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後編
最終話:「私、決めた」
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『ようやく結婚したんだね。長かったわねー……でも、おめでとう。二人ともよかったわね』
「うん、ありがとう」「ありがとう、りん」
その年の8月13日。りんのお墓の前で1年ぶりの再会を果たした俺たちは、りんに結婚の報告をした。
『でも琴ちゃん、よかったね。ナオが完永寺に来てくれてさ。ご両親、喜んでるんじゃない?』
「うん、すっごく喜んでるよ。もともとナオ君と付き合ってたときだって、うちの両親は大賛成だったからね」
「ああ、俺も歓迎してもらって助かってるよ。居心地がいいんだ」
実際琴葉の両親はとても良い人たちで、俺自身本当の家族として受け入れてくれていると思っている。
それから俺たちはいろんな話に花を咲かせた。琴葉が話す俺たちの結婚式や新婚旅行のことを、りんは楽しそうに興味深く聞き入っていた。
ただ……俺にはりんが少し元気がないように見えた。いつものあのテンションが高いりんにしては、ちょっと元気がないように見える。
俺の「マスオさん生活」の話題が一段落したところで、りんが少し間をおいて切り出してきた。
『あのね……アタシ、言わないといけないことがあるんだ』
「え? なになに? 実はね、私達も報告しないといけないことがあるんだよ」
『えー? そうなの? なに? 気になるー』
「私だって気になるよ。りんちゃんから先に教えてよ」
『えー、んー、そっかぁ……じゃあアタシから先に言うね』
りんは俺たちに視線を上げて、言葉を紡ぐ。
『アタシ……多分二人に会えるのは、これが最後になると思うんだ』
「えっ……」
琴葉が言葉を失っている。しかし……俺はりんの言葉にピンときた。霊として来年から現世に来られなくなる。つまり……来年は霊じゃなくなるということだろう。つまり……
「りん。転生するのか?」
りんはハッとした表情で俺の顔を見ると、ゆっくりとうなずいた。
「て、転生って?」
「その名のとおりだ。浄土から現世へ生まれ変わる。そういうことだろ?」
俺はりんに水を向ける。
『うん……はっきりしたルールはないんだけどね。アタシの場合前世の行いとかを考えても、多分人間として転生すると思うんだ。それに……アタシの周りで転生していった霊とかを見てたら、順番的にそろそろアタシかなって』
それを聞いた琴葉は、驚いた表情で俺の顔を見上げた。俺はどういう表情を返せばいいか迷っていると……
「りんちゃん。私、いま妊娠してるの。お腹の中に、赤ちゃんがいるんだよ」
『えっ……』
「今3ヶ月なの。まだ性別ははっきりしないんだけどね」
『そうなんだ! おめでとうー!』
「うん、ありがとう」
琴葉は愛おしそうに、自分のお腹をさすった。
『いやー、でも琴ちゃんがママになるのかー。なんだか心配だなぁ』
「私だって心配だよ。でも絶対可愛いよ」
『そりゃあそうだよ! 琴ちゃんとナオの子供だもん!』
りんと琴葉は、生まれてくる子供の話で盛り上がっていた。
「ねえ……この子、りんちゃんの『生まれ変わり』なんじゃないかな?」
琴葉は自分のお腹を撫でながら、そんなことを言った。
『ええっ? それはどうかな……』
「ううん。だってね、和尚さん……ナオ君のお父さんが言ってたもん。両親が両方とも霊能者の場合、生まれてくる子供が霊能者になる確率はずっと高くなるって」
確かにオヤジはそんな事を言っていた。過去の家系図を見ても、その傾向は明らかなようだ。そして実際、琴葉は霊能力を持っている。
「りんちゃん、それだけ霊力が強いじゃない? だからこの世に生まれ変わったら、絶対に霊能者になると思うんだ。だから……」
琴葉はゆっくりと、もう一度自分のお腹をさする。
「この子、絶対にりんちゃんだよ。私、そう思う」
「まあそんなことはわからないけどな」
『えー、アタシが琴ちゃんとナオの子供になるのかー。それはそれで楽しいかも』
「でしょでしょ」
「まったく……何を盛り上がってるんだか」
