人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 庭を散策すると決まって衛兵達とお喋りをした。
 私はあまり威厳がない王女なので、最初は緊張した面持ちで話していた衛兵も、ざっくばらんに話してくれる人が増えていった。
 その中でもイルモとヨルシムという衛兵は一層気さくに話してくれる。

「姫さんは何にも知らないんだな」
 イルモは笑いながら私の頭にポンと触れた。
「そりゃ姫なんだから知らねぇわな」
 ヨルシムも肩にポンと触れた。

故郷くにでは城を抜け出して城下に出ては街の人達の手伝いなんかをしてたわ。
 でもグリムヒルトの王城は大き過ぎて抜け出すのは難しいのよね」
 私はちょっとだけむくれる。
 何も知らないなんて心外だ。

 私は決して上品で聞き分けのいい王女様ではなかったと思う。
 マグダラスの城下に出ては、
 野良仕事を手伝ったり、
 店の仕込みを手伝ったり、
 子守りをしたり、
 街の女の子達に混じって洗濯をしたりしていた。
 少なくとも『暮らす』という事がどういう事か位はわかってるつもりだ。

 私はずっとマグダラスで生きるんだと思ってたから、城下の事を知っておきたかったし、
 弟がいる以上、自分が王位に関わる事は無いと思っていたので、
 寧ろいつか住む事になる城下での生活に親しんでおきたかった。

「おいおい、姫さんに抜け出されたりしたら俺達の首が飛ぶから勘弁してくれよ?」
 イルモがガハハと笑いながら言う。
「姫さんは城下の事、そんなに興味あるのか?」ヨルシムが訊ねる。

「もちろん! 初めてグリムヒルトに来た時に港を見たけど凄く賑わっていたのよ。お祭りかと思った!」
 もうあれから半年か…
 ずっと王城にいるからグリムヒルトの事は未だ何もわからない。
 私にとってグリムヒルトは王城のイメージしかなかった。

「そんな訳あるかよ。プストの時ならあんなもんじゃねえぞ」
 イルモが言う。

「プストってなあに?」
 ヨルシムが言い添える。
「他国の旅芸人やら何やらやって来て街中で仮面つけて練り歩くんだよ。
 グリムヒルトは祭り好きが多いからな。そういうのが船に乗って年に2度やって来るんだよ」

 つい興奮してしまう。
「そうなの⁉︎ 見てみたいなぁ!」

「でも姫さんは御正妃様になるんだろ? そりゃ無理だろ」
「御正妃様が見る様なもんじゃねえからなぁ」
 二人はアハハと笑う。

「御正妃様だって、旅芸人くらい見てもいいじゃない。楽しいモノは誰だって見たいものでしょ」

 二人は更に笑い声を上げた。
「そりゃそうだ」
「御正妃様が姫さんじゃ無理もないな」

「そのプストは次いつ来るのかしら? 知ってる?」
 私は2人に訊ねる。
「次他国からの大きな定期船は半月後だったと思うけどな。遅れてなきゃの話だが」
 ヨルシムが教えてくれる。

「半月! そんなにすぐに来るの⁇」
 どうにかお願いして街に出してもらおうか。

「こりゃ姫さん行く気だろ?」
 イルモが笑いながら言う。
「街の事何も知らないんじゃ危なっかしいな。勝手に抜け出したりするのはホントにやめろよ?」
 ヨルシムが少し真剣な眼差しで言ってきた。
「大丈夫よ! 勝手に抜け出したりしないわよ。ちゃんと陛下にお願いしてみる」

「しかし陛下は姫さんの何を気に入ったのかね」
「この普通な所が気に入ったんだろ」
 2人は笑いながら軽口を叩く。
「そんなの私だってわからないけど、皆が思うよりも陛下はずっとずっと優しい人なのよ」

「俺達にゃわかんね~なぁ」
「陛下なんて畏れ多くて近寄りたくもねえわ」

 これは皆に言ってるけど、一向に伝わらない。
 どうして皆そんなに陛下が怖いのかな……?
 私だけがわからないみたいでなんだか溜息が出てしまった。
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