲイルの事を好きだなんて言ったって、誰も信用しないと思う。でも、さっきのあの台詞、どう考えてもアビゲイルが他の男に好意を寄せることに対する嫉妬だよね? その嫉妬は見当違いなものなんだけどさ。
グランツとアビゲイルをきちんと話しあわせる必要があるけど、婚約の話が出てるのにまとまってないようなじれったい二人が、ふたりきりで話させた所でうまく行くと思えない。素直になれ、って伝えては置いたけど、今までの態度からしてグランツがアビゲイルにまっすぐに好意を伝えるとも思えないしね。
そんなことを考えていると、アビゲイルが食堂前の柱の影で立ち止まっているのが見えた。髪を切ったアビゲイルは目立つから、周りの生徒がチラチラと様子をうかがいながら通り過ぎていく。目立たない場所に逃げ込むことだって出来ただろうに、きっと私たちを待たせるのは悪いと思って食堂まで来てくれたんだな。
「アウレウス、先に食堂入っててくれる?」
「しかし……」
私から離れるのを渋るアウレウスに、私は首を振った。
「すぐに行くから。テレンシアも待ってるだろうし、お願い」
「わかりました」
頷いてアウレウスは食堂に入って行った。本当にアウレウスって学園に居る間はずっと一緒に居てくれるよね。フラグ避けになったのは実技の授業のペアの時だけな気がするから、これからはそんなに一緒に居てもらわなくてもいいのかな?
それよりも、今はアビゲイルのことだ。柱の影に隠れるようにして震えているアビゲイルに、そっと近づく。
「……アビゲイル」
小さく声を掛けたが、きちんと聞き取れたらしい。アビゲイルはぴくりと震えたが、こちらを振り向かなかった。肩が震えているから、きっと泣いているに違いない。
好きな人を振り向かせるために整えた容姿を、別の人のためだと誤解されたら、やっぱりショックだろうな。本当はここで追いかけるべきなのはグランツだよね? 女たらしのくせにポンコツじゃない? 私を口説いているのがアビゲイルへのあてつけなんだと思えば、幼稚すぎて笑えちゃうけど、好きな女の子を泣かせるのは絶対に許せないよね。
「……ご、ごめんなさい、私……」
「アビゲイルが謝ることなんて何にもないよ。ねえ、アビゲイル。……ゲムマさんのことは、誤解を解けば大丈夫、きっと判ってくれるよ」
背を向けたままのアビゲイルにそう言うと、アビゲイルはおずおずと振り向いた。横の髪をかき集めて、顔を隠すようにしているが、涙までは隠せていない。
「……誤解……と、とくなんて、できる、でしょうか……」
「大丈夫だよ、だって今までお弁当を作ってきてたのをずっと、ゲムマさんは受け取ってくれてたでしょう?」
アビゲイルのお弁当じゃなくたって、他の女の子に貢がせることだってできたのに、今まで彼女のお弁当はほとんど断っていなかったようだから、そういうことなんだろうと思う。
「今日のお弁当はちゃんと、受け取ってくれてたよ。後でお弁当箱を受け取りに行くんでしょう? 一人が心配ならついていくからさ。誤解解くのも手伝うし」
「……ほ、本当ですか?」
ぎゅっと握りしめていた髪が、そこでようやく力が弱まる。
「もちろん」
私が力強く頷くと、ゆるゆるとアビゲイルの手が、髪から離れた。まだ彼女の目は充血しているが、ひとまず落ち着いたみたいでよかった。
「ありがとう、ご、ございます」
「じゃあ、ご飯食べよう? せっかく作ってくれた自信作なんだから一緒に食べたいな。いいよね?」
そっとアビゲイルの手を取ると、彼女はようやく少しだけ微笑んだ。それから食堂に二人で入り、アビゲイルの手作り弁当に舌鼓を打って、昼食は和やかに終わった。
それから相談の結果、お弁当を返してもらうのは放課後の補習の後にしようという話になった。その時の話がどう転ぶかは判らないけれど、少なくともアビゲイルが闇落ちしないように、頑張ろう!
グランツとの恋愛イベントは昨日こなしたし、あれでグランツの恋愛フラグが折れたことになれば、これ以上恋愛イベントは発生しないはず。それから、アビゲイルとグランツは両想いなんだし、二人がくっついてしまいさえすれば、アビゲイルが闇落ちすることは絶対ないよね? 昨日はどうなることかと思ってたけど、急に希望が見えてきちゃいましたね! グランツの恋愛フラグもアビゲイルの闇落ちフラグも折れて、二人も仲良くなって一石三鳥じゃない? 気合い入れて行こう!