呆れる俺の横で、二人は「りんが俺たちの子供として生まれてきたら」という物語で盛り上がっていた。きっとマンゴーが好きなんだとか、好きな人には積極的なんだとか……また話す話題が増えてしまった。
俺たちは例年のごとく、8月16日の最終日まで連日りんの墓地に通った。ここ数年は車で往復できるので、帰りの時間は気にしなくて済んでいる。
そして8月16日の最終日。霊としてのりんとは、いよいよ最後のお別れになりそうだった。それでも俺たちには悲壮感は全くなかった。りんが浄土へ帰っていくのを、琴葉は満面の笑みで手を降って見送った。りんも『バイバーイ!』と言いながら、俺たちに両手を全力で振ってくれていた。
「私、決めた」
俺たちがりんを見送ったあと、お墓の前で琴葉はお腹を撫でながらそう言った。
「何をだ?」
「この子の名前。りんちゃんにしたい。男の子でも、りん君だよ。いい名前でしょ?」
何を言い出すかと思ったら……俺は苦笑するしかない。
「それは悪くないけど……もしりんの生まれ変わりじゃなかったら、どうするんだ?」
「それでもいいんだよ。この子が大きくなって『自分の名前は、どうしてりんなの?』って訊かれたとき、教えてあげるんだ」
琴葉はりんが帰っていった空の方を見上げた。
「おかあさんが高校生の時に、すっごく素敵な親友がいたんだって。その子は優しくて、強くて、お料理も上手で、マンゴーが大好きで、好きな人には積極的で、でもちょっと涙もろくて……その子の事を、おかあさんもおとうさんも大好きだったんだって。もう死んじゃったんだけど……その大好きな子の名前がりんちゃんって言うんだよって……教えてあげるの」
俺も一緒になって、空を見上げた。俺は琴葉の肩に手を回して、ゆっくり抱き寄せる。
「ああ、そうだな。いいんじゃないか?」
「でしょ? いいよね?」
琴葉が俺の顔を見上げる。その表情は……少しだけ母親の表情になっていた。
「だから元気に生まれてきてね。りんちゃん」
琴葉はもう一度お腹をさすりながら、優しくその子に呼びかける。俺は琴葉の手に自分の手を重ねて、一緒に琴葉のお腹を撫でた。
「ああ。とにかく元気に生まれてきてくれれば、それでいいぞ。りん」
俺と琴葉の間には、満ち足りた幸せな時間が流れていた。
ー FIN ー
「うん、ありがとう」「ありがとう、りん」
その年の8月13日。りんのお墓の前で1年ぶりの再会を果たした俺たちは、りんに結婚の報告をした。
『でも琴ちゃん、よかったね。ナオが完永寺に来てくれてさ。ご両親、喜んでるんじゃない?』
「うん、すっごく喜んでるよ。もともとナオ君と付き合ってたときだって、うちの両親は大賛成だったからね」
「ああ、俺も歓迎してもらって助かってるよ。居心地がいいんだ」
実際琴葉の両親はとても良い人たちで、俺自身本当の家族として受け入れてくれていると思っている。
それから俺たちはいろんな話に花を咲かせた。琴葉が話す俺たちの結婚式や新婚旅行のことを、りんは楽しそうに興味深く聞き入っていた。
ただ……俺にはりんが少し元気がないように見えた。いつものあのテンションが高いりんにしては、ちょっと元気がないように見える。
俺の「マスオさん生活」の話題が一段落したところで、りんが少し間をおいて切り出してきた。
『あのね……アタシ、言わないといけないことがあるんだ』
「え? なになに? 実はね、私達も報告しないといけないことがあるんだよ」
『えー? そうなの? なに? 気になるー』
「私だって気になるよ。りんちゃんから先に教えてよ」
『えー、んー、そっかぁ……じゃあアタシから先に言うね』
りんは俺たちに視線を上げて、言葉を紡ぐ。
『アタシ……多分二人に会えるのは、これが最後になると思うんだ』
「えっ……」
琴葉が言葉を失っている。しかし……俺はりんの言葉にピンときた。霊として来年から現世に来られなくなる。つまり……来年は霊じゃなくなるということだろう。つまり……
「りん。転生するのか?」
りんはハッとした表情で俺の顔を見ると、ゆっくりとうなずいた。
「て、転生って?」
「その名のとおりだ。浄土から現世へ生まれ変わる。そういうことだろ?」
俺はりんに水を向ける。
