牢獄スタートの乙女ゲーム、待っていたのは王子たちとの恋でした

朝凪はのん

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先生、もっと知りたいです

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「点呼終了。食事、置いとくぞ」

 衛兵のぶっきらぼうな声とともに、今朝もまた木盆が置かれた。
 (今度は……パンと、豆のシチュー?)

 昨日のトウモロコシのスープとは違う、香ばしいハーブの香りが鼻先をくすぐる。

 (え、メニュー変わってる。ってことは、ちゃんと食事は日替わり……?
空腹感は、ない。美味しそうなはずなのに、なぜか手が伸びない。
 自分でもよく分からないまま、彼女は再び食事には手をつけず、隣の木箱にそっと視線をやった。

 「……食わんのか?」

 隣の牢の老人──グレイが、ふと声をかけてきた。

 「うん、なんか……あんまりお腹減らなくて。よければどうぞ」

 「ああ、まあ、ここはそんなもんじゃ。牢の中で食欲が出る方が珍しい。食わんのならいただこう。もったいない」
 苦笑交じりにそう言ったあと、グレイはゆっくりと腰を下ろす。




食事が済み、 昨日の講義の続きを求めるように、リンが自然と近寄っていくと、グレイの顔が少しだけ引き締まった。

 「昨日は“礼儀”を語ったが……今日は、今のこの国──“ロズヴェルド王国”の実情について話してやろう」

 「お願いします」

 グレイは小さく頷き、静かに語り始めた。

 「この国は今、表面だけは華やかに見える。だが、その実、土台が崩れかけとる。最大の問題は──“貧富の差”じゃ」

 「……貧富の差?」

 「王都に住まう貴族と、周縁の民では、生活水準がまるで違う。特に、庶民は年々重くなる税に苦しんでおる」

 「税金、ですか」

 「うむ。食料品にも税がかかり、物価は上がり続けている。しかも王は“友好”の名のもとに、他国に金をばら撒いておる。困っておるのは国内の民じゃというに、じゃ」

 (うわ……なんかどっかの国と似てる……)

 「そのうえ、治安も悪い。失業者が増え、街には傭兵や自警団と名乗る私兵が溢れとる。夜道をひとりで歩けば、財布だけでは済まんかもしれんぞ」

 「えっ……怖っ」

 「そして最後に……“教育”。貴族の子は書物に囲まれて育つが、庶民の子は名前すら満足に書けぬ。医術も然り。病に倒れても、金がなければ見てもらえん」

 「……そんなに差があるんですか?」

 「この牢に来るような者の中には、罪ではなく“貧しさ”で捕まったような連中も多い。わしの隣にいた男も、腹をすかせてパンを盗んだだけで、両脚を折られて連れてこられてな、手当てもされず体の痛みだけでなく生きる目的を失ったんじゃろ、先週自害しよった」

 言葉が、喉に引っかかった。

 ゲームだ。これはゲームだ。そう思い込もうとしても、目の前の現実はあまりにも生々しい。

 (たぶん、これが……“背景”ってやつなんだ)

 攻略対象との恋愛ルート。その裏で、国全体が抱えている“もう一つの物語”。

 リンは、ゆっくりと頷いた。

 「ありがとうございます、グレイさん……そういうの、ちゃんと知っておきたいんです。きっと、無関係じゃないから」

 「おぬしがそう思えるのは、良いことじゃ。何も考えずに城に上がるだけの令嬢も多いからな」

 微笑むグレイに、リンはふと気づいたように尋ねた。

 「そういえば、昨日の礼儀講座のあと、なんか小さく“ステータス+3”って出たんですけど……今日も、政治力とか上がったり……?」

 グレイは「はは」と笑った。

 「さあな、わしは知らん。じゃが、学びは裏切らん。いつか必ず、力になる」

 彼のその言葉が、やけに重く、あたたかく響いた。
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