人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 お茶会が開かれる。
 私は時間前にレーナに薄い緑に中央にスリットの入った部分がベージュのドレスを着せてもらう。
 華美にならない髪飾りをつけ、髪は下ろしてある。イヤリングや首飾りは私の希望でつけなかった。
 多分あったら気になってしまってゆっくりお茶や会話を楽しめない。

 妾妃のお2人とはご挨拶頂いた事はあったけど、言葉を交わすのは殆ど初めてに等しい。
 ラルセン様は落ち着いたピンクの地に薄い茶色のレースのドレスを纏って萌黄色の髪をアップに結い上げていた。
 ヴィカンデル様は濃紺の地に白の刺繍の施されたドレスで、ハーフアップで纏められている。

「マルグレット・ロヴィーサ・ラルセン様、エミリア・エンマ・ヴィカンデル様、此度は私のお茶会にいらして頂き有難う存じます。不慣れですので粗相がありましょうがどうぞご容赦ください」
「次期御正妃様のお茶会にお声をかけて頂けて光栄ですわ」
 ラルセン様が優しげな表情とそれに似つかわしい声音で静かに答えた。
「私も、お招き頂きまして、有難う存じます」
 毅然とした声音でヴィカンデル様も答えて下さる。
「件の事件で私達妾妃は2人になってしまいました。次期御正妃様とは和協して後宮の則を改めたく思います。」
 ヴィカンデル様が言う。
「私は他国の王女ですからわからない事も多々あります。後宮は陛下の安寧の為にあるものだと考えています。それが成せる様どうかお力をお貸し下さい。」
 私はお二方を見て助力を願う。
「あの……」
 ラルセン様から少し困り顔でお声が上がる。
「どうされました?」
 ラルセン様は儚く笑う。
「私、陛下と次期御正妃様の婚姻の儀が済んで落ち着かれましたら、廃妃を申し出ようと思っております」
「え⁈    そうなのですか⁇」
 私が驚く。
 ヴィカンデル様が訊ねる。
「どうしてですの?」
「私は庶民の出です。陛下をお慰めする以外に出来る事がございません。社交界での諸々に渡り合える才覚も持ち合わせていませんし、これ以上はただ無闇に血税を消費するだけですもの。……以後は廃妃になって静かに暮らしとうございます」
「ラルセン家はそれで納得なさるのですか?」
「ラルセン家の御当主にもご相談した結果ですのよ」
 柔らかい笑顔でラルセン様は答える。
「こんな私でもまたいずれお慰め出来る事もあるかもしれないと、ここまで来ましたが、陛下が次期御正妃様を得られた事できっと今後、私の必要となる場面は来ないと思います。私は人脈もございませんし、先程申しました様に才覚もございません。お役に立てる所を想像出来ないのです」
 ヴィカンデル様が口を開く。
「私も同じ様なものでしてよ?それに私はお二方とは違って陛下からは御寵愛どころか嫌厭されておりますわよ。」
「……ラルセン様の決意は固いですか?」
 私はラルセン様をじっと見つめて問うてみる。
「ええ、次期御正妃様。私はここで自分の成すべき事は全て果たしたと思っております」
 ラルセン様は優しげな微笑みを絶やさない。
「……本当に後悔はしないですか?」
「……正直に言いますと、わかりませんわ。後宮を去った後自分がどう思うのか、今の私には想像もつきませんけれど、それでもわかる事は陛下にとって私は今後必要ではないという事。それだけは確かですもの」
 私の脳裏にふと、レニタ様が過る。
 ラルセン様も同じ想いなのだろうか……?
 陛下を愛していて、だけど自分ではない人を想っている陛下をずっと見つめ続けなきゃいけない現実に、絶望したレニタ様。
 ラルセン様もあんな想いを抱えていらっしゃるのだろうか?
 私はラルセン様から目が離せない。
「次期御正妃様。私はお役目を終える事にホッとしているのですよ。……元々後宮の暮らしは私には向かなかったのです」
 ラルセン様の微笑みは安堵の色を乗せていた。
「……そうですか……わかりました。もう陛下にはその旨はお伝えになっておられるのですか?」
「いいえ、まだ」
「そうですか……。私にはまだ後宮の人事に裁可を下す権限はありませんから。ラルセン様のご意志のままに」
「ありがとう存じます、次期御正妃様」
 私は話を変える。
「ああ、私の事はどうぞレイティアとお呼び下さい、ラルセン様、ヴィカンデル様」
「私もどうぞマルグリットと。レイティア様」
「私の事もエミリアとお呼び下さいませ、レイティア様」
「マルグリット様、エミリア様、ありがとうございます。先程も申し上げましたが、私はまだまだ若輩な上に他国の王女で足りない事もたくさんあります。お助け頂きたいと思っています」
「少なくとも、社交界には私達が足並みを揃えている事を知らしめるべきでしょうね。家柄としても反目し合う仲ではございませんし」
 エミリア様は背筋を伸ばし、カップを口につけた。
 そして唇を潤す程度でソーサーに置いた。
「現在のグリムヒルトは軍部が強過ぎて文官達が不満を持っています。レイティア様の後ろ盾、ヴィルッキラ家は御当主が軍師閣下であらせられます。我がヴィカンデル家は当主が財務官で文官専任です。互いの調和を図る意味でも私達の和協は重要な意味を持つ事になるでしょう」
 エミリア様は溜息をついて仰った。
「私、こういった事はずっと申し上げて参りましたけれど、皆様どうしても家柄や出自にばかり目を向けておいでで、ずっと膠着しておりました。レイティア様の存在はその膠着に一石を投じました。
 私、とても期待しておりますの」
「期待、ですか?」
 琥珀色の髪が揺れ、浅紫の瞳が私をひたと捉えた。
「はい。陛下はまつりごとを放棄し引き篭もっておられ、後宮にもご興味をお持ちにならなかった。その陛下をお諌めし、聞き届けて頂いたと聞いた時から、レイティア様なら官の不満を陛下にお伝え下さると」
「……そうでしたか。確かに文官達は軍人の兼任が多くて不満もおありでしょうね」
「はい、調和の取れた人員配置をして頂かなければ、不満も膨らむ一方です」
 私は、エミリア様の浅紫の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「わかりました。ですが一つ心に留め置いて頂きたい事がございます。
陛下は決して軍人だけを重用されている訳ではありませんよ?いつだってその為人を大事にされています。
 その証にヴィカンデル家の御当主は陛下が財務官に抜擢なさったと聞き及んでおります。
 信がない事の理由を自身の中にも見つける事が出来ないか、それは必ず自問して頂きたいのです」
 エミリア様は私に軽く頭を下げる。
「仰る通りです。肝に銘じますわ」

「後宮は陛下の為にある場所です。お諌めするのは私達の務めである事は確かですが、それ以上にお慰めするのも務めであると思います。どうかその事をお忘れなき様に」

 恐らくこれからもこういう期待はかけられるだろう。
 私はどこまで陛下の盾になれるだろうか。
 私は一番に陛下の味方でありたい。

 そう思ったけれど、そんな事は顔に出してはいけないから、紅茶を飲んで誤魔化してみた。
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