『うん……はっきりしたルールはないんだけどね。アタシの場合前世の行いとかを考えても、多分人間として転生すると思うんだ。それに……アタシの周りで転生していった霊とかを見てたら、順番的にそろそろアタシかなって』
それを聞いた琴葉は、驚いた表情で俺の顔を見上げた。俺はどういう表情を返せばいいか迷っていると……
「りんちゃん。私、いま妊娠してるの。お腹の中に、赤ちゃんがいるんだよ」
『えっ……』
「今3ヶ月なの。まだ性別ははっきりしないんだけどね」
『そうなんだ! おめでとうー!』
「うん、ありがとう」
琴葉は愛おしそうに、自分のお腹をさすった。
『いやー、でも琴ちゃんがママになるのかー。なんだか心配だなぁ』
「私だって心配だよ。でも絶対可愛いよ」
『そりゃあそうだよ! 琴ちゃんとナオの子供だもん!』
りんと琴葉は、生まれてくる子供の話で盛り上がっていた。
「ねえ……この子、りんちゃんの『生まれ変わり』なんじゃないかな?」
琴葉は自分のお腹を撫でながら、そんなことを言った。
『ええっ? それはどうかな……』
「ううん。だってね、和尚さん……ナオ君のお父さんが言ってたもん。両親が両方とも霊能者の場合、生まれてくる子供が霊能者になる確率はずっと高くなるって」
確かにオヤジはそんな事を言っていた。過去の家系図を見ても、その傾向は明らかなようだ。そして実際、琴葉は霊能力を持っている。
「りんちゃん、それだけ霊力が強いじゃない? だからこの世に生まれ変わったら、絶対に霊能者になると思うんだ。だから……」
琴葉はゆっくりと、もう一度自分のお腹をさする。
「この子、絶対にりんちゃんだよ。私、そう思う」
「まあそんなことはわからないけどな」
『えー、アタシが琴ちゃんとナオの子供になるのかー。それはそれで楽しいかも』
「でしょでしょ」
「まったく……何を盛り上がってるんだか」
呆れる俺の横で、二人は「りんが俺たちの子供として生まれてきたら」という物語で盛り上がっていた。きっとマンゴーが好きなんだとか、好きな人には積極的なんだとか……また話す話題が増えてしまった。
俺たちは例年のごとく、8月16日の最終日まで連日りんの墓地に通った。ここ数年は車で往復できるので、帰りの時間は気にしなくて済んでいる。
そして8月16日の最終日。霊としてのりんとは、いよいよ最後のお別れになりそうだった。それでも俺たちには悲壮感は全くなかった。りんが浄土へ帰っていくのを、琴葉は満面の笑みで手を降って見送った。りんも『バイバーイ!』と言いながら、俺たちに両手を全力で振ってくれていた。
「私、決めた」
俺たちがりんを見送ったあと、お墓の前で琴葉はお腹を撫でながらそう言った。
「何をだ?」
「この子の名前。りんちゃんにしたい。男の子でも、りん君だよ。いい名前でしょ?」
何を言い出すかと思ったら……俺は苦笑するしかない。
「それは悪くないけど……もしりんの生まれ変わりじゃなかったら、どうするんだ?」
「それでもいいんだよ。この子が大きくなって『自分の名前は、どうしてりんなの?』って訊かれたとき、教えてあげるんだ」
琴葉はりんが帰っていった空の方を見上げた。
「おかあさんが高校生の時に、すっごく素敵な親友がいたんだって。その子は優しくて、強くて、お料理も上手で、マンゴーが大好きで、好きな人には積極的で、でもちょっと涙もろくて……その子の事を、おかあさんもおとうさんも大好きだったんだって。もう死んじゃったんだけど……その大好きな子の名前がりんちゃんって言うんだよって……教えてあげるの」
俺も一緒になって、空を見上げた。俺は琴葉の肩に手を回して、ゆっくり抱き寄せる。
「ああ、そうだな。いいんじゃないか?」
「でしょ? いいよね?」
琴葉が俺の顔を見上げる。その表情は……少しだけ母親の表情になっていた。
「だから元気に生まれてきてね。りんちゃん」
琴葉はもう一度お腹をさすりながら、優しくその子に呼びかける。俺は琴葉の手に自分の手を重ねて、一緒に琴葉のお腹を撫でた。
「ああ。とにかく元気に生まれてきてくれれば、それでいいぞ。りん」
俺と琴葉の間には、満ち足りた幸せな時間が流れていた。
ー FIN ー
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