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明日は婚姻の儀だ。
城内には既に賓客を迎え入れられ、宮官達は皆一様に慌ただしく働いている。
儂と姫の傍仕え達は更に忙しく、式の最終準備に追われている。
特に姫付き侍女達は姫が15の誕生日を迎えたので、その贈答品などの整理から、明日の入念な準備まで忙しい様だ
明日、式で使う儂からの贈答品の真珠のネックレスとイヤリングの準備も進めている様だ。
儂の持つ島で採れる真珠で、品質は最高級のものを加工したらしい。
侍女達が姫を呼ぶ声がする。
「姫様~⁈ どこにいかれましたか⁈姫様~⁈」
どうやら姫は逃げたらしい。
儂は独りごちる。
「……そうだ。逃げるなら今しかないぞ……。姫」
王の間のバルコニーに出て、風に当たる。
そろそろ日差しが強い季節に差し掛かってくる。この国は暑い期間が長くてかなわない。
目の前に大木がある。
これはよく暗部が儂に報告に来る時などに重宝している。
その木がゆさゆさと揺れた。
見つめていると、姫が裸足で木に登っている。
姫はスルスルとどんどん木の上部に登っていく。
上手いものだ。
そして儂の目の前の木の枝に腰掛けた。
儂は欄干に腕を預けて体重をかける。
「何をしておるのだ?」
「え⁈ 陛下⁈」
姫は儂の存在に気が付き驚いた様だ。
「驚きました……。ここは陛下のお部屋の前の木でしたか」
「ああ。丁度儂の部屋のバルコニーの前だ。
で? 何事なのだ?」
姫は柔らかく笑う。
「少しだけ、昔を懐かしんでおりました」
「……儂もそっちに行こう」
「へ?」
儂は欄干に飛び乗り、立つ。腕を組んで木に飛び移る。
手頃な太さの枝を選んだが少しバランスを崩す。
ぐらりと落ちそうになる。
「陛下っ‼︎」
姫が青ざめて儂の頭を胸元に抱き抱える。
「無茶をなさらないでください! 陛下!」
「……姫の心臓の音が聴こえる」
儂はその心音を堪能する。姫の音だ。
ドキドキと早鐘の様に煩く鳴る。
「へ……陛下……」
姫は恥ずかしそうに儂から離れたそうにしているが、儂が姫から離れない。
「……姫ならば、むざむざ儂を落とさぬと思った」
「……はい……」
姫は観念した様に儂の頭を胸元に抱いたまま返事をする。
「……昔を懐かしんでおったのか?」
「はい。マグダラスではよく木登りしました。そういえばグリムヒルトに来てからは登った事がないと思い立ったのです」
「……姫。国に帰りたいか?」
「……いいえ。どうしてですか?」
儂は姫が帰れない事を、決して帰らぬ事を知っていて、今更この場になって初めてこれを聞いた。
「儂は姫、お前を手に入れたら、恐らく何一つ許さなくなるだろう。お前と出会って知ったが儂は狭量な男だ。
儂の妻になるなど生き地獄に等しい。
だが今ならまだ許してやれる。お前のおらぬ儂に戻るだけだ。お前にただ一度だけ、機会をやる。逃げるなら今だ」
姫は切なげに笑う。
儂の頭を離し、儂の目を見て話し出す。
「陛下? もう私は、マグダラスとはとうにお別れを済ませています。私には、逃げる所も帰る所ももう、陛下の元しかないのです……」
儂は姫を見つめる。
「どうか、そんな悲しい事を仰らないで下さい。どうぞ帰って良いと陛下が思って下さる間、お傍に置いて下さい」
「……ならば生涯儂の傍におれ」
儂は姫の頬を撫ぜて、頭を撫ぜ、引き寄せた。
そして唇を重ねる。
「もう姫は後戻り出来んぞ。覚悟せよ」
「はい……。私は果報者です。こんな風に陛下に求めて頂けるのですから……」
2人で笑い合う。
儂は瞳に薄く涙を浮かべた姫のこの微笑みを生涯忘れぬだろう。
