月と女の子と金色の旅人

かべうち右近

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月と女の子と金色の旅人

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 月と女の子と金色の旅人


 何も無い荒野に小さな家がぽつんと一つ。その家には女の子がたった一人で住んでいる。気付いた時は女の子は一人ぽっちで、一人ぽっちの荒野に一人ぽっちで住んでいた。

 ある夜のこと。細い細いお月様が眠たくなってあくびをしていたら、視界の端に泣いている女の子がいた。

「どうしたんだい?悲しいのかい?」

 お月様は慌ててそう聞いた。

「わからないわ。かなしいってなあに?」

 女の子は泣きながら答える。お月様は黙ってしまって女の子は泣きつづける。

「楽しいことを考えたらどうだい?」

 お月様は次にそう聞いた。

「たのしいってなあに?わからないわ」

 けれど女の子は答えて泣くばかり。

 結局眠気に耐えられずにお月様はお天道様を起こして寝てしまった。

 次の日はお天道様がさんさんと荒野を照らしていた。今日も女の子は一人ぽっちの荒野で一人ぽっちで何も無い荒野を眺めていた。

 一日がまた一人ぽっちで終ろうとしていた。ところがお天道様があくびをし始めて、お天道様が寝ようとしたとき、一人ぽっちの筈の荒野に女の子とは違った影が映った。

 銀色の髪をした綺麗な旅人だった。

 その日。女の子は一人ぽっちじゃない荒野で一人ぽっちじゃない夜を過ごした。

 旅人は女の子にいろいろな事を聞かせた。蝶のこと、花のこと、山のこと、海のこと、人のこと、町のこと。全部、一人ぽっちの荒野にはないものばかり。女の子は次のお話を聞きたくて「早く早く」と旅人にせがんだ。

「楽しいかい?」

 女の子の様子に旅人が嬉しそうに女の子に聞いた。

「たのしいってなあに?」

 首を傾げて女の子が聞き返すと、旅人は笑って言った。

「今のことだよ」

 それを聞くと女の子も旅人と一緒に笑った。

 その日の夜はお月様は空に居なかった。

 旅人のお話で夜が明けると、女の子は疲れて眠ってしまった。そして女の子が昼に目覚めた時には、旅人は消えていた。

「どうしていなくなっちゃったのかしら」

 首を傾げて女の子が言うと、またお天道様があくびをし始めた。すると一人ぽっちだった荒野にまた旅人が現れた。

 女の子は喜んでまたお話を聞かせて欲しいとせがんだ。けれど旅人は困った顔をして、こう言った。

「今日はあんまりお話を出来ないんだ」

「どうして?」

 女の子が聞いたけれど、旅人は教えてくれなかった。

 その日も旅人はお話を始めた。けれど、すぐにお話は終った。

 そろそろお天道様がお月様を起こそうとしている。

「もう帰らないと」

 旅人は慌てて言った。空ではお天道様が眠そうにしている。

「またきてくれる?」

 今日の昼には姿が消えていたけど、また来たから、女の子は旅人が明日も来てくれると思った。

「もう来れない」

 旅人がそう言うと、女の子は泣き出した。

「どうしてきてくれないの?」

 泣きながら女の子は言う。旅人は優しく女の子の頭を撫でた。

「悲しいっていうのは、こう言う事を言うんだよ」

 旅人はそう言って、女の子の前から消えた。

 女の子はまた泣いていました。その日の夜は、細い細いお月様が空にいました。お月様は女の子が泣いているのをまた見つけました。

「どうして泣いているんだい?」

 お月様は優しく聞いた。

「かなしいの」

 女の子は泣きながら答えた。

「どうして悲しいの?」

 銀色のお月様は優しく聞く。

「旅人さんが来てくれないから」

「それはね、寂しいっていうんだよ」

「さびしい?」

 女の子は首を傾げた。

「そう、寂しい。けれど、もう大丈夫だよ。私がずっと一緒にいてあげるから」

 ふわふわとお月様が笑った。

「それって、かなしくないの?」

「悲しくないし、寂しくもないよ。あったかくて、楽しい事だよ」

 お月様がそう言うと、女の子はたちまち元気になって笑った。

「それって素敵ね」

 にっこりと笑って女の子が言うと、お月様も笑った。

 その日から、一人ぽっちだった荒野は、一人ぽっちじゃない荒野になった。お月様と、女の子が二人。女の子は、夜に泣く事が無くなった。
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