人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 朝、陛下が横にいて私を起こした。
「ティア、そろそろ起きなければ坑夫達の様子が見れんぞ」
 私は陛下の胸に顔を埋めていた。
 陛下の声の方を見上げる。
「……へいか……」
「アナバスだろう?」
 私はまだ働かない頭で思考する。
 そうだ、アナバス様だ。
「……あ、あなばす……さま」
「起きたか?」
「おはようございます……」
「ああ。まだ寝惚けているか」
 どんどん覚醒してくる。あれ? 昨日はベッドは別々だった筈なのに……
「ど、どうして、こちらのベッドに⁇」
「どうやら俺はティアを抱いていなければ、眠れなくなったらしい」
 陛下は私の頭を撫でてそう言った。
 私はなんだか恥ずかしくなって、俯く。
「お前はいつも顔を赤らめているな。そろそろ慣れても良さそうなものだがな」
 陛下は意地悪く笑って、でも私の頭を撫で続ける。
「……どうしても、慣れません……」
 だって、陛下は素敵なんだもの……。こんな素敵な人にこんな風に迫られたり、褒められたりしたら、誰だってドキドキしちゃうと思うのよ。
「……おっ……起きます!」
 私はガバリと起き出して、ベッドを出た。
 浴室前の衝立の後ろに回り、服を着替える。
 平民の服に着替えた私は髪を梳かして、高い位置でまとめて紐でキツく結う。
 グリムヒルトの女性用の服は肩口まで開いた涼しげなもので、実はあまり慣れない。なので私はその上にボレロを羽織る。
 準備を済ませたら、次は陛下が衝立の後ろに回る。
 お着替えをしている間に水を汲みに宿の裏の井戸まで出かけようとすると「一緒に行くから待て」と言われた。
 陛下のお着替えが終わって、私達は井戸へと向かう。
 井戸の横には小屋があって、その中に桶や柄杓が幾つか置いてある。好きに使っていいという事らしい。
 陛下が鶴瓶を引き上げ、桶に水を満たす。
 私達はそれで顔を洗い、持ってきていたタオルで顔を拭く。
 残った水は辺りの植物にかける。

 そして、鉱山へと向かった。

 まだ朝の白んだ空気の中を二人で歩く。
 山の険しい箇所を抜けて、御料地である証の、グリムヒルト王家の鷹の紋章を配した門がそびえ立つ鉱山入口まで着いた。

 私達の来た方とは反対側、西側からゾロゾロと坑夫達がやって来た。
 皆、一様に覇気がなく黙々と門を潜り、坑道へと向かう。
 その様子に声をかけることも出来ず、ただ見送ってしまった。

「……アナバス様。今の坑夫達の様子は……おかしいですよね?」
「そうだな」
 私は急く気持ちで言った。
「鉱山責任者に会いましょう」
「まぁ待て。情報を収集してからでも遅くない。街で聞き込んでからでもいいだろう」

 陛下は私の肩に手を置いて私を制止する。
「……そうですね」
「テームという諜報も派遣してある。その報告が済んでからでもいいだろう?」
「……はい」
 ああ、そんな人達が守ってくれてたんだ……なんて考えながら、陛下の言葉に頷いた。
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