城内には既に賓客を迎え入れられ、宮官達は皆一様に慌ただしく働いている。
儂と姫の傍仕え達は更に忙しく、式の最終準備に追われている。
特に姫付き侍女達は姫が15の誕生日を迎えたので、その贈答品などの整理から、明日の入念な準備まで忙しい様だ
明日、式で使う儂からの贈答品の真珠のネックレスとイヤリングの準備も進めている様だ。
儂の持つ島で採れる真珠で、品質は最高級のものを加工したらしい。
侍女達が姫を呼ぶ声がする。
「姫様~⁈ どこにいかれましたか⁈姫様~⁈」
どうやら姫は逃げたらしい。
儂は独りごちる。
「……そうだ。逃げるなら今しかないぞ……。姫」
王の間のバルコニーに出て、風に当たる。
そろそろ日差しが強い季節に差し掛かってくる。この国は暑い期間が長くてかなわない。
目の前に大木がある。
これはよく暗部が儂に報告に来る時などに重宝している。
その木がゆさゆさと揺れた。
見つめていると、姫が裸足で木に登っている。
姫はスルスルとどんどん木の上部に登っていく。
上手いものだ。
そして儂の目の前の木の枝に腰掛けた。
儂は欄干に腕を預けて体重をかける。
「何をしておるのだ?」
「え⁈ 陛下⁈」
姫は儂の存在に気が付き驚いた様だ。
「驚きました……。ここは陛下のお部屋の前の木でしたか」
「ああ。丁度儂の部屋のバルコニーの前だ。
で? 何事なのだ?」
姫は柔らかく笑う。
「少しだけ、昔を懐かしんでおりました」
「……儂もそっちに行こう」
「へ?」
儂は欄干に飛び乗り、立つ。腕を組んで木に飛び移る。
手頃な太さの枝を選んだが少しバランスを崩す。
ぐらりと落ちそうになる。
「陛下っ‼︎」
姫が青ざめて儂の頭を胸元に抱き抱える。
「無茶をなさらないでください! 陛下!」
「……姫の心臓の音が聴こえる」
儂はその心音を堪能する。姫の音だ。
ドキドキと早鐘の様に煩く鳴る。
「へ……陛下……」
姫は恥ずかしそうに儂から離れたそうにしているが、儂が姫から離れない。
「……姫ならば、むざむざ儂を落とさぬと思った」
「……はい……」
姫は観念した様に儂の頭を胸元に抱いたまま返事をする。
「……昔を懐かしんでおったのか?」
「はい。マグダラスではよく木登りしました。そういえばグリムヒルトに来てからは登った事がないと思い立ったのです」
「……姫。国に帰りたいか?」
「……いいえ。どうしてですか?」
儂は姫が帰れない事を、決して帰らぬ事を知っていて、今更この場になって初めてこれを聞いた。
「儂は姫、お前を手に入れたら、恐らく何一つ許さなくなるだろう。お前と出会って知ったが儂は狭量な男だ。
儂の妻になるなど生き地獄に等しい。
だが今ならまだ許してやれる。お前のおらぬ儂に戻るだけだ。お前にただ一度だけ、機会をやる。逃げるなら今だ」
姫は切なげに笑う。
儂の頭を離し、儂の目を見て話し出す。
「陛下? もう私は、マグダラスとはとうにお別れを済ませています。私には、逃げる所も帰る所ももう、陛下の元しかないのです……」
儂は姫を見つめる。
「どうか、そんな悲しい事を仰らないで下さい。どうぞ帰って良いと陛下が思って下さる間、お傍に置いて下さい」
「……ならば生涯儂の傍におれ」
儂は姫の頬を撫ぜて、頭を撫ぜ、引き寄せた。
そして唇を重ねる。
「もう姫は後戻り出来んぞ。覚悟せよ」
「はい……。私は果報者です。こんな風に陛下に求めて頂けるのですから……」
2人で笑い合う。
儂は瞳に薄く涙を浮かべた姫のこの微笑みを生涯忘れぬだろう。
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