身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

文字の大きさ
29 / 116
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

二十六話『茸の毒』

しおりを挟む
 夕刻になり、義孝がいつも通りに仕事を終えた。しかし、いつも通りに出迎えた花が、義孝の顔を見て戸惑う。
「あの・・・義孝さん?どうかされましたか?」
「はて、どうかしたように見えますか」
 義孝が微笑みながら言う。
 一瞬その様子に躊躇ったものの、花は思い切って伝えることにした。
「なんだか、難しい顔をされているように見えたもので」 
 明らかに悩むような、疲れているような、そんな表情。それを指摘した花に、義孝が苦笑する。
「分かってしまうものなのですね。普通にしていたつもりだったのですが、ああ・・・花さんは無関係ですからね」
 花をじっと見て、何やら考え込んでいる。その視線に、花の背筋が自然と伸びた。
 義孝に見つめられていると、なんだか落ち着かない気持ちになる。海軍の新兵達も同じ気持ちなのだろうか、と花が考えていた時だった。
「・・・花さん」
「は、はい?」
「少し、話しを訊いてもらってもいいですか?」
 義孝の申し出に、花は目をぱちくりさせた。
「話ですか?私で良ければ」
「お願いします」
 義孝はスーツ姿のまま、居間へと移動した。
 そうして花は、ちゃぶ台を挟んで座る彼から、緊張しつつ話しを聞くことになった。
 話の内容は、とある艦船内にて最近になり船酔いを起こす、乗員が増えているというものだった。
 今日、軍司令部の部下から義孝の耳に入ったという。一番酷い症状を訴えたのが艦長だという話や、噂を教えてくれた部下との会話後に他の者に訊ねて集めた詳細な情報・・それらも、機密情報に当たらぬ範囲内で、彼は花に話した。
「今の話で、何か気付くことがあれば、教えてはもらえませんか」
 花は顎先に手を当て考える。
「最近・・・ということは、以前はそのようなことはなかったということですね?」
「通常とは異なる様子で、軍医にも原因がわからないそうです。感染症が流行っている様子にもなくて」
「原因・・・」
 花は、聞いた話の内容を頭の中で反芻する。通常よりも多い、謎の船酔い。
 軍医にも解らない原因、感染症でもない。不調が出るのは、艦の乗員全てではなく、その一部。そして、一番酷い症状なのは艦長・・・。
「―――以前、お義母さんより聞いたのですが、艦内では士官以上の方と一般の海兵さんでは、お食事の内容が異なるそうですね」
「ええ」
「使う食材は、同じなのでしょうか?」
「食材は、特に違いはないかと」
「なるほど。では、お食事の際には皆さん、お酒は飲まれますか?」
「士官の昼食の際には、軽めの酒がメニューに含まれています。一般の兵は、戦闘に備えて常飲するわけにはいきませんが、士気を保つために適度飲む機会は設けられています。基本は、艦内で保酒を開けた際に、必要な者はそこで購入して飲んでいますよ」

 保酒とは、軍の内部に設けられた日用品や、嗜好品を売る売店のことだ。海軍では軍艦の中にも存在している。
 そこで並ぶ品の管理は、艦の艦長と副長を筆頭に据え酒保委員が行っており、販売も士官の中から選ばれた酒保長が補佐の兵と共に行っていた。
「ただ酒に関しては、酒の購入できる規定がありますね」
 義孝のその補足に、ふむ、と花は考える。
「・・・・ということは、『お酒が原因ではない』と軍ではお考えなのですね」
「ええ。症状が醉いということで、酒は真っ先に疑ったようです。不調を来した者は酒を飲んでおりましたが、飲んだ者全員が不調という訳ではありません。また、兵が規定の量を超えて飲んだりはしていないようです」
「なるほど、節制はされていたのですね」
 艦長も、大量の酒を飲んだりはしていない。ということは、乗員を襲った船酔いは、酒の飲み過ぎが原因ではない。
 そこまで考えて花は、あることに思い至る。
「・・・茸」
「きのこ?」
「茸の中では、食い合わせが悪い場合にのみ中毒症状を起こすものがあります。特に、お酒と一緒に食べた際に危険な症状が出ることもあると・・・お酒を飲み過ぎるなど、悪酔いしたのと同じ状態になるのだと」
「船酔いではなく、食した茸によって増強された酒の悪酔い、そういう可能性がある、ということですか」
「そうです。お酒を飲まなければ、問題なく食せることから、毒茸ではないとされている種類もあります。例えば、ヒトヨタケなど、味が悪くないものなら地域によっては普通に食されているそうです」
「・・・なるほど。それなら、辻褄があう」
「思い当たることがございますか?」
 納得する義孝に、花は訊ねた。
「ええ、艦内でも食材として茸が使われることはあります。それに、重い症状が出たのは、艦長をはじめ、将校達だけだったのですが、下戸の副長だけは元気だったようで・・・そうか、それなら・・・」
 義孝は何やら思い当たることがあったのだろう。神妙な顔で頷く。
「花さん、すぐに出ている症状を抑えるなど、対処法はあるでしょうか?」
「原因が何かハッキリしないので一概にはいえませんが・・・もし、私が想定するのと同じ症状ですので、同じように対処すれば醉いが抜けるのも、早くなるかと思います」
「水を飲む、日光などの刺激のない場所で休ませるなどでしょうか」
「ええ。早急に体内からアルコールを抜くということが、肝要かと。それから・・・酒醉いというのは、頭痛と吐き気などは不調の理由がそれぞれ異なるそうです。なので、それぞれ異なる対処が必要になります」
 花の医学的知識は、医者レベルだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ
恋愛
保険会社の事務職として勤務する 早瀬佳奈26才。 友達に頼み込まれて行った飲み会で 腹立たしいほど無愛想な高原宗輔30才と出会う。 あまりの不愉快さに 二度と会いたくないと思っていたにも関わらず 再び仕事で顔を合わせることになる。 上司のパワハラめいた嫌がらせに悩まされていた中 ふと見せる彼の優しい一面に触れて 佳奈は次第に高原に心を傾け出す。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?

すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。 ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。 要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」 そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。 要「今日はやたら素直だな・・・。」 美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」 いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

【完結】女当主は義弟の手で花開く

はるみさ
恋愛
シャノンは若干25歳でありながら、プレスコット伯爵家の女当主。男勝りな彼女は、由緒ある伯爵家の当主として男性と互角に渡り合っていた。しかし、そんな彼女には結婚という大きな悩みが。伯爵家の血筋を残すためにも結婚しなくてはと思うが、全く相手が見つからない。途方に暮れていたその時……「義姉さん、それ僕でいいんじゃない?」昔拾ってあげた血の繋がりのない美しく成長した義弟からまさかの提案……!? 恋に臆病な姉と、一途に義姉を想い続けてきた義弟の大人の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...