天才高校生プログラマーは今日もデイトレードで稼ぎ、美少女からの好意に戸惑い続ける。

たかなしポン太

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No.16:竜泉寺グループ

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 翌週、中間テストが終わり、続々と解答用紙が帰ってきた。
 俺はいつも通り、全ての科目がほぼ満点。
 多分トップは保持できるだろう。
 俺としてはトップのこだわりは特にないが。
 重要なのは学費が免除になることだからな。

 喜びの声を上げているのは、慎吾と美少女3トップだ。
 特に桜庭と竜泉寺は大幅に成績を上げた。
 今まで100位から150位ぐらいだったそうだが、二人とも70位から80位ぐらいにランクを上げてきたらしい。
 2年生全体で7クラス250人前後だから、全体の上位3分の1には入ったことになる。

「大山くんが作ってくれた予想問題集、大当たりだったよ! 化学なんか、1つまるっきり同じ問題だったし。他の科目も予想問題に近い問題だったり、関連問題とかもやっておいたから、いつもより出来が全然違ったよ!」

「ウチも同じ! これで実家の両親からも、文句言われんで済むわ。大山くん、ほんまありがとうね」

 昼休みに5人で机を寄せ合う。
 桜庭と竜泉寺から丁寧にお礼を言われた。
 こちらこそ一週間のお弁当と、ドリンクはありがたかった。
 ドリアンサイダーを除いてだが。

「いや、俺はちょっと手伝いをしただけだ。二人とも、元々頭が良かったんだろう。これが実力だと思うぞ」

「ひなも助かったよー。なんと今回は、赤点が一つもなし! これは入学以来の快挙だよ快挙! 大山君、マジ神!」

「山野はもう少し頑張った方がいいと思うけどな」

「ううん、ひなはこれでも大進歩だよ! なにかお礼、しないとね。ちょっとなら胸さわってもいいよ?」

「ひな!」
 桜庭が真剣に怒っている。

「もー、冗談に決まってんじゃん。雪奈ったらムキになっちゃってさー」
 山野はニタニタ笑っている。
 反省の色は全くない。

「その手の冗談はやめてくれ」
 周りの目が痛すぎる。

「僕も今回は本当に助かったよー。3科目で平均点を超えたからね。浩介のおかげ!」

「お前、少しは竜泉寺を見習ったらどうなんだ?」
 自慢の彼女は頭がいいんだから、日頃から教えてもらえばいいのに。

 そんな感じでわちゃわちゃとしながら、俺たちは昼食を食べ始める。
 なにこのリア充感?全く慣れないんだが……。

 ………………………………………………………………

「ねえ、テストも終わったし、みんなでこれ行かへん?」

 竜泉寺は机の上に、何かチケットらしきものを出してきた。
 数えてみると5枚ある。

「あっ、これウォーターパラダイスのチケットだね。僕もここ、行きたかったんだよー」

 ウォーターパラダイスは昨年隣町にできた、全国的にも大規模な全天候型の屋内プール施設だ。
 温泉施設やレストラン、ゲームセンターなども併設され、県下で最大規模のテーマパーク的存在だ。

 最大の売りは3本のウォータースライダー。
 中でも「ジャイアント・スイング」というスライダーが目玉で、最大6人乗りで左右に振り回されたあげく、最後にすごい勢いで水の中にダイブするという代物らしい。

「え、でも行くとしたら水着を着るってこと?」
 桜庭が小さい声で聞く。

「そりゃそうやわ。せっかく行くんやったら、プールも入らんともったいないし」

「いーじゃん雪奈。この際だから新しい水着、一緒に買いに行こ!」
 山野は乗り気だ。

「でも竜泉寺、このチケットどうしたんだ? 決して安くはないはずだが……」
 俺は心配になって聞いてみた。

「あーこれ、実家から送ってきたんよ。ウォーターパラダイスって、竜泉寺グループやし」

「前から気になっていたんだが」
 俺は口をは挟む。

「竜泉寺って、あの京都の「竜泉寺グループ」と何か関係があるのか?」

「あー大山君、竜泉寺グループ知ってるの?」

「知ってるもなにも……」

 竜泉寺グループは、元々京都の老舗旅館が発祥だ。
 その後ホテルやリゾート施設を中心とした総合不動産業にとどまらず、外食産業から建設業、貿易から海運業まで幅広く手掛ける一大企業体に成長した。

 持ち株会社の「竜泉寺ホールディングス」は東証1部の貸借銘柄で、時価総額は2兆円以上。
 俺もよくトレードしている銘柄だ。

「社長の竜泉寺昇一といえば、老舗旅館から今の会社規模へ一気に拡大した時代の寵児で、メディアにも頻繁に取り上げられている。知らない人の方が、少ないんじゃないか?」

「あーそれ、ウチのおとうさんやねん」

「……は?」
 竜泉寺が竜泉寺昇一の娘……だと?

 話を聞くと、竜泉寺は中学まで京都の実家に住んでいたが、家がとにかく厳しかったそうだ。
 平日は特に用事がなければ門限は6時。
 休みの日も誰とどこへ行くのか逐一言っておかないと、外に出してくれなかったらしい。
 まあよくある箱入り娘だが、門限6時は厳しすぎる。

 竜泉寺はそれがどうしても嫌で、高校から実家を出て全寮制でもいいので一人暮らしをしたいと懇願したが、両親は許してくれなかった。

 それでも竜泉寺はしつこく家を出たいと言って聞かなかった。
 最終的に両親も折れて、この街に住んでいる母方の祖父母の家に住むんだったら、という条件で渋々了承した。

 そんなわけで竜泉寺は親元を離れて、祖父母の家からこの学校へ通っている。
 祖父母は孫がかわいくて仕方ないらしく、竜泉寺自身も居心地がいいらしい。

「それにしても、あの竜泉寺昇一の娘だとは驚いたな」

「んーとはいっても、ウチはお兄ちゃんもお姉ちゃんも居てるからね。跡継ぎもいるし、私はオマケみたいなもんなんよ」

「オマケって……」

 グループ会社で働く社会人2年目の兄と大学生の姉がいて、二人とも実家暮らしだそうだ。もし一人娘だったら、外に出してはもらえなかっただろう。

 話は戻るが……そういうわけで、チケット5枚は無償提供らしい。
 おまけにチケットをよく見ると、ランチクーポンまで付いている。

「ねー、これめっちゃお得じゃん! 皆で行こうよー。ひなは夏休みに海にも行ってないし、絶対行きたい!」
 この一言で大勢が決したようだ。

「俺もメンバーに入っているのか?」
 俺は尻込みする。
 こんなリア充連中と一緒にプールに行くなんて、想像できない。

「そりゃそうだよー。せっかくチケットが5枚あるんだからね」

 4人とも俺の顔をじっと見る。
 こりゃNoとは言えないな。
 特に用事もないし。

「分かった、行くよ。お手柔らかに頼む」

 そうこなくっちゃ、と慎吾は笑った。
 桜庭は少し考えながら「水着どうしよう……」と呟いていた。
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