36 / 200
36
しおりを挟む
庭を散策すると決まって衛兵達とお喋りをした。
私はあまり威厳がない王女なので、最初は緊張した面持ちで話していた衛兵も、ざっくばらんに話してくれる人が増えていった。
その中でもイルモとヨルシムという衛兵は一層気さくに話してくれる。
「姫さんは何にも知らないんだな」
イルモは笑いながら私の頭にポンと触れた。
「そりゃ姫なんだから知らねぇわな」
ヨルシムも肩にポンと触れた。
「故郷では城を抜け出して城下に出ては街の人達の手伝いなんかをしてたわ。
でもグリムヒルトの王城は大き過ぎて抜け出すのは難しいのよね」
私はちょっとだけむくれる。
何も知らないなんて心外だ。
私は決して上品で聞き分けのいい王女様ではなかったと思う。
マグダラスの城下に出ては、
野良仕事を手伝ったり、
店の仕込みを手伝ったり、
子守りをしたり、
街の女の子達に混じって洗濯をしたりしていた。
少なくとも『暮らす』という事がどういう事か位はわかってるつもりだ。
私はずっとマグダラスで生きるんだと思ってたから、城下の事を知っておきたかったし、
弟がいる以上、自分が王位に関わる事は無いと思っていたので、
寧ろいつか住む事になる城下での生活に親しんでおきたかった。
「おいおい、姫さんに抜け出されたりしたら俺達の首が飛ぶから勘弁してくれよ?」
イルモがガハハと笑いながら言う。
「姫さんは城下の事、そんなに興味あるのか?」ヨルシムが訊ねる。
「もちろん! 初めてグリムヒルトに来た時に港を見たけど凄く賑わっていたのよ。お祭りかと思った!」
もうあれから半年か…
ずっと王城にいるからグリムヒルトの事は未だ何もわからない。
私にとってグリムヒルトは王城のイメージしかなかった。
「そんな訳あるかよ。プストの時ならあんなもんじゃねえぞ」
イルモが言う。
「プストってなあに?」
ヨルシムが言い添える。
「他国の旅芸人やら何やらやって来て街中で仮面つけて練り歩くんだよ。
グリムヒルトは祭り好きが多いからな。そういうのが船に乗って年に2度やって来るんだよ」
つい興奮してしまう。
「そうなの⁉︎ 見てみたいなぁ!」
「でも姫さんは御正妃様になるんだろ? そりゃ無理だろ」
「御正妃様が見る様なもんじゃねえからなぁ」
二人はアハハと笑う。
「御正妃様だって、旅芸人くらい見てもいいじゃない。楽しいモノは誰だって見たいものでしょ」
二人は更に笑い声を上げた。
「そりゃそうだ」
「御正妃様が姫さんじゃ無理もないな」
「そのプストは次いつ来るのかしら? 知ってる?」
私は2人に訊ねる。
「次他国からの大きな定期船は半月後だったと思うけどな。遅れてなきゃの話だが」
ヨルシムが教えてくれる。
「半月! そんなにすぐに来るの⁇」
どうにかお願いして街に出してもらおうか。
「こりゃ姫さん行く気だろ?」
イルモが笑いながら言う。
「街の事何も知らないんじゃ危なっかしいな。勝手に抜け出したりするのはホントにやめろよ?」
ヨルシムが少し真剣な眼差しで言ってきた。
「大丈夫よ! 勝手に抜け出したりしないわよ。ちゃんと陛下にお願いしてみる」
「しかし陛下は姫さんの何を気に入ったのかね」
「この普通な所が気に入ったんだろ」
2人は笑いながら軽口を叩く。
「そんなの私だってわからないけど、皆が思うよりも陛下はずっとずっと優しい人なのよ」
「俺達にゃわかんね~なぁ」
「陛下なんて畏れ多くて近寄りたくもねえわ」
これは皆に言ってるけど、一向に伝わらない。
どうして皆そんなに陛下が怖いのかな……?
