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明日から政務を行うという約束をさせられた。
仕方がないので政務をしよう。
実にシンプルな答えに驚いた。
死んで欲しくないだと?
なんだその口説き文句は。
捻りも何もない、真っ直ぐな言葉だ。
姫の言葉は不思議だ。
シンプルな言葉の裏に儂への理解が全て詰まっている様だ。
儂が玉座に飽いている事を察したのだろう。
どんな言葉より真実があったのがわかった。
泣き堪えた瞳で真っ直ぐこちらを見据える様は何とも凛としていた。
儂の完敗だ。
あれでは何も言い返せない。
姫の望みを叶えてやろう。
そうであれば招集をかけねばならない。
姫を残し自室に戻って侍女に呼び出す様命じる。
軍師
ヴィルヘルム・ラリ・ヴィルッキラ
宰相兼海軍中将
アレクシス・テーム・ハーヴィスト
法相兼海軍中将
エンリッキ・アートゥ・カーサライネン
それに[炎のセイレーン]こと、
へリュ・イリニア・ヴィルッキラ
先月より他国に外交に出ている、
外相兼海軍少将、ウルリッカ・リーサ・ユーセラを除く4人で集まる。
「珍しい事もありますね。定例招集以外で集まれなんて」
金髪碧眼のいつも笑顔を貼り付けている男、法相のエンリッキ。
勘の良い男でここぞという時の危機回避能力と機転のきく才覚を持つ。
「……何かあったとか言わないで下さいよ?俺はもう持ち切れませんからね?」
宰相が軽い口調で言う。
こうは言っても余裕でこなす男だと知っている。
灰がかった黒髪に同じく灰の瞳を持つこの男、アレクシスは人当たりとは相反して、心に獅子を飼っている。野心もあればそれに見合う実力も持つ。
ハーヴィスト家は王家の血統の一族だ。
そういう意味ではこの中で玉座に一番近い男でもある。
しかし、この男も政務の全権をほぼ委ねても儂の寝首を狙う事はない。
「逆だ」
儂はソファに腰掛け頬杖をついた。
「逆ですか」
くつくつと訳知り顔で軍師が笑う。
「明日から朝議に出る。政務も請け負ってやろう。書類仕事で良ければな。外交、視察、謁見は余程で無い限りやらんぞ」
そう言うと軍師以外の皆が押し黙る。
「なんだ?不満か?」
「どういう風の吹き回しですか⁉︎ 陛下! 何も企んでないですよね⁉︎」
宰相が叫ぶ。
「言葉のままだ。他意はない」
「いや、逆に何かありました?」
いつもの貼り付けた笑顔で法相が訊ねる。
「昨日軍師に献上された雛がよく鳴く雛でな。諌められた」
宰相が言う。
「ああ、レイティア王女ですか。昨日少しお会いしましたが、屈託のないお人柄でしたね」
法相が可笑しそうに口許に指を当てた。
「しかし、陛下をお諌め出来るとは、随分と勇気のある方ですね。」
セイレーンが儂を見て言い放つ。
「貴様に一つ言っておく。
あの方を他の妾妃達と同様に扱うなら、私はこの王宮を去る。
もちろんあの方を連れてだ」
この長身でワインレッドの髪に黄色い瞳の女は儂の臣下ではない。
名目上、儂と軍師の要請で客分として留まっているに過ぎない。
客分ではあるが、指南役として騎士団や海軍上等兵以上にたまに剣を教えている。
「セイレーン殿よ。随分と姫に肩入れしておる様だな」
理由など聞かずともわかる。
この女の気質は嫌と言うほど儂と似ている。
あの姫の気概を見せつけられたのなら、忠義立てする事も想像に難くない。
「人でなしの宿六の尻拭いをしているだけだ」
ぶっきらぼうに言い放つとチラリと夫の方を見る。
「確かにあれは人でなしだと罵られても仕方ないな」
夫である軍師はシャアシャアと言ってのける。
「委細を話せ」
軍師の方を見て命じる。
