人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 今回は宰相の要請もあって、暗部の人間も密かに同行している。
 流石に完全に二人旅は危険だと暗部の同行を条件に出された。

「テーム、サリ、いるか?」
 儂は姫の湯浴みの間、外に出て、暗部の者に呼びかける。
「ここに」テームから返事がある。
「ここに」サリからも同じ様に返事があった。
「テーム。鉱山の館に行き、鉱山責任者のヨウシア・ヘンリク・ヤルヴァの様子を探れ。必要であればその下もだ」
「御意」
「サリ、お前は坑夫達の様子を」
「御意」
 二人が去る。

 テームは諜報部門のベテランだ。赤毛で中背の良くも悪くも目立たない顔つきの男で、
 間諜を計る際、これだけ信頼できる男はいない。王太子時代の連戦では共に戦った間柄だ。

 サリは戦には出ず、情報収集を得意とし、流言などにも長けている、
 深緑の髪色でこれも中背、面長な女だ。

 二人ともなかなか腕の立つ暗部で、優秀な護衛だ。

 儂は宿に入る。
 階段を登り部屋の前に戻って扉に凭れ腕を組み
 声がかかるのを待つ。

 しばらく待つと扉の向こうから声がかかる。
「済みません、アナバス様。お待たせしました」
 その声を合図に扉を開けて部屋に入る。
「構わん。さて次は俺だな」
「わかりました。準備しますね」
「いや、ティアの残り湯でいい」
「ダメですそんな!」
 儂は服を脱ぎ始める。脱ぎながら浴室前の衝立に隠れる。
「せめて足し湯を…」
「面倒だ」
 さっさと服を脱いでしまい、浴室へ入ってしまう。
 手早く風呂を済ませて上がる。


 姫はベッドに腰掛け、帳簿を眺めている。
「あ、アナバス様。お髪を乾かしましょうか?」
 儂は髪を拭きながら姫の横に座る。
「ああ。頼む」
 姫は帳簿をベッドに置き、儂の前に立ち上がった。
「では、乾かしますね」
 姫の風魔法が展開される。
 儂の頭の周りに優しい風が取り巻く感覚がある。
 水を吸っていた髪が軽くなる。
「じゃあ、梳きますね」
 姫はブラシを手に、ベットの上に膝で立ち、儂の後ろに回る。
 髪を梳きながら姫が儂に問う。
「……坑夫というのはやはり、地の民から成っているんでしょうか?」
「そうだろうな。基本的にキツい仕事は地の民が就労している事が多いな」
「……マグダラスにも鉱山がありましたけど、鉱山を中心にした街は結構賑わいがあってたくさんの坑夫が酒場で騒いでいると聞いたんです」
「グリムヒルトもそうだな」
「ここは御料地であるという特殊な事情もあるのかもしれませんけど……街が上品すぎる気がするんです」
「それは俺も同意だな」
「……なので、坑夫達の話を聞けたらと思うんです。……終わりましたよ」
 姫はいつもの手順の途中で終える。
「ああ」
 儂は自ら髪を適当に束ね、紐で纏め縛る。
 あまりに整っていても街にそぐわないので自ら束ねる事にした。
「ティアの望む様にすれば良い。では、さっさと寝てしまうか。坑夫達の朝は早い」
「はい」
 二つのベッドの一つにそれぞれ入る。
「おやすみなさい、アナバス様」
「ああ」
 しばらく黙っていると姫の寝息が聞こえてくる。
 夜半、コツ、と一つノックする音が鳴る。
 儂は扉を開き、部屋の外へ出る。

 扉の前にはサリが立っていた。
「サリか。何かわかったか?」
「はっ。坑夫達はどうやら行動を制限されてるに等しい様です。酒場の親父の情報ですと、工賃は相当搾られ、生かさず殺さずの待遇でタコ部屋生活を強いられていると」

「ほう」

「鉱山責任者ヨウシア・ヘンリク・ヤルヴァ、
 お目付け役、トミ・サンテリ・ハユリュネン、
 坑夫長アルシ・シュルヴェステル・ハハリ、
 宝石商のエーリク・タウノ・サーレンパー、
 これらが鉱山の館に主に出入りする者で、他の宝石商からは評判が悪い様です。他の宝石商らは買い付け交渉の席にも座れず、サーレンパーから買うしかないと」

「サーレンパーと言えば、御用商人だったな」

「はい、先代様より20年近く」
「あの爺はよほど人を見る目がないな」
 儂は鼻先で笑う。
 サリは静かに控える。
「ご苦労だった。今日は休め」
「御意」
 サリが去るのを見送る。
 テームの調査は時間がかかるだろう。

 儂は部屋に戻る。
 スヤスヤと眠る姫のベッドに潜り込む。
 いつもより狭いベッドの中でいつもと変わらず、姫を抱き寄せて眠りについた。
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