ぐうたらサボりたいだけの僕ですが、絶望中の企鵝が監視してきます。世界の管理?知らんけど。

獣之古熊

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第1章

#1-A(前) 閉会の言葉? そんなのどうでもいいんだけど

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「それでは本日の議題はすべて決議いたしましたので、これにて第七六五万四三二一回、定例魔王会議を閉会といたします。では、閉会のお言葉を。大魔王ペンデヴァルト卿、お願いいたします」

 暗闇にスポットライトが当たるのは、円形に並べられた大小様々な執務机と椅子。そしてそれに腰かける会議の参加者と、並べた机の中央――何もない空間に立つ、ドラゴンの面を被った黒スーツ姿の男だけ。

 その黒スーツ姿の男が僕のほうに身体を向け、右手を自身の腹の前に当てて一礼し、閉会の言葉を求めてくる。

 初参加なのに閉会の言葉とか、無茶振りにもほどがあるだろ。
とりあえず、それっぽく。わざとらしく足を組み替え、椅子にもたれて一呼吸置く。

 ――仮面やら何やらで顔を隠した全員が僕のほうを向いて、無言の圧力をかけてくる。

「……勇者が来る」

 その言葉に途端にざわつく一同。そしてドラゴンの仮面を被ったスーツ姿の男は、両腕を横に広げてかぶりを振り、小さくため息をついた。

 ――何か間違えたかな?

 単なる思いつきの一言ではあるが、それは魔王たちにとってはインパクトは絶大なはずだ。何せ、勇者と魔王は切っても切れない縁で結ばれたような関係であるからだ。果たしてそれが、会議を締めくくる言葉として適切であったのかどうかはさておき。

「ぺ、ぺ、ぺ、ペンデヴァルト卿! 勇者が来るというのは、ほ、ほ、ほ、本当のことなのだ!?」

 僕の右隣、机と椅子の大きさとは裏腹に、僕の手のひらに載せられるほどの矮人の男――確か、齢四〇〇年の吸血鬼の魔王だったはず――が、どう見ても人間用の執務机の上を行ったり来たり、あたふたと走り回っていた。

 シルクハットにステッキを持つ紳士風な姿をしているが、髑髏の仮面をつけており、とても可愛らしい。彼の名は確か、チョップゥァ――いや、チャッピィでいいや。言いづらい名前だとどうせすぐ忘れるし。それにしても、うちのペットとして飼いたいくらいだよ。でも、餌は僕の血だったらやだなぁ。無理無理。どうでもいいけど、キミにその椅子はいらないと思う。

「唐突に脈絡なく話すのはペン兄の悪い癖。人をおちょくるのが得意だけど、ペン兄は嘘をつかない。大ウソつきだったラン姉とは大違い。だから、チャッロプフゥホヒィア。ペン兄が言っていることは本当。勇者は確かにやって来る。ウルルも今占ったけれど、同じ結果が出た。ウルルが占うよりも早く情報を掴んでいたペン兄は偉大」

 チャッピィにしごく真面目な口調で答えたのはまだ十歳にも満たないと思われる、間抜けな馬面の被り物を被った幼女だ。その被り物には、ご自慢の金髪縦ロールが入りきらないため、馬首の横に穴を開けてわざわざそこから髪を通している。手の込んだことだ。

 僕のことをペン兄と呼んだ彼女は、百発百中の占い師だというウールルちゃん。今回の会議では、僕は全員と初対面のはずなのだが、一体彼女は僕の何を知っているのだろうか。占いとは恐ろしい。微妙に棘のある言い回しだったが、もしかしたら僕は本当に人をおちょくる才能に長けているのかもしれない。自覚はないのだが。そして、ラン姉という人物にも、心当たりは全くない。

「偉大かどうかはさておき。ウルルの占いで裏付けが取れているならば、企鵝ペンギンの兄ちゃんの発言を疑う余地はないだろうな」
「そうなると対策を練る必要があるわねぇ。それはそうと、ペンちゃん、あなた、あたし好みのいい男よねぇ。その帽子の下のお顔、是非とも拝見したいわぁ」

 道化師のような黒い仮面、同じく黒いローブを身にまとった低い声の男は――うーん、忘れた。まぁ、いいや、名前はアルパッジョで。

 ところで、できるだけ真面目そうな口調で発言はしたが、そもそもあれは、僕の思いつきの適当発言だったはずだ。それ以下でもそれ以上でもない。しかし、ウールルちゃんの援護射撃によって勇者が来るという発言自体が現実味を帯びてしまった。今さら、それがなんの根拠もない、単なる思いつきで言ったことでした、などと訂正することなんてできるはずもなく。

 大体、僕が適当なことを言うのは、起こらない内容だけだ。口は災いの元だというからね。起こりそうなことを起こりそうだと思いながら口にすれば、それはすぐさま現実となってしまうのだ。いわゆる、フラグを立てるというやつか。

 つまり、これは僕が嘘をつかないと言ったウールルちゃんの嘘になる。僕の茶番に付き合ったウールルちゃんがさらに展開した茶番に踊らされたアルパッジョは、可愛そうな男だと思うことにする。あと、それに騙されたチャッピィも、だ。

 そして、アルパッジョに続けて発言したのは、肩を出した赤いドレスを身に着けた筋骨隆々の男、キャンディちゃんである。彼――いや、もとい彼女は、まるで福笑いに失敗したかのような、珍妙な顔の書かれた扇子を顔の前で広げてやはり素顔を隠している。赤いドレスは彼女の筋肉で今にもはちきれんばかりに膨らんでいて、その下にあるものを見れば絶対に後悔すること請け合い。

 僕は目線を逸らし、天を仰いだ。そういえば、会議の前にトイレに行っておけばよかった。これ、早く終わらせないと漏らしそうじゃね?

 ――とりあえず、我慢、しよう。あともう少しだけ。
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