転生したら乙女ゲームのヒロインでしたが逆ハーレムはお断りしたいので闇落ち悪役令嬢のフラグを叩き折ることにします!

かべうち右近

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【グランツには目を覚まして欲しい】

アウレウスにお説教されちゃった

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 馬車に着くと、アウレウスは私を抱きかかえたまま乗り込んだ。そして私を座席に降ろさずに、アウレウスの横抱きの状態で膝に座らせるような形で腰を降ろす。

「私一人で座れるよ」

「だめです。まだ身体に力が入らないのでしょう? 一人で座るなんて危ないですよ」

 言下に拒絶されて、アウレウスはしっかりと私の腰を固定した。そうしてそのまま馬車は動き始める。物凄く恥ずかしいけど、悲しいかな、抵抗する力が出ない。アウレウスに素直に従った方がいいかも……。

「うん……」

 私が頷くと、アウレウスはそのまま黙り込んでしまう。

「……アウレウス、やっぱり怒ってる?」

 沈黙の降りた車内で、抱きかかえられたまま私はアウレウスの横顔にそっと尋ねた。少し怒っている、とさっき自分で言ってたけど、二人でいるにも関わらずこんなに黙ってるアウレウスは珍しい。少しどころか結構怒ってそう。

「……説教は後日すると言いましたよ」

 怒っているらしい、アウレウスはまっすぐに前を向いたまま、静かにそう言った。

「身体に力は入らないけど、話はできるよ」

「……」

 今度は無視だ。返事の代わりに、私の身体を支える手の力が強くなった。

「ごめん」

「何に謝るのです」

「私がアウレウスが止めるのを聞かなかったから怒ってるんだよね?」

 横顔を見つめたままそう聞くと、アウレウスは深々と溜め息を吐いた。

「貴女が言う事を聞かなかったから怒っているのだと?」

「そうじゃないの?」

 私の言葉に、アウレウスはゆっくりと私の方に顔を向ける。

「説教は、後日と言いましたけど。貴女は何も判っていない」

 そう言った彼は、眉間に皺を寄せていた。

「あの時、アビゲイル嬢は得体の知れない魔力を帯びていました。その上、その魔力は貴女を拒むようにはじき飛ばした。危険だとは思わなかったのですか?」

「でも、あのままじゃアビゲイルが……」

「貴女の身の危険の話をしているんです」

 強い語気で遮られて、私は黙る。

「……私はモンスターを見たことがありません。しかし、神官としてどういうものなのかは学んでいます。あれは、どの属性でもない魔力でした。そして、文献に記された生き物がモンスターになる前兆に酷似していました」

 アウレウスは、アビゲイルがモンスター化しそうになってたことを、判っていたんだ。

「そのご様子では、クレア様も彼女がモンスターになりそうだったのを気付いていたのでしょう?」

「うん……だから」

「では何故、彼女に近づこうとしたのです」

 モンスターになって欲しくなかったから。そんなの判り切ってるのに、何でこんなことを聞くんだろう。

「……どうして、彼女がモンスターになると判っていて、その身を危険に晒そうとしたのですか」

 アウレウスは眉間の皺を深くした。意味が判らない。だって。

「アビゲイルが死んでたかもしれないのに?」

「貴女だって死ぬ所でした!」

 叫ばれて、ぽかんとする。

「クレア様は聖女です。いらっしゃるだけでモンスターの発生を抑制する。そして聖属性の魔力は、モンスターの力を削ぎ、滅します。けれど、聖女は魔力が特別なだけで、その身体は普通の人間と同じなのです。あのままモンスター化したアビゲイル嬢に襲い掛かられていたら? その凶刃が貴女の喉に届いていたら? 死んでいたかもしれないとは思わないのですか?」

「それ、は……」

 アビゲイルの闇落ちをなんとかするのに必死で、そんなことは思い付きもしなかった。答えない私に、アウレウスは奥歯をギリ、と鳴らした。

「たまたま運よく、貴女は聖属性魔法を発動できた。そして幸運にも、アビゲイル嬢はモンスター化を免れた。でも、貴女はあのような危機に瀕したときに、避難すべきだったのです。安全を確保し、私に守られるべきだった。……私は補佐ですが、護衛でもあるんですよ。もっと、私を頼ってください」

 アウレウスは、私の肩に顔を埋めるようにして抱きしめてきた。懇願にも似たその声と、腕に込められる力に、やめてと言いにくい。

「ごめん……。危ない時は、次は頼るよ。聖女が死んだら、だめだもんね」

 私が謝ると、肩に乗ったアウレウスの頭がぴくりと動く。そしてゆっくりと顔を上げてまじまじと私を見つめてきた。抱きかかえられてるから仕方ないけど、顔が物凄く近い。相変わらず顔がいいなあ。膝抱っことか抱きしめられたりとかの連続で、いい加減顔が熱い。

 必死だったから配慮してなかったけど、そりゃ世界に一人の聖女が危険に晒されたら、困るよね。こんな顔が心配そうにしてくると勘違いしそうになるけど、アウレウスは聖女の補佐と本夫になって覇権握りたいだけだもん、勘違いしちゃだめだわ。それでも心配させたことは事実だもん、悪いことしたな。

「……聖女だから……それはまあ、そうですが……」

「うん、ごめんね。聖女として自覚持つよ」

 私がそう答えると、アウレウスは再び深い溜め息を吐いた。そしてまた私の肩に頭を預けて抱きしめてくる。

「な、なに」

「貴女は本当に判ってらっしゃらない」

 そう言ったアウレウスは、深々とした溜め息をあと二回ほど吐いたが、それ以上何も言わなかった。
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