人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
64 / 200

64

しおりを挟む
 陛下と二人で館に戻ると、アンナさんもイエンニさんもラウラさんも随分と改まってしまった。
「御正妃様、知らぬ事とはいえ、随分失礼を働いてしまいまして、申し訳ございません!」
 アンナさんが頭を下げ、イエンニさんとラウラさんもそれに続く。
「頭を上げて下さい! 私が身分を隠してこちらに雇われたのですから、そんな風に謝らないで下さい」
「そういう訳には参りません」
「どうかもう、気にしないで下さい。それよりもアンナさん達には次に来る館長の元、引き続きこの館の家事一切をお任せしたいんです。もし人手が足りないなら新たに雇い入れたいと思っています。やはり侍女と料理人でしょうか?」
 アンナさんは顔を上げて返事する。
「そうですね、正直に申し上げますと、後侍女1、2人は雇い入れて頂きたいですね。何せ館は広うございますので行き届かない場所もございます。
 料理人は坑夫達の食事がありますから、それを今は料理長が一人で賄っているのです。昨日の様に晩餐などが入るととても手の回らない様子ですね」
「わかりました。給与や待遇に不満はないですか?」
「申し上げにくいのですが……、給与は普通に比べると少し安いと感じております」
「わかりました。それも適正価格をお支払いします」
 ヤルヴァは本当にケチだった様で、小さな出費も抑えて、自分の懐に入れてたらしい。
「寄宿舎も建て替え次第、人を雇い入れようと思います。あちらは今は掃除も入っていない様ですから。しっかり者のイエンニさんに寄宿舎の侍女長をお任せしたいと思ってるのですが……いかがでしょうか?」

「私でございますか⁉︎」
「はい。アンナさんの許可が得られればですけれど……」
「イエンニでしたら侍女長も務まると思いますわ」
 イエンニさんは恐縮して首を横に振っている。
「いや、そんな、私……、務められるかわかりません!」
「大丈夫ですよ。ねぇ、ラウラさん」
「はい! 私もイエンニさんなら務まると思います!」

 イエンニさんは考える様にして沈黙した後、意を決して声を発した。
「……私で良ければ……務めさせて頂きます」
「良かった! 引き受けてもらえて! これからもこのセオ鉱山の館をよろしくお願いしますね。要望があったらどんどん上げて下さいね。出来うる限りの事はさせて頂きますから」
「勿体ないお言葉です」
 アンナさんが頭を下げると、他の二人も倣って頭を下げた。
 結局頭を下げられてしまった。
「本当にそんなに畏まらないで下さいね⁈」

 私は困ってしまい、話を終わらせる事にした。
「では今日の業務、頑張って下さいね」
 本当は侍女の仕事をしたかったけど、この畏まってしまったアンナさん達だと、逆に気を使うだろうと思い、お任せする事にした。

 自分達の部屋に陛下と二人で戻る。
 部屋は最初に案内された場所から移していない。
 陛下も私も特に不満がなかったので、自然とこのままここに居着いた。
「はぁ……皆さん、なんだか凄く畏まってしまいましたね」
 陛下はくつくつと笑った。
「まぁ、女神とまで言われては疲れもするか」
「はい……女神は幾らなんでも言い過ぎです……。しかも坑夫の皆さん張り切ってしまったし……。でも、しなければいけない事が増えました。まずは責任者と坑夫長、何より信頼出来るお目付役が要りますね。寄宿舎の建設も急務です。建築士を派遣して街の工房に依頼しなくてはいけませんね」
「責任者達は俺から派遣しても良いぞ? 俺も鉱山を持っている。それらを移動させれば良い」
「しかし、アナバス様の鉱山の人手が足りなくなりませんか?」
「その点は問題ない。人は育てる様に言ってある」
「そうですか。でしたらお願いします」
「寧ろセオの方が働き良いと言うかもしれんな」
 陛下が笑う。
 私も笑ってをそれに答えた。

 セオ島の最後の1日は穏やかに過ぎていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...