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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)
二十六話『生きたいという意志』
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旅行が終わり花は早速、日本橋にある達哉の店に向かった。
「・・・頼ってくれて、ありがとう。花ちゃん」
達哉は微笑んだ。
そして、順一の病状を書いた帳面を身て、深い溜息を吐く。
「どう?」
花は訊ねる。
「結論から言って、症状を緩和する薬剤を調合は出来るよ。だけどね、完治は難しいと思う」
「・・・やっぱり?」
花の顔が、泣きそうに歪んだ。
「悔しいよ。せっかく、お花ちゃんが僕を頼りにしてくれたのに、治せるって言えないんだもの。僕も漢方医として、相当な勉強と修行は積んだけれど。病を完全に治すまでには至らない」
「達哉さん」
「ごめんね。僕が出来るのは、再発を出来るだけ、遅らせることくらい」
花がふるっ、と涙目になる。
「だめ、なの?」
ぐす、と鼻を鳴らす。
「一度、その方に来て頂けたなら。詳しい話を聞いて、症状や体調を見ないと。腰痛や骨折みたいな、軽いものじゃないから・・癌は」
「わかりました」
ーーーありがとう。
一礼し、花は店を出た。
ふるふると震える後ろ姿に、達哉は胸が痛んだ。
「大切なんだな、その人」
やっと、幸せを掴んだばかり、やっと笑顔になれた花。その花から、また笑顔を奪う出来事が起きようとしている。
「神様はどうして、お花ちゃんに意地悪するんだ」
◇◇◇✢✢◇◇◇
「どうでしたか・・・って、聞くまでもありませんね」
花の泣き腫らした瞳に、義孝は質問を飲み込んだ。
「ずっと、泣いているのよ。うちに帰るなり、わああん!って」
千代の言葉に、言葉をなくす。
ーーーおじちゃん。
「一度、磯崎准将と話せれば、調合出来るかもって、薬屋さんが」
「出来るのですか?」
「わからない、達哉さんは再発を遅らせるとか・・・悪化を抑えるくらいには」
「それでもすごいですよ」
「義孝さん、おじちゃんに」
涙がこぼれ落ちる。
「わかりました」
義孝は電報を出した。
「准将が応じてくだされば良いですが」
「・・・」
花の瞼に浮かぶは、優しい順一の笑顔だ。豪快で男気があって、優しい順一が大好きだった。
そして、義孝の電報は京都の片田舎にいる、順一に届いた。
「花ぼうの、友達がな」
こんな、ジジイに。
その目が、何十年ぶりかに潤む。最後に潤んだ記憶を遡れば、きっと彼の妻が亡くなった二十年前になる。
「いつ、死んでも構わねえと、親は死んでいねえし。親類なんて、いても居ないのと同じでな。あの日・・・女房が死んだ時に考えた。あとは後進の指導だけ終えて、引退したら。いつ死んでも」
肩が震えていた。
ーーーありがとう。
順一が、深く頭を下げた。
「チンケな生命だが、精一杯、生きる努力をしよう。だから、花ほう」
「はい」
「もう、泣くな」
ふ、と泣きそうに歪む。
「おじちゃん」
「あんまりなくと、目を痛めるぞ」
「・・・えっ」
花が声を上げて、泣いた。
ーーーー死なないで!
「もう、嫌なの!」
泣きじゃくる花の背を、無骨な手のひらが優しく撫でた。
「大好きな人が、そんな、もう嫌なの!」
「わかった」
ありがとう。
順一の目から、透明な光が落ちる。
こうして、達哉による問診が始まった。
「では、現在のところは再発や転移は無いのですね?」
「ああ、影がねえ。なあ、俺はまだ、生きられるか?」
「なんとも、ですが・・・僕は、お花ちゃんに泣いてほしくありません。目の前に、可能性のある生命を諦めたくはありません」
「・・・そうか」
順一が笑顔になる。
「なら、努力しねえとな。罰が当たる」
「ええ」
達哉が笑った。
「大事なのは、磯崎さんの生きたいという意志です。それの手伝いを、僕達漢方医はするだけなんです」
「生きる意志ねぇ」
「軍人も、ではないですか?負けると思えば、勝てる勝負も運気が下がるでしょ」
「たしかに」
「医者は生きたいと、元気になりたいと患者が思わなければ、治療が出来ません」
「なるほど。だから、話がしたいって、京都に頼りを寄越したのか」
「はい」
達哉が頷いた。
「で、時に、花ぼうのどういう仲だ」
「昔馴染みです」
「恋慕は」
「前は、ちょっと。だけど、今はありません。普通に友達として、力になりたいです」
「そうか・・・なら、いい」
「え?」
「義孝の奴が、お前さんにヤキモチ焼いたらしい。俺のダチがなぁ・・・くくっ」
えっ、まさか?
