君に打つ楔

ツヅミツヅ

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25、想いの交錯

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 元日の夜は、結局美優以外の大人たちは酔っぱらってしまって壱弥の家で泊まる事になった。
 壱弥の部屋は一応ウォールドアで仕切る事が出来るので、ベッドとソファの間を間仕切り、男女別々に眠る事が出来た。
 男性達は各自ダウンブランケットやシュラフなどで一夜を明かす。それでも部屋の暖房は効いているので寒さは特に問題にはならない。
 女性三人はクイーンサイズのベッドで悠々と眠りにつく事が出来た。
 皆、2日の夕方前には帰っていって壱弥と美優の二人が残された。
「とっても賑やかなお正月になったね」
「結局毎年宴会になるんだよ。帆高が彼女いる時は帆高の家だったけど。あいつら女の子と一緒にいるの邪魔するの趣味なんじゃないのかな……」
「そんな事ないと思うよ? きっと皆で賑やかに過ごしたいんだよ。その方が彼女さんも早く馴染めるでしょ?」
「まあ、確かに帆高の彼女も割とすぐに馴染んでる子多かった」
「でしょ? 私も皆のお陰ですぐに馴染めたもん」
「いや、美優ちゃんはめちゃくちゃ早いよ?」
「え、そうなの?」
「うん、だって言ってもまだ3回目でしょ? 皆で集まったの」
「うん、確かに」
「なんか皆普通だもん、美優ちゃんがいる事が。こんなに早く馴染んだ子美優ちゃんが初めてだよ?」
「そっか……。私もなんだか昔から一緒にいるみたいに思えるかも」
「でしょ? あいつらもそういう感じなんじゃないかな?」
 その後二人でふせちの残りと雑煮の残りを食べながら夕食を済ませた二人は、映画を見ながらゆったりとした時間を過ごした。
 穏やかで静かな夜を迎え、やはり眠りにつく時は一つのベッドで眠りについた。
 充分な距離を取っていた筈なのに、朝起きると何故か二人寄り添い抱き合って目が覚めた。
 やはり壱弥はその方がよく眠れるようで、スッキリと目が覚めたと喜んでいた。
 時間はそろそろ夕方になる。
「そろそろ送って行こうか。夕飯は今日は外で食べよ?」
 ソファで真横に座る壱弥がそう言うと、美優は疑問をぶつけた。
「でも、ふせちまだちょっと残ってるよ? あれ食べないの?」
「飽きちゃった。他の物食べたい」
「そっか。……ふせち残ったの、一人で食べられる?」
「多分もう捨てると思われる」
「……なら、私貰って帰っていい?」
「無理しなくてもいいのに」
「ううん、これ美味しかったから。私まだ食べたいんだ」
 美優は壱弥に笑って見せて言った。壱弥が自分の為にせっかく用意してくれた物を捨てるのは何か偲びなかった。
「……美優ちゃんはホント、しょうがないな……。どうしてそんなに可愛いのかな」
 壱弥は美優をぎゅっと抱きしめた。
「……皆といる時も少し無理してた時あったでしょ? そんなに気を使わなくてもいいのに」
「……そんな事ないよ? 皆の方が気を使ってくれてるよ? だって、挨拶もおめでとうって皆言わなかったし」
「そんなの俺達の誰に不幸があっても皆それ位の気は使うよ?」
「でも私、ほら、新参者でしょ? そんな私にまで気を使ってくれるんだから皆優しいよ」
 何故かこうして普通に抱き合っている。
 自分も自然に壱弥の背中に腕を回している。
 ふと、穂澄の言葉が過ぎる。
 確かにいつの間にか触れてる事が当たり前になって、いつの間にかこうして抱き合っている事にも違和感がなくなってきている。
 これが壱弥の計算によるものなら、自分は見事に壱弥の術中に嵌っている。
 そう思い、そんな自分に恥ずかしさを感じて、顔が真っ赤になる。