「委細も何も。善良なマグダラス王家に難癖つけて攫って来たのですよ。是非陛下に献上致したくて」
「確かにそれ以上の説明のしようもないな。その通りだ。あちらに非礼が有る様に捲し立て、王女自身に全てを背負わせ、人質として連れて行くと一方的に通しただけだ。」
怒気を孕んでセイレーンが補足する。
「とんだ三文芝居を打つ事になりました。これでセイレーンも姫も失っては立つ瀬がありません。」
軍師が飄々と、しかしどこか芝居がかった風に言い、こちらを見た。
「これは陛下に是非丁重に扱って頂かなくては」
軍師が笑う。
「儂に背負わせるか」
「他国の王女の人生を大きく変えてしまいました。陛下が他の妾妃様方同様に姫を扱われるなら、私も職を辞する覚悟です」
「……正妃にする気はないぞ?」
姫が正妃に相応しくないからではない。
正妃など下らぬ茶会や社交に参加して、
要らぬ時間を過ごさせるだけだからだ。
「正妃であれとは望みません」
軍師の言葉に皆が憮然とする。
「ただ、セイレーンと姫が出て行かなければならぬ様な事態が起こらぬよう、庇護して頂ければよろしいのです。
姫の後ろ盾には私がつきます故」
軍師の後ろ盾があるという事は儂の後宮に於いて最重要であるという意味になる。
他の妾妃達の後ろ盾で軍師に敵う家柄も格も無いだろう。
ヴィルッキラ家は初代アルフヒルドに仕えた海賊の子孫の中でも最も長く仕え、重用された大幹部の末裔で、法相のカーサライネン家も同様だ。
今でもヴィルッキラ家カーサライネン家は権勢を振るう一族だ。
ヴィルッキラ家としても寵姫を出せばカーサライネン家を出し抜き、頭ひとつ飛び出る事が出来る。
と、周囲に見せかける事が出来る。
他家から妾の斡旋が増えるだろうが、それは儂が突っぱねれば済む。
儂は軽く息をつく。
軍師の方に改めて向き直った。
仕方がないので政務をしよう。
実にシンプルな答えに驚いた。
死んで欲しくないだと?
なんだその口説き文句は。
捻りも何もない、真っ直ぐな言葉だ。
姫の言葉は不思議だ。
シンプルな言葉の裏に儂への理解が全て詰まっている様だ。
儂が玉座に飽いている事を察したのだろう。
どんな言葉より真実があったのがわかった。
泣き堪えた瞳で真っ直ぐこちらを見据える様は何とも凛としていた。
儂の完敗だ。
あれでは何も言い返せない。
姫の望みを叶えてやろう。
そうであれば招集をかけねばならない。
姫を残し自室に戻って侍女に呼び出す様命じる。
軍師
ヴィルヘルム・ラリ・ヴィルッキラ
宰相兼海軍中将
アレクシス・テーム・ハーヴィスト
法相兼海軍中将
エンリッキ・アートゥ・カーサライネン
それに[炎のセイレーン]こと、
へリュ・イリニア・ヴィルッキラ
先月より他国に外交に出ている、
外相兼海軍少将、ウルリッカ・リーサ・ユーセラを除く4人で集まる。
「珍しい事もありますね。定例招集以外で集まれなんて」
金髪碧眼のいつも笑顔を貼り付けている男、法相のエンリッキ。
勘の良い男でここぞという時の危機回避能力と機転のきく才覚を持つ。
「……何かあったとか言わないで下さいよ?俺はもう持ち切れませんからね?」
宰相が軽い口調で言う。
こうは言っても余裕でこなす男だと知っている。
灰がかった黒髪に同じく灰の瞳を持つこの男、アレクシスは人当たりとは相反して、心に獅子を飼っている。野心もあればそれに見合う実力も持つ。
ハーヴィスト家は王家の血統の一族だ。
そういう意味ではこの中で玉座に一番近い男でもある。
しかし、この男も政務の全権をほぼ委ねても儂の寝首を狙う事はない。
「逆だ」
儂はソファに腰掛け頬杖をついた。
「逆ですか」
