前世で花魁だった俺、現世で男に生まれ変わったら結ばれなかった武士と再会しました

湊戸アサギリ

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本編

第一幕 花魁

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 籠のように狭いここにあの人はわちきに会うためにだけに来てくれた。あの人に会うのがわちきの何よりの生きがいで唯一の楽しみだった。
わちきは遊郭の遊女、花魁だった。だがその称号は虚しいだけのものだった。その虚しさをあの人は埋めてくれた。
「青宮、久しぶりだな」
「川崎様、ようこそおいでくださいまし」
わちきの呼ばれ名、青宮太夫あおみやたゆうと呼んだのは、旗本のお侍である川崎孝ノ助かわさきたかのすけ様。川崎様は無口で話下手だからか、会えばわちきは話す側になったり琵琶や歌を披露することが多かった。
「青宮の琵琶の音色、私は好きだ」
照れながらそう褒めてくれたのは何より嬉しかった。
「青宮は全てが綺麗だ。音色も歌も、その姿も」
噛み締めるようにそう言われて、わちきはその腕の中に溺れた。
わちきは確かに川崎様を愛していた。川崎様がわちきをどう思っていたかは『今』でもわからない。
「川崎様、わちきはまた来てくださるのをお待ちしています。……会いに来てくださいませ」
それがわちきが川崎様に言った最後の言葉だった。
わちきはその数日後、病に倒れた。元々先の短いのは決まっていたしわかっていたが、悔しかった。
それが、『俺』の前世の記憶。

 ※

 「啓介、ビデオ回すよ」
「んー、準備できた。いいよ!」
地元の公民館の一室。高校の同級生、コウジがビデオ撮影を始める。俺はカメラに顔が映らないようにギターを弾きながら歌い始める。
生まれ変わった『わちき』は現代の男子に転生して俺、青原啓介あおはらけいすけとして生きている。
前世じゃ遊女としての運命に潰されて自分から動かなかったことに後悔したので現世じゃ思い立ったらすぐに行動したし何でも自分で決断して行動するようになった。高校入学後は直観で軽音部を選んだし、このビデオ撮影もコウジに頼み込んでやってもらった。
「――はい終了! ありがとうございました!」
俺は演奏と歌を終えると顔が見えないように挨拶する。
「はい。あとの編集は自分でな」
俺はコウジにビデオカメラを渡される。
「うん、いつもありがとう」
「またネットに上げるのか?」
俺は少しでも色んな人にギター演奏と歌を聴いてほしいと思い立ち、『TAYU』というハンドルネームを名乗り、ネットで定期的に動画をアップしている。
「チャンネル登録も五千人いったんだよ! 俺やっぱ才能あるって!」
「あーはいはい。編集の仕方教えてくれたレイコにもお礼言えよ」
「うん!」
俺は現世での幸せを謳歌している。やりたいこともあって友達もいる。とにかく幸せだった。
ただ、川崎様に会えないのはちょっと寂しいけど……
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