私だけがわからないみたいでなんだか溜息が出てしまった。
私はあまり威厳がない王女なので、最初は緊張した面持ちで話していた衛兵も、ざっくばらんに話してくれる人が増えていった。
その中でもイルモとヨルシムという衛兵は一層気さくに話してくれる。
「姫さんは何にも知らないんだな」
イルモは笑いながら私の頭にポンと触れた。
「そりゃ姫なんだから知らねぇわな」
ヨルシムも肩にポンと触れた。
「故郷では城を抜け出して城下に出ては街の人達の手伝いなんかをしてたわ。
でもグリムヒルトの王城は大き過ぎて抜け出すのは難しいのよね」
私はちょっとだけむくれる。
何も知らないなんて心外だ。
私は決して上品で聞き分けのいい王女様ではなかったと思う。
マグダラスの城下に出ては、
野良仕事を手伝ったり、
店の仕込みを手伝ったり、
子守りをしたり、
街の女の子達に混じって洗濯をしたりしていた。
少なくとも『暮らす』という事がどういう事か位はわかってるつもりだ。
私はずっとマグダラスで生きるんだと思ってたから、城下の事を知っておきたかったし、
弟がいる以上、自分が王位に関わる事は無いと思っていたので、
寧ろいつか住む事になる城下での生活に親しんでおきたかった。
「おいおい、姫さんに抜け出されたりしたら俺達の首が飛ぶから勘弁してくれよ?」
イルモがガハハと笑いながら言う。
「姫さんは城下の事、そんなに興味あるのか?」ヨルシムが訊ねる。
「もちろん! 初めてグリムヒルトに来た時に港を見たけど凄く賑わっていたのよ。お祭りかと思った!」
もうあれから半年か…
ずっと王城にいるからグリムヒルトの事は未だ何もわからない。
私にとってグリムヒルトは王城のイメージしかなかった。
「そんな訳あるかよ。プストの時ならあんなもんじゃねえぞ」
イルモが言う。
「プストってなあに?」
ヨルシムが言い添える。
「他国の旅芸人やら何やらやって来て街中で仮面つけて練り歩くんだよ。
グリムヒルトは祭り好きが多いからな。そういうのが船に乗って年に2度やって来るんだよ」
つい興奮してしまう。
「そうなの⁉︎ 見てみたいなぁ!」
「でも姫さんは御正妃様になるんだろ? そりゃ無理だろ」
「御正妃様が見る様なもんじゃねえからなぁ」
二人はアハハと笑う。
「御正妃様だって、旅芸人くらい見てもいいじゃない。楽しいモノは誰だって見たいものでしょ」
二人は更に笑い声を上げた。
「そりゃそうだ」
「御正妃様が姫さんじゃ無理もないな」
「そのプストは次いつ来るのかしら? 知ってる?」
私は2人に訊ねる。
「次他国からの大きな定期船は半月後だったと思うけどな。遅れてなきゃの話だが」
ヨルシムが教えてくれる。
「半月! そんなにすぐに来るの⁇」
どうにかお願いして街に出してもらおうか。
「こりゃ姫さん行く気だろ?」
イルモが笑いながら言う。
「街の事何も知らないんじゃ危なっかしいな。勝手に抜け出したりするのはホントにやめろよ?」
ヨルシムが少し真剣な眼差しで言ってきた。
「大丈夫よ! 勝手に抜け出したりしないわよ。ちゃんと陛下にお願いしてみる」
「しかし陛下は姫さんの何を気に入ったのかね」
「この普通な所が気に入ったんだろ」
2人は笑いながら軽口を叩く。
「そんなの私だってわからないけど、皆が思うよりも陛下はずっとずっと優しい人なのよ」
「俺達にゃわかんね~なぁ」
「陛下なんて畏れ多くて近寄りたくもねえわ」
これは皆に言ってるけど、一向に伝わらない。
どうして皆そんなに陛下が怖いのかな……?
私だけがわからないみたいでなんだか溜息が出てしまった。
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる