人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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75、5年前

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 爽快に晴れた日の午前中に国内の見聞をして回ると行って出た軍師が帰った。

 女を伴って帰ったと報告を受けた。

 軍部が整ったと思ったら、
 宰相、法相、外相を軍部から抜擢して1ヶ月で急に思い立った様に旅立った。
 半年ぶりに帰ってきたと思ったら女連れとは笑わせてくれる。

「陛下、ただいま戻りました」
「で? 見聞の結果得たモノが女か。お前なかなか面白い男ではないか」
「[セイレーン]を見つけました。今は五代目だそうです」

「ほう。それで?」
「お引き合わせ致したく」
「ふむ……。許す。連れてこい」
「御意」
 軍師は一旦出て行く。
 次に長身の女を連れて部屋に入る。

 女はその目立つ上背はもちろん、目の冴えるワインレッドの髪色から覗かせた黄色い獣の様な眼の色が印象的だった。
 静かに佇んでいても、その姿勢や歩き方、雰囲気が連戦の剣士であることを物語っている。

「ふむ。うぬが今代の[炎のセイレーン]か。名は?」
「へリュ」
「歳は幾つだ?」
「21」
「剣技はエサイアスから習ったか?」
「師匠を知っているのか?」
「王太子であった時に少しな。さて、うぬは儂に仕える気があるか?」
 この獣の様な眼が儂に媚び諂う事などないだろう。
 さて、どうしてやろうか。
「私はお前には仕えない。宮仕えをする気は一切無い」
「ほう。ただ[炎のセイレーン]の二つ名を諸外国に盗られる訳にはいかんのでな。うぬはこの国から出る事は罷りならん」
「お前達国の都合に振り回される謂れはない」
「ならばセイレーン殿。儂と勝負をせんか?」
「勝負だと?」
「うぬが勝ったら自由だ。何処へなりとも行くが良い。儂が勝ったらその身を生涯使わせて貰うぞ。これは王命だ」
「……ふざけた男だ……」
 獣の黄色い瞳が剣呑に揺れる。
「細工はせぬ。今すぐ打ち合おう」

 久しぶりに血湧き肉躍る。
 退屈な玉座もたまにはこういう事がある。

 騎士団の演習場に行く。
 騎士団の演習を止め、儂とセイレーン殿は向き合う。
「三本勝負といくか?」
 儂はセイレーン殿に問う。
「……いいだろう」

 カトラスを二本、鞘から引き抜き、こちらを睨み付けるセイレーン殿の覇気と言ったらどうだ。まるで闘気が見える様だ。

 儂も愛刀を抜刀する。
「軍師、合図を」

 騎士達が固唾を飲んで見守る。

「はじめ」

 軍師が高らかに試合始めを宣じる。
 尋常でない脚力でセイレーン殿が儂に向かってくる。
 右手から高らかに振り上げられたカトラスを躱すと左手のカトラスから突きが繰り出される。
 それを剣でいなす。
 女とは思えぬ力強い太刀筋。三刀目の横に払われる筋に儂は間合いを取るため後ろに下がる。
 遠慮する事なくセイレーン殿は間合いを詰め、縦一線に一挙に右、左と振りかぶる。
 儂は横に避け、その左右のニ刀を躱した…つもりだったが、素早く背面を取られた。
 背面から首筋にカトラスの切っ先が突きつけられる。
「……面白い。さすがはセイレーン。強いな」
 儂はその強さを惜しみなく讃える。
「…………」
 セイレーン殿は黙ったまま儂を睨みつけた。

 また互いに間合いを取る。
「二本目、はじめ」

 次は儂が先手をとった。
 二本のカトラスからの斬撃に対抗するには手数しかないだろう。
 まずは一刀目、セイレーン殿に向かい横一線に入れる。
 それは難なく躱される。袈裟懸けに二刀目を打ち込み、返す刀で下段から上段に切り込む。
 セイレーン殿は柔軟に上半身だけが後ろに仰反る。相当腹筋を鍛え上げているのだろう。
 すんなりと元の体勢に戻る。
 儂は次に縦一線に切り込む。
 セイレーン殿は器用に後ろに飛ぶ。
 流石は足場の悪い船での戦闘を想定した剣技だ。
 なんとも柔軟に器用に一刀一刀を躱す。
 面白くなって次々に斬撃を打ち込んでいく。
 速さで翻弄し、セイレーン殿は防戦一方になる。
 次々に打ち込み、刹那。
 打ち込みを止める。

 こうして期をずらすと人は一瞬迷いを持つものだ。
 それはどれだけ熟練した剣士でも判断材料を得るのにほんの瞬きすら終わらぬ刻、隙が生まれる。

 セイレーン殿とて、例外ではなかった。
 その『刻』の隙に喉元に剣を突きつける。

「二本目は儂だな」
「…………」
 セイレーン殿はやはり獣の様な瞳を光らせて儂を睨む。
 周囲から歓声が上がる。
「炎のセイレーンから一本取ってしまわれたぞ」
「流石は陛下」

「三本目、はじめ」

 セイレーン殿も儂も一歩踏み出す。
 先程の手は二度と使えないだろう。
 とにかく打ち合う、縦一線、横一線、突きを打ち込み、鍔迫り合いに突入する。
 気を散じた方が負ける。

 睨み合い、気合がぶつかり合う。
 不意にセイレーン殿は後ろに下がり鍔迫り合いが終わりを告げる。

 再び打ち合いが始まる。
 右、左、下段、上段、中段、打ち合っていて、


 不意に飽いた。


 セイレーン殿の左の一刀をいなして、
 ぽろりと剣を手から離した。

 セイレーン殿の右の突きの一刀が儂を貫けば…

 と思ったが、鼻先で止まる。
 儂の殺気が消えたのがわかったか、瞬時に反応した様だ。
 カシャンと儂の剣が落ちた音がした。
「儂の負けだ。うぬの好きにせよ。何処へなりと行け」
「……貴様……」
 やはりセイレーン殿は儂を睨みつける事をやめない。

 騎士達から大きな歓声が上がった。
「凄い試合だった!」
「陛下もセイレーンもとてつもない強さだ!」

 賛辞の言葉で演習場は溢れている。
 儂はそれにげんなりしてさっさとその場から立ち去る。
 控えていた騎士団長に去り際に一声かけた。

「騎士団長、演習の邪魔をしたな。続きを」
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