「な、有り得んだろ?軍令部全体に、不機嫌な雰囲気を出していたらしい」
「あはは」
「でな、ダチが『貴様、何を不機嫌になっとるか!』と説教したらしい」
「あはは!あの、紳士な旦那様がね」
「いやぁ、奴は存外・・・ガキだぞ。花ぼうに関しては、独占欲丸出しで」
へくしっ。
「義孝さん、風邪ですかぁ?」
潤々の目で、花が気遣う。
「いえ、大丈夫です」
「良かったぁ」
笑顔がほころぶ。
「あの二人の幸せを、壊したくはありませんから」
「いい、ダチを持ったな。花ぼうは」
順一が微笑んだ。
「先生、よろしく頼みます」
深く頭を下げたのだった。
「・・・頼ってくれて、ありがとう。花ちゃん」
達哉は微笑んだ。
そして、順一の病状を書いた帳面を身て、深い溜息を吐く。
「どう?」
花は訊ねる。
「結論から言って、症状を緩和する薬剤を調合は出来るよ。だけどね、完治は難しいと思う」
「・・・やっぱり?」
花の顔が、泣きそうに歪んだ。
「悔しいよ。せっかく、お花ちゃんが僕を頼りにしてくれたのに、治せるって言えないんだもの。僕も漢方医として、相当な勉強と修行は積んだけれど。病を完全に治すまでには至らない」
「達哉さん」
「ごめんね。僕が出来るのは、再発を出来るだけ、遅らせることくらい」
花がふるっ、と涙目になる。
「だめ、なの?」
ぐす、と鼻を鳴らす。
「一度、その方に来て頂けたなら。詳しい話を聞いて、症状や体調を見ないと。腰痛や骨折みたいな、軽いものじゃないから・・癌は」
「わかりました」
ーーーありがとう。
一礼し、花は店を出た。
ふるふると震える後ろ姿に、達哉は胸が痛んだ。
「大切なんだな、その人」
やっと、幸せを掴んだばかり、やっと笑顔になれた花。その花から、また笑顔を奪う出来事が起きようとしている。
「神様はどうして、お花ちゃんに意地悪するんだ」
◇◇◇✢✢◇◇◇
「どうでしたか・・・って、聞くまでもありませんね」
花の泣き腫らした瞳に、義孝は質問を飲み込んだ。
「ずっと、泣いているのよ。うちに帰るなり、わああん!って」
千代の言葉に、言葉をなくす。
ーーーおじちゃん。
「一度、磯崎准将と話せれば、調合出来るかもって、薬屋さんが」
「出来るのですか?」
「わからない、達哉さんは再発を遅らせるとか・・・悪化を抑えるくらいには」
「それでもすごいですよ」
「義孝さん、おじちゃんに」
涙がこぼれ落ちる。
「わかりました」
義孝は電報を出した。
「准将が応じてくだされば良いですが」
「・・・」
花の瞼に浮かぶは、優しい順一の笑顔だ。豪快で男気があって、優しい順一が大好きだった。
そして、義孝の電報は京都の片田舎にいる、順一に届いた。
「花ぼうの、友達がな」
こんな、ジジイに。
その目が、何十年ぶりかに潤む。最後に潤んだ記憶を遡れば、きっと彼の妻が亡くなった二十年前になる。
「いつ、死んでも構わねえと、親は死んでいねえし。親類なんて、いても居ないのと同じでな。あの日・・・女房が死んだ時に考えた。あとは後進の指導だけ終えて、引退したら。いつ死んでも」
肩が震えていた。
ーーーありがとう。
順一が、深く頭を下げた。
「チンケな生命だが、精一杯、生きる努力をしよう。だから、花ほう」
「はい」
「もう、泣くな」
ふ、と泣きそうに歪む。
「おじちゃん」
「あんまりなくと、目を痛めるぞ」
「・・・えっ」
花が声を上げて、泣いた。
ーーーー死なないで!
「もう、嫌なの!」
泣きじゃくる花の背を、無骨な手のひらが優しく撫でた。
「大好きな人が、そんな、もう嫌なの!」
「わかった」
ありがとう。
順一の目から、透明な光が落ちる。
こうして、達哉による問診が始まった。
「では、現在のところは再発や転移は無いのですね?」
「ああ、影がねえ。なあ、俺はまだ、生きられるか?」
「なんとも、ですが・・・僕は、お花ちゃんに泣いてほしくありません。目の前に、可能性のある生命を諦めたくはありません」
「・・・そうか」
順一が笑顔になる。
「なら、努力しねえとな。罰が当たる」
「ええ」
達哉が笑った。
「大事なのは、磯崎さんの生きたいという意志です。それの手伝いを、僕達漢方医はするだけなんです」
「生きる意志ねぇ」
「軍人も、ではないですか?負けると思えば、勝てる勝負も運気が下がるでしょ」
「たしかに」
「医者は生きたいと、元気になりたいと患者が思わなければ、治療が出来ません」
「なるほど。だから、話がしたいって、京都に頼りを寄越したのか」
「はい」
達哉が頷いた。
「で、時に、花ぼうのどういう仲だ」
「昔馴染みです」
「恋慕は」
「前は、ちょっと。だけど、今はありません。普通に友達として、力になりたいです」
「そうか・・・なら、いい」
「え?」
「義孝の奴が、お前さんにヤキモチ焼いたらしい。俺のダチがなぁ・・・くくっ」
えっ、まさか?
「な、有り得んだろ?軍令部全体に、不機嫌な雰囲気を出していたらしい」
「あはは」
「でな、ダチが『貴様、何を不機嫌になっとるか!』と説教したらしい」
「あはは!あの、紳士な旦那様がね」
「いやぁ、奴は存外・・・ガキだぞ。花ぼうに関しては、独占欲丸出しで」
へくしっ。
「義孝さん、風邪ですかぁ?」
潤々の目で、花が気遣う。
「いえ、大丈夫です」
「良かったぁ」
笑顔がほころぶ。
「あの二人の幸せを、壊したくはありませんから」
「いい、ダチを持ったな。花ぼうは」
順一が微笑んだ。
「先生、よろしく頼みます」
深く頭を下げたのだった。
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