(R18)花の幸せのレシピ〜身代わりの花嫁は25歳年上のイケオジ海軍士官に溺愛される〜

絵麻

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(R18)花の幸せレシピ〜身代わりの花嫁は25歳年上のイケオジ海軍士官に溺愛される〜

一話『継母』

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 昭和七年秋、静子は二十七年という短い生涯を終えた。

 《静子様が桐島邸に来たのは、今から八年前。体の弱い静子様と、二十歳も年の違う旦那様でしたが、二人はとても睦まじい夫婦でした》

 静子が亡くなり、二年が過ぎようという頃に浩一郎は再婚した。
 幼い娘には、やはり母親が必要だと感じたからだ。

「花、新しいお母さんの、八重子さんだ。そして、こちらは」
「こんにちは、花ちゃん。こちらは、娘の聡美よ。仲良くしてあげてね」
「はい、お母さん。聡美ちゃん、よろしくね」
「うん、お姉さん」
 にっこりと、聡美は愛らしく笑った。だが、花は・・・鹿江達は、そぞろ恐ろしいものを聡美に感じた。

 そして、それは現実のものとなる。

      ♧♧♧

「ない、ないよ!」
 それは、浩一郎が病に伏して間もない頃、花が大事にしていた静子の簪などの小物がなくなった。
 花は八重子に尋ねた。

「なんで?お母様の形見を」
「ああ、うるっさいわね」
 八重子が片鱗を見せた瞬間だった。

 土蔵に、躾と称して閉じ込めたのだ。時は八月の中旬、真夏の午後である。

「ごめんなさい、出して!もう煩くしないからぁ!」
 
 泣きじゃくる花を無視し、八重子と聡美は出かけた。
 それから三時間後、花はぐったりした状態で重松達に助け出された。
「御免なさい」
 げんにつぶやく、花が不憫でならなかった。

 浩一郎の死後、虐待はますますひどくなった。着物まで売られ、花が泣くのを見かねた鹿江が、ついにブチ切れた。
「聡美様、いい加減にしてください」
「なに?使用人の分際で、主人に逆らう気ぃ」
「何の騒ぎ」
 八重子に鹿江は、聡美の手くせの悪さを伝えた。しかし、八重子の怒りは聡美ではなく、鹿江に向けられた。

 鹿江はひどく叩かれた。

 そんな鹿江を庇い、重松も額に傷を負った。その様子を見てしまった花は、二度と泣くまいと決めたのだ。
 父母だけでなく、大好きな鹿江や重松・・・薫に操にいてもらうために。

 そして、花が使用人として働くことになり、十年の歳月がまたたく間に過ぎていった。

     ♧♧♧

 昭和二十年三月九日午後11時から十日未明にかけて。東京を三百機編隊の米軍の爆撃機により、二時間半に及ぶ大爆撃が遂行された。 
 この大空襲により、東京の東側(江東区、台東区、墨田区、他)が壊滅的な被害を受け、十万人の犠牲者が出た。
 花も、たくさんの同級生と友人を亡くし、空いている時間を救護所の手伝いに走っていた。

「赤紙?」
 近所に住む幼馴染み、藤岡大翔は某国立大に通う秀才で、花に対して淡い恋心を抱いていた。
「ああ、とうとう来ちまった。明後日、知覧の基地に向かう」
「行かないで」
 か細い声で、花が首を振る。

「やだぁ、行かないでぇ」
「桐島」
「もう、友達は大翔くんだけだよ?行かないで、行ったら死んじゃう」
 泣きじゃくる花に、大翔は優しい笑みを浮かべる。
「大丈夫、出撃する前に戦争が終わるさ」
「・・・やだぁ」

 嫌な予感ほど、よく当たる。
 なぜ、世の中は無情のか。

「行かないで」
 駅のホームで泣きじゃくる花を見て、大翔の母・明子は今更ながら後悔した。
《私はなんて、卑しい。こんなにも息子を想い、泣いてくれる花さんを。家が傾き始めているからって、大翔と関わらないように仕向けるなんて》

 八重子が嫁いで数年で、桐島邸の財産は底をつき始めていた。明子は大翔に、花と遊ぶのを禁じた。
 それは、大翔が花を愛していたからだ。

「花さん」
「おばさま」
「ごめんなさいね、あなたと大翔を引き裂いて。もし、あの子が無事に復員したら、また仲良くしてもらえるかしら?」
 明子の言葉に、花はふるふると涙目になり、何度もうなずいた。
「もちろん」
「ありがとう」

      ♧♧♧

 桐島。
 きっと、この戦争はすぐに終わるよ。

 そう言って、大翔は知覧に旅立った。
 そして、花と大翔は手紙をやりとりしていた。

 しかしーーーー。

「お嬢、戦争が終わったな」
「うん」
「これで、みんなが戻れますね」
「うん」
 昭和二十年八月十五日、日本は戦争に敗れた。
「大翔様も、帰れますね」
「うん!」

 早く帰ってこないかな。
 そんな思いで、花は大翔の復員の知らせを待ちわびた。

 ところがーーーー。

「ウソ!?」
 それは、大翔からの手紙だった。

「八月十五日の早朝に、出撃した!?」

 整備兵の田所という青年からの、大翔の戦死を知らせる手紙には大翔が出せなかった最後の手紙が入っていた。

「やだぁ!」
 花は泣きじゃくった。
 優しい笑顔で、大翔が来ることは二度とない。

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