 壱弥の胸に顔を埋めてそのうら恥ずかしい感情と熱くなる頬を隠した。
「……美優ちゃん? そんなに可愛い事されたら、俺、我慢出来なくなって襲っちゃうかもよ?」
 美優は慌てて壱弥から離れて、背を向けた。
「ごめんなさい……」
 美優の背後の壱弥からその手が伸びて来て、ポンポンと頭を撫でられる。
「こっちこそごめん。ちょっと意地悪言ってみただけだよ」
 美優が壱弥を振り返ると壱弥はいつもの優し気な笑顔で美優を見た。
「さ、ご飯何食べたい? 俺、なんか洋食系が食べたいな」
 いつもの壱弥だった事に安心して、美優もいつもの様に笑う。
「私も洋食食べたいかも」
「そ? じゃ、どっかチェーン店でも行こっか」
 荷物を準備して、帰り支度を始める。
 鞄に荷物を詰めていると、壱弥が後ろに立って言った。
「化粧水とかその手の物は置いとけば? 近い内また遊びにおいでよ。学校も1月いっぱいで卒業式まで行かなくていいんでしょ?」
「……でも……」
「2月のどこかも遊びにおいで? 俺もその方が安眠できるから助かるな」
 優しく微笑みを湛えた壱弥は美優の頭を撫でる。
 それは最初会った時のお兄さんの様な優し気な笑顔だ。
「……うん。わかった」
 小さなボトルに小分けにして持ってきていた化粧水や乳液、日焼け止めは壱弥の家の洗面台に置いておく事になった。
「……あのね、こういうものがあったら迷惑かけたりしない?」
「かかるはずないよ。この部屋に入れる女は美優ちゃん以外には穂澄と棗先輩だけだし。男でも忠也先輩と帆高と航生、あとフットサル一緒によくやる拓海と舷太位だよ」
「そっか……。あの、ありがと……」
「なんでお礼? 変なの」
「だって、壱弥君は受け入れる人は決めてあるんでしょ? だから、受け入れてくれてありがたいなって思って」
「……感謝する様な事じゃないよ。俺が美優ちゃんしか要らないだけだから」
「……あのね? 待ってくれてる間に誰か他の人が気になったりしたら、その時は教えてね?」
「美優ちゃんはわかってないな~。俺は美優ちゃんしか要らないって今言ったトコでしょ? 俺は幾らだって待てるし、待つの」
「……航生君もこんな風に穂澄さんに告白したのかな?」
「そうなんじゃない? ……そろそろ出られそうかな?」
「うん、大丈夫。長らくお世話になりました」
「ホントはずっとうちにいてくれていいんだけどね」
 壱弥は悪戯っぽく言うと、笑って見せた。
 美優の大きな荷物を持ち背を向けて玄関に向かい、埋め込みキャビネットに仕舞ってある車のキーを取り出した。
 美優も手持ちの小さな荷物を持って壱弥の後に続く。
 二人は玄関を出て、エレベーターに乗り込んだ。
「次はいちご狩りかな?」
 壱弥が美優の手を繋ぎながら訊ねる。
「そうだね。13日だったかな?」
「そんなに美優ちゃんと会えないとか辛過ぎる」
「壱弥君ってホント大袈裟だな~」
 美優がくすくすと笑うと壱弥は真剣な声音で答えた。
「いや。かなり本気だよ? こんなに一緒に居たらもう一時だって手放したくなくなっちゃった」
「……ごめんね。ちゃんとはっきりさせなきゃね。もう少しだけ待って」
 自分の心の奥にある引っかかりを上手く表現できないでいる美優はただ悪戯に壱弥の時間を奪っているような気がして気が引けた。
「うん、わかってるよ。まだ再会してから2か月くらいしか経ってないもんね。戸惑って当然だよ」
 本音を言えば時間などはあまり関係なかった。
 壱弥の人柄や壱弥の自分に対する気持ちを本物なのは充分に伝わってきている。
 でも、どうしても踏み出せない。踏み出す事が何か怖い。
 それは自分の意地の問題なのだろうと納得しているがその答えも何故かしっくり来なかった。
 だけど、そんな事を上手く言葉で表現出来ないので美優は時間のせいにする事にした。
