51 / 66
No.50:風よ吹け
しおりを挟む「もちろんタダで、とは言いませんよ。先輩」
俺はポケットから、プラスチックケースを取り出す。
「はいこれ。差し上げます」
七瀬の視線が、途端に柔らかくなった。
彼女は俺の手から、Pジェネのサイン入りCDを奪い取る。
「それは俺がカルメリで20万円で購入したものです」
「20万?!」
七瀬は目を見開いた。
「カルメリでまだSoldで表示されてますから、確認できますよ。シリアルナンバーも確認済みです」
七瀬はCDを見つめたままだ。
もうそこにしか興味がなさそうだ。
20万円の出費は痛いが、雪奈の笑顔のためなら安いものだ。
それにトレードですぐに取り返せる自信もある。
「Pジェネはこれから海外展開も視野に入れてます。この先もっと人気がでるでしょう。そのCDも値段がどんどん上がっていくのは明らかですよ」
七瀬の口角が、少し上がったような気がした。
「今売ってもよし、値段が上がるのを待ってもよし。あるいは友達に自慢するにもいいアイテムです」
クラブに行くにしたって、洋服代とか金もかかるだろう。
七瀬にとって、こういったアイテムは助かるはずだ。
3秒ほど考えた後、「ふーん」と七瀬は気のない声を出した。
「そーね。しょーがないから、もらってあげるわ」
「それじゃあ取引成立ということで」
「なんでここまでするわけ?」
七瀬は横目で俺を見上げる。
「あんた、雪姫の彼氏?」
「いえ、違いますよ」
「じゃあ好きなの? 桜庭雪奈のこと」
質問の意味をもう1度反芻する。
雪奈のことを好きか、という質問。
俺は……雪奈のことが好き……なのか?
答えが出なかった。
俺は分からなかった。
黙ったままだった。
「ま、どーでもいいけど。興味ないし」
七瀬が思考を遮る。
「じゃあこれ、もらっとくね。あーアコもマリアもタカユキも、私が言わなければ大丈夫だから。そんじゃね」
七瀬の目は既に完全に¥になっている。
どーしよっかなー、売ろうかなーとか呟いている。
俺は七瀬のうしろ姿を見ていた。
歩くたびにスカートが左右に揺れる。
でもスカートの中身がギリ見えそうで見えない。
俺は風よ吹け、と念じた。
すると風が吹き、七瀬のスカートをめくりあげた。
黒のレース。
しかも横の部分がヒモになっている。
とてもえっちなやつだ。
さすが上級生は違う。
しかし念じたら風が吹いたぞ。
なんという高等技術だろうか。
実用新案登録するには、どうすればいい?
俺はひとつ深呼吸して、教室へ戻る。
屋上のドアを開けたところで、一人の小柄な女子生徒と鉢合わせをした。
見た目は子ども、お胸は大人。
ツインテールの山野ひなだ。
「ひな?」
「ご、ごめん……なんだか気になっちゃって」
「なんでここに?」
「昼休みなのにコースケが屋上へ上がっていくのが見えたんだ。その後すぐに岡崎先輩が上がっていくのが見えたから……」
「あーそういう……岡崎先輩と鉢合わせしなかったか?」
「ドアの陰に隠れてたから、気づかれなかったよ」
「……聞いてたのか?」
「……うん」
「全部?」
「……うん。全部、終わったんだよね?」
「ああ、終わった、と思う。もう大丈夫だろ」
マジモードのひなは、俺の顔を見上げる。
「コースケ、ありがとう。また雪奈を助けてくれた」
俺の目を見ていた視線が、すこし下がる。
「それと、ごめんね……。酷いこと、いっぱい言っちゃって」
ひなの瞳に膜が張る。
「ひなは何もできなかった。偉そうなことばかり言って。でもコースケは雪奈を本当に心配して。真っ先に自分から動いて、体を張って助けてくれた。誰にもできないことをやってくれた。なのにひなは」
ひなの声は震えていた。
「いいって」
俺は努めて明るく言った。
「ひなが雪奈のことを本当に心配していることは伝わったぞ。それが力にもなった。それに慎吾も竜泉寺も力を貸してくれた。今回のこれは、みんなの思いがあったからできたんだと思ってる」
そう言うと、ひなは大粒の涙を流し始めた。
俺はひなの頭にポンと手のひらを乗せた。
「お前、本当にいいやつだな」
「うっさい! だから被害者を増やすな!」
「どーゆーこと?」
「なんでもないわよ! バカ!」
巨乳ロリに罵倒された。
なかなか泣き止まないひなの頭を、俺は昼休みが終わるギリギリまで撫で続けるはめになった。
21
あなたにおすすめの小説
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる