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継承の陰と、美しき姿勢
しおりを挟む「……王子様方のどなたかが次の王となるのですよね?」
ふと、リンが尋ねると、グレイは少しだけ表情を引き締めた。
「うむ。現国王陛下は御年七十を越えられ、次代の王位を巡って、すでに水面下では動きが始まっておる」
「三人の王子のうち、誰がなるかは決まっていない……?」
「そうじゃ。だが、それぞれに支援する派閥がついておる。表立って言えば謀反と見なされかねんが、貴族たちはそれぞれ思惑を抱え、民の間にも“どの王子を推すか”で派閥が生まれておる」
「民の間にも……?」
「うむ。特にここ最近は、“王が変われば、この暮らしも変わるのではないか”と期待を寄せる者もおってな……」
グレイの声音が、どこか沈んだものになる。
「……わしも、今の王に対しては思うところがある。他国への支援ばかりで民の暮らしは後回し。このままでは、国が崩れる」
リンは無意識に背筋を伸ばして聞き入っていた。
「では、グレイさんは──次の王には誰がいいと?」
グレイは少しだけ沈黙し、やがて静かに言った。
「それを……今、思案中なのじゃ。三人ともそれぞれに才はある。だが、どれが民のために動くかまでは、まだ見極められん」
そして、グレイはリンの顔をじっと見つめた。
「リン殿は──第三王子ノエル様と幼なじみと聞いておる」
「えっ、あ、そのようです」
「ふむ、まるで他人事のようじゃの。まぁいい。今回の毒騒動……ノエル様を良しと思わぬ貴族の仕業であろう。王子を貶めるか、そなたを罪に問うことで影響力を削ぐ目的か……どちらにせよ、何者かの手が入っておるのは間違いあるまい」
リンは、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じていた。
──王子ルート攻略とか、そんな軽い話じゃないのかもしれない。
そんな風に、少しずつこの世界の重みが、自分の中に入り込みはじめていた。
夜。牢内はひっそりと静まり返り、聞こえるのは水音と、かすかな寝息だけ。
……そんな中、隣の牢からミミィの声がした。
「ねえ、リン。起きてる?」
「……うん。寝つけなくて」
「アタシね……教えてあげようと思ってたの。“牢でもできる美女トレ”!」
「……美女トレ?」
「そう。牢で腐ってたら心まで醜くなるでしょ? でもね、姿勢を正して、胸を張って、呼吸を深くするだけで印象は変わるのよ! 見る? 見るでしょ?」
ミミィは鉄格子に背筋をピンと伸ばして立ち、静かに手を腰に添える。
「まずは背筋。壁にぴったり背中をつけて、肩甲骨を寄せて。そうそう、それ」
「こ、こう……?」
「次に顎を引いて、笑ってごらんなさい。口角は“きゅっ”とね! あ、そう、いい感じ!」
(なにこれ……笑えるけど……地味にキツい……)
「さあ今度は座って。正座でも胡座でもいいけど、骨盤を立てて。ほら、インナーマッスルを意識して!」
リンは見よう見まねで姿勢を整えながら、だんだんと身体が温まっていくのを感じていた。
「……意外と、悪くないかも」
「でしょ? 地下牢でも、美しさは守れるの♡」
ミミィがウィンクしたその瞬間、リンの視界の隅で光が弾ける。
──《ステータス上昇:魅力+1》
リンは内心でガッツポーズを決めた。
(よし……これが、“ミミィ式美女トレ”の成果……!)
夜の静けさの中で、彼女は思う。
牢の中でも、できることはたくさんある。
明日も、何かが上がるかもしれない。──そんな小さな期待を胸に、目を閉じた。
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