人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 数日後には4人の妾妃様は親元に帰られるか、新しく与えられた屋敷に移り住むかした。

 衛兵のイルモ、ヨルシムの持ち場で話す。
 ヨルシムが困った様に言う。
「俺らの小隊の少尉さんがさ、なんか領主に抜擢されたんだとさ」

「ああ! イロラ少尉でしょう? 何でも陸戦に強くて内政も出来る方だって聞いたわ。
 マイヤール領に行くんでしょ?」

 イルモが頭を掻きながら言う。
「いやぁそれがさ、俺達もくっついて行く事になっちまってな。姫さんとはこんな風に喋るのはもう出来ねえんだよ」

「そうなの……残念ね。せっかく仲良くなれたのにね。あ、でもその内視察とかあるかもしれないから、その時は一緒に連れて行って貰える様に頼んでみるわ」

 イルモが笑う。
「姫さんはホントいい奴だな! ありがとよ! でも陛下と一緒じゃ喋ったり出来ねえって」

「陛下はそんな心の狭い方じゃないわよ?」

「そういう問題じゃねぇよ」
 イルモが笑って言う。

「それもそうなんだが……実はそのイロラ隊長がなぁ……なんかもう可哀想になる位、この抜擢にビビってるんだよな…」
 ヨルシムが同情気味に言った。

「そりゃ無理もないだろ、いきなり勅命で一介の小隊長、しかも陸軍の少尉が領主にって言われりゃビビリもするだろ」
 イルモは他人事の様に笑っている。

「……今、イロラ少尉はどこにいるの?」

「多分詰所にいるんじゃねえかな」
「そう。ありがとう! ちょっと行ってくるわ!」
 私は兵士に詰所向かって駆け出した。
「あっ! ちょっと待て!」
 ヨルシムが止める声が聞こえたけど、今は言う事聞いてる場合じゃない。

 兵士の詰所にたどり着いた。
 多くの兵士が出入りしていて、顔見知りの兵士達も少しいた。
「姫様、こんなトコで何してんすか!」
 私に声をかけてきたのは、アーロンという衛兵の一人だ。
「え、あ、ホントに姫様だ。何してんすか?」アーロンの後ろから更に声をかけてきたのはクスターという衛兵。
 警ら中に話しかけてイルモとヨルシムの様に仲良くなった。
「ねえ、イロラ少尉はここにいる?」
「ああ、少尉ならいますよ? イロラ少尉~‼︎」クスターが大きな声で少尉を呼ぶ。
「なんだ‼︎」詰所の中から返事が聞こえた。
「姫様がお呼びですよ!」
「はぁ⁉︎ 姫様って誰だよ…って、姫様⁉︎」
 イロラ少尉が飛んでやって来た。
「次期御正妃様にあらせられましては、ご機嫌麗しゅうございます! 小官に何か御用でありましょうか!」
 イロラ少尉は最敬礼で、私にそう言った。
「あの、少しお話したいんだけど、いいかしら?」
「……小官とですか…? 構いませんが……」
 詰所の裏側にある、ちょっとした林で話をする。

「あのね、私教えて欲しい事があるの。こういう土地があるの」
 しゃがみ込んでその辺の木の棒を拾って地面に地図を書く。
 イロラ少尉も同じ様にしゃがみ込んでくれる。
「四方は北に2国、南に1国、東に1国。
 そんな風に囲まれた国があったとして、イロラ少尉ならどう守る?」
「……西はどう言った様子なのですか?」
「山脈よ」
「逃げ場がないですね。ならばまずは同盟国を捜します」
「同盟国は1国、南東に強い国よ」
「……これは……王都。マイヤール領の事ですか?」
 私は笑ってイロラ少尉に白状する。
「なんだ、もうバレちゃった」
 私はしゃがみ込んだ姿勢のままイロラ少尉をじっと見つめる。
「あのね、気負わなくていいと思うの。
 イロラ少尉が今考えた事を一つずつ実行していくだけなのだと思うの」
「……姫様」
「陛下もきっと、出来ないと思う事をやらせようなんて思ってないもの。
 別に領主然としなさいなんて言ってないと思うし」
「……そうですかね?」
 イロラ少尉は俯きポソリと呟いた。
「そうよ。多分陛下がイロラ少尉にして欲しい事は、今イロラ少尉が考えた事。それが全てだと思うわ」
「……それなら、難しくはあっても出来そうです……」
「でしょ?」
 私はにっこり微笑む。
「……俺は庶民の出です。しかも母は地の民の女です。陛下のこの大恩に報いる事が出来る素地が自分にあるとは思えなかった……」
 私はにっこり笑って言葉を返す。
「あら、私なんて純血の地の民よ?」
 イロラ少尉が笑う
「確かに」
「多分そろそろグリムヒルトは、海の民であるとか、地の民であるとか、そういう事を忘れてもいい時期に来てるのよ。その証がきっと私だったり、イロラ少尉だったりするんじゃないかしら」
 私は立ち上がる。
 イロラ少尉も立ち上がった。
「……そうですね。……グリムヒルトは得難い御正妃様を迎える事が出来る様です……」

 イロラ少尉はにっこりと笑ってくれた。

「ひ~~っめさま!」
 知らない声がかかり、
 いきなり後ろから抱きつかれた。
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