もう姿は見えないけど、食堂の方面に向かって走って行ったから、アビゲイルを見つけることはできると思う。重要なのは、アビゲイルと合流した後だ。
グランツになじられたことがショックでアビゲイルは逃げたんだと思うけど、彼女をどう言って慰めようか。グランツはアビゲイルのことを好きでやきもち焼いてたんだよと伝えたとしても、アビゲイルは信じそうにないしな。
そもそもずっと女遊びの激しかったグランツがアビゲイルの事を好きだなんて言ったって、誰も信用しないと思う。でも、さっきのあの台詞、どう考えてもアビゲイルが他の男に好意を寄せることに対する嫉妬だよね? その嫉妬は見当違いなものなんだけどさ。
グランツとアビゲイルをきちんと話しあわせる必要があるけど、婚約の話が出てるのにまとまってないようなじれったい二人が、ふたりきりで話させた所でうまく行くと思えない。素直になれ、って伝えては置いたけど、今までの態度からしてグランツがアビゲイルにまっすぐに好意を伝えるとも思えないしね。
そんなことを考えていると、アビゲイルが食堂前の柱の影で立ち止まっているのが見えた。髪を切ったアビゲイルは目立つから、周りの生徒がチラチラと様子をうかがいながら通り過ぎていく。目立たない場所に逃げ込むことだって出来ただろうに、きっと私たちを待たせるのは悪いと思って食堂まで来てくれたんだな。
「アウレウス、先に食堂入っててくれる?」
「しかし……」
私から離れるのを渋るアウレウスに、私は首を振った。
「すぐに行くから。テレンシアも待ってるだろうし、お願い」
「わかりました」
頷いてアウレウスは食堂に入って行った。本当にアウレウスって学園に居る間はずっと一緒に居てくれるよね。フラグ避けになったのは実技の授業のペアの時だけな気がするから、これからはそんなに一緒に居てもらわなくてもいいのかな?
それよりも、今はアビゲイルのことだ。柱の影に隠れるようにして震えているアビゲイルに、そっと近づく。
「……アビゲイル」
小さく声を掛けたが、きちんと聞き取れたらしい。アビゲイルはぴくりと震えたが、こちらを振り向かなかった。肩が震えているから、きっと泣いているに違いない。
好きな人を振り向かせるために整えた容姿を、別の人のためだと誤解されたら、やっぱりショックだろうな。本当はここで追いかけるべきなのはグランツだよね? 女たらしのくせにポンコツじゃない? 私を口説いているのがアビゲイルへのあてつけなんだと思えば、幼稚すぎて笑えちゃうけど、好きな女の子を泣かせるのは絶対に許せないよね。
「……ご、ごめんなさい、私……」
「アビゲイルが謝ることなんて何にもないよ。ねえ、アビゲイル。……ゲムマさんのことは、誤解を解けば大丈夫、きっと判ってくれるよ」
背を向けたままのアビゲイルにそう言うと、アビゲイルはおずおずと振り向いた。横の髪をかき集めて、顔を隠すようにしているが、涙までは隠せていない。
「……誤解……と、とくなんて、できる、でしょうか……」
「大丈夫だよ、だって今までお弁当を作ってきてたのをずっと、ゲムマさんは受け取ってくれてたでしょう?」
アビゲイルのお弁当じゃなくたって、他の女の子に貢がせることだってできたのに、今まで彼女のお弁当はほとんど断っていなかったようだから、そういうことなんだろうと思う。
「今日のお弁当はちゃんと、受け取ってくれてたよ。後でお弁当箱を受け取りに行くんでしょう? 一人が心配ならついていくからさ。誤解解くのも手伝うし」
「……ほ、本当ですか?」
ぎゅっと握りしめていた髪が、そこでようやく力が弱まる。
「もちろん」
私が力強く頷くと、ゆるゆるとアビゲイルの手が、髪から離れた。まだ彼女の目は充血しているが、ひとまず落ち着いたみたいでよかった。
「ありがとう、ご、ございます」
「じゃあ、ご飯食べよう? せっかく作ってくれた自信作なんだから一緒に食べたいな。いいよね?」
そっとアビゲイルの手を取ると、彼女はようやく少しだけ微笑んだ。それから食堂に二人で入り、アビゲイルの手作り弁当に舌鼓を打って、昼食は和やかに終わった。
それから相談の結果、お弁当を返してもらうのは放課後の補習の後にしようという話になった。その時の話がどう転ぶかは判らないけれど、少なくともアビゲイルが闇落ちしないように、頑張ろう!
グランツとの恋愛イベントは昨日こなしたし、あれでグランツの恋愛フラグが折れたことになれば、これ以上恋愛イベントは発生しないはず。それから、アビゲイルとグランツは両想いなんだし、二人がくっついてしまいさえすれば、アビゲイルが闇落ちすることは絶対ないよね? 昨日はどうなることかと思ってたけど、急に希望が見えてきちゃいましたね! グランツの恋愛フラグもアビゲイルの闇落ちフラグも折れて、二人も仲良くなって一石三鳥じゃない? 気合い入れて行こう!
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