「……うん。ホントにごめんね」
 壱弥は繋いだ手を持ち上げて、美優の手の甲にキスを落とす。
「……待ってるよ。いつまでだって、待てるから」
 エレベーターは駐車場階に着く。
 車のトランクに荷物を積み、座席に乗り込んだ二人は、その後全国チェーンのイタリアンレストランに入って食事をし、美優のマンション前まで車をつける。
「ご飯、奢ってくれてありがとうね。気を使わなくてもよかったのに」
「ううん、いつもしてもらってる分のお返しにもなってないと思うけど」
「そんな事ないよ。やっぱり美優ちゃんは最高にいい子だ」
 壱弥は優しい手つきで美優の髪を撫でる。
 美優もそんな優しい壱弥のする事を徐々に受け入れる様になっていっている。
「そうやって素直に甘えられると、変な気起こしそうだ……」
 壱弥は指先で美優の顎を優しく掴む。そしてくいっと引き上げた。
 壱弥を見つめる形になった美優は、その視界に壱弥の顔を捉え、近づいてくるのを感じる。
 その様子をただ茫然と、見つめている事しか出来なかった。
 壱弥の顔は美優の横顔に移り、そして頬にキスをした。
 そして耳元で壱弥が囁く。
「美優ちゃん? 好きだよ。本当に大好きなんだ……」
 その言葉を紡いだ壱弥の声音は何か切羽詰まっているような気がして、美優は壱弥が心配になって壱弥の顔を見た。
 壱弥の頭は自分の肩の上に乗せられていて壱弥の表情を窺い知る事は出来ない。
 でも、今はそっと壱弥に寄り添ってあげなければいけない気がして、そのままじっとしていた。
 そっと左手で壱弥の頭を撫でる。
 壱弥は美優の手を握って、顔を上げた。
 その表情はいつも壱弥が見せる、優し気な笑顔だった。
「美優ちゃん、せっかく俺、頬キスで我慢したのにそんな事されたら遠慮しなくなるよ?」
「……あのね、壱弥君、待たせてごめんね……」
「ずっと言ってるでしょ? いつまでだって待ってるから、大丈夫だよ」
「そのせいで壱弥君は辛い思いしてない?」
「……今までに比べたら……」
「……? 今まで?」
「ううん、何でもないよ。さ、今夜は自分のベッドでゆっくり眠って」
「うん、でも壱弥君のベッドでも私ぐっすり眠っちゃったよ?」
「そ? なら今度は2月にお泊りにおいで。その時また添い寝してよ」
「うん、わかった」
 美優のその返事を聞くと車から降りて美優の荷物をトランクから取り出し、助手席に回ってドアを開ける。
「ありがとう、壱弥君」
「部屋の前まで送って行くよ。さ、行こう」
 壱弥は荷物を肩にかけ、美優の片手で肩を抱いてエレベーターまで向かう。
「マンションの前までで良かったのに。ありがとう」
「俺器小さいからさ? 心配性だし、嫉妬深いし、こうして出来る限り一緒にいないと気が済まないんだよね」
 いつもの優し気な笑顔で壱弥は美優を見つめた。
「だから、送らせてね」
「……壱弥君は器小さくないよ? いつも何でも受け入れてくれるよ?」
「美優ちゃんは特別だから、何でも受け入れてるだけ」
 エレベーターは美優の部屋のある4階に着いた。
 二人は部屋の前まで歩く。
「じゃ、またね」
「うん、また、13日ね」
 そう言うと壱弥は荷物を渡して背を向けた。
 エレベーターに乗り込む壱弥を見送って、自分の部屋に入った美優は、やはり思う。
 今別れたばかりなのにこんなにも寂しいと感じてしまう自分はもう既に、壱弥にべったりと依存してしまっているのではないかと。
 そしてそれは例え付き合ったとしてもただ黙って一人耐えなければいけない、そんな寂しさの様な気がして、美優はどうしても答えを出せそうになくて、大きな溜息を吐いた。
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