くつくつと訳知り顔で軍師が笑う。
「明日から朝議に出る。政務も請け負ってやろう。書類仕事で良ければな。外交、視察、謁見は余程で無い限りやらんぞ」
そう言うと軍師以外の皆が押し黙る。
「なんだ?不満か?」
「どういう風の吹き回しですか⁉︎ 陛下! 何も企んでないですよね⁉︎」
宰相が叫ぶ。
「言葉のままだ。他意はない」
「いや、逆に何かありました?」
いつもの貼り付けた笑顔で法相が訊ねる。
「昨日軍師に献上された雛がよく鳴く雛でな。諌められた」
宰相が言う。
「ああ、レイティア王女ですか。昨日少しお会いしましたが、屈託のないお人柄でしたね」
法相が可笑しそうに口許に指を当てた。
「しかし、陛下をお諌め出来るとは、随分と勇気のある方ですね。」
セイレーンが儂を見て言い放つ。
「貴様に一つ言っておく。
あの方を他の妾妃達と同様に扱うなら、私はこの王宮を去る。
もちろんあの方を連れてだ」
この長身でワインレッドの髪に黄色い瞳の女は儂の臣下ではない。
名目上、儂と軍師の要請で客分として留まっているに過ぎない。
客分ではあるが、指南役として騎士団や海軍上等兵以上にたまに剣を教えている。
「セイレーン殿よ。随分と姫に肩入れしておる様だな」
理由など聞かずともわかる。
この女の気質は嫌と言うほど儂と似ている。
あの姫の気概を見せつけられたのなら、忠義立てする事も想像に難くない。
「人でなしの宿六の尻拭いをしているだけだ」
ぶっきらぼうに言い放つとチラリと夫の方を見る。
「確かにあれは人でなしだと罵られても仕方ないな」
夫である軍師はシャアシャアと言ってのける。
「委細を話せ」
軍師の方を見て命じる。
「委細も何も。善良なマグダラス王家に難癖つけて攫って来たのですよ。是非陛下に献上致したくて」
「確かにそれ以上の説明のしようもないな。その通りだ。あちらに非礼が有る様に捲し立て、王女自身に全てを背負わせ、人質として連れて行くと一方的に通しただけだ。」
怒気を孕んでセイレーンが補足する。
「とんだ三文芝居を打つ事になりました。これでセイレーンも姫も失っては立つ瀬がありません。」
軍師が飄々と、しかしどこか芝居がかった風に言い、こちらを見た。
「これは陛下に是非丁重に扱って頂かなくては」
軍師が笑う。
「儂に背負わせるか」
「他国の王女の人生を大きく変えてしまいました。陛下が他の妾妃様方同様に姫を扱われるなら、私も職を辞する覚悟です」
「……正妃にする気はないぞ?」
姫が正妃に相応しくないからではない。
正妃など下らぬ茶会や社交に参加して、
要らぬ時間を過ごさせるだけだからだ。
「正妃であれとは望みません」
軍師の言葉に皆が憮然とする。
「ただ、セイレーンと姫が出て行かなければならぬ様な事態が起こらぬよう、庇護して頂ければよろしいのです。
姫の後ろ盾には私がつきます故」
軍師の後ろ盾があるという事は儂の後宮に於いて最重要であるという意味になる。
他の妾妃達の後ろ盾で軍師に敵う家柄も格も無いだろう。
ヴィルッキラ家は初代アルフヒルドに仕えた海賊の子孫の中でも最も長く仕え、重用された大幹部の末裔で、法相のカーサライネン家も同様だ。
今でもヴィルッキラ家カーサライネン家は権勢を振るう一族だ。
ヴィルッキラ家としても寵姫を出せばカーサライネン家を出し抜き、頭ひとつ飛び出る事が出来る。
と、周囲に見せかける事が出来る。
他家から妾の斡旋が増えるだろうが、それは儂が突っぱねれば済む。
儂は軽く息をつく。
軍師の方に改めて向き直った。
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