人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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「何もぞんざいに扱う気はない。マグダラスとの不和が本格化する事はグリムヒルトにとっても得策ではなかろう」

 小国のマグダラスをこれだけ重要視するには訳がある。

 マグダラスを挟んで北の大国のモトキス王国は陸軍の強さでその名を馳せる。
 歩兵、弓兵、騎兵、どれを取ってもその練度は高い。

 そのモトキスがマグダラスを残して侵攻をやめたのは潮の流れの複雑な海を隔てているからだ。

 その逆にゼルジア山脈に続く東西に伸びる連峰に阻まれる格好になっているのが、グリムヒルトだ。

 同じ理由でグリムヒルトもマグダラスへの侵攻をやめた。
 周辺の原住の民の小国と統合する形で今のマグダラス王国の原型ができたと聞く。

 今現在膠着状態で、モトキスもグリムヒルトも互いにマグダラスは侵攻の要所となり得る。

 それを嫌ってマグダラスはモトキス、グリムヒルト、双方とは国交を持たず、シビディア、オルシロンとの細々とした船便の交易があるくらいで例外を除き、鎖国に近い状態なのだ。

 そのマグダラスがモトキスと共闘、同盟でも組んで兵を配置されてしまえば、相手の土俵で戦う事になる。被害は甚大だろう。
 互いにそれを恐れているのだ。

 状況がもっと悪ければ、シビディア、オルシロンのどちらか、更に悪ければ、その連合軍を敵に回すとも限らない。
 シビディアは騎獣兵が特に恐ろしく強く、脅威だ。
 この大陸独特の兵科になるだろう、騎獣兵はこの大陸のみに生息する幻獣から成る。
 滑空する種類もあるから質が悪い。
 それにオルシロンの魔術師兵団も恐ろしい。
 これもこの大陸独特の兵科になるだろう。
 基本的に魔法に対する策は無いと言っていい。
 そしてそのどちらもが儂ら異民の民には使えない。

 それらの国々の思惑が定まらぬ以上、マグダラスは迂闊に手を出すべき国では無いのだ。

 更にそれ以上の理由を述べる。

「それに儂の安眠の為にはあの姫が要る」

「それって、姫様がいると眠れるって意味ですか?」
 法相が訊ねる。
「ああ。寝過ぎて怠い」
 セイレーンがジロリと睨む。
「まさかもう閨を共にしたのか?」
「指一本触れてはおらん、とは言えんが、一切手出しはしておらぬぞ」
 セイレーンが念を押す。
「正式に輿入れするまで決して手出しするな。いつ何時帰れる事になるかわからないからな」
 セイレーンは帰してやりたいのだろう。

「心得ている」
 儂は姫が帰れる理由を思案したが、胸の内に秘める事にした。
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