人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
119 / 200

119

しおりを挟む
 夜が明けて、早速武装船の編成が行われた。
 全て儂の指揮下に入るという事で余興としてはなかなかに楽しめそうだ。
 一隻に一人、軍人や傭兵などの経験者を置き、指揮させる。その5人が集められ、儂の元に召集された。
「アナバスという。一応お前達の指揮を執る。どんな経験がある?」
 三人はグレーゲルと後二人。名をブロルとクラースというらしい。二人は元はプトレドで傭兵をやっていたらしいが今はグリムヒルトの花街に流れてきたという。
 グレーゲルは元グリムヒルトの陸軍の軍人だったらしい。そして傭兵として色々な国を渡り歩いてここに行きついた様だ。
 そして他二人も経歴は同じ様に軍人崩れだ。
「俺はダーグ。元サンドバルの海軍だった。今は傭兵業を生業にしてる」
「よろしく頼む。直近ではどんな仕事をした?」
「用心棒としてここの船に乗ってた。この一隻前に着いた船だ」
 儂はレイティアが気を揉んでいるであろう質問をぶつけてみる。
「ほう。……小耳に挟んだが、その船でイザコザがあったと聞いたが」
 ダーグは考え込む。その横にいた男が口を開く。
「あぁ、あんたが言ってんのは俺の船じゃねえのか?」
 なるほど。同じ時期に帰った船が2隻あった様だ。
「俺ぁマッツ。あれだろ? うるせぇ乗組員を海に突き落としたってヤツだろ?」
「ああ、それだ」
「オリヤンって奴がよ? やめときゃいいのに密輸を訴え出るとか言い出しやがって乗組員連中で海に突き落としたんだよ。一応俺は止めたぜ? だがよ、連中興奮しちまって、あっという間に海の藻屑だぜ? 怖ぇよな」
 笑いめかしながらマッツは言った。
「女から貰うあの珠取り上げてドボンだ。女はグリムヒルトの王城で侍女やってるとか言ってたな」
 どうやらアイラの恋人に確定の様だ。
「なるほど。特に面倒ごとになりそうな案件ではなさそうだな」
「ああ。面倒はないと思うぜ? なんたって本人は死んじまってるだろうからな」
 海原に突き落とされたのならば、生きている確率は万に一つもないだろう。他に船影でもあったのなら可能性はなくもないだろうが。

 船団の指揮について簡単な説明をする。基本的に海に出てしまえば各船の判断で動くことになる。
 巡回中の海軍を想定した動きを各々に聞かせておく。
 恐らく軍船に取り囲まれるので、こんな説明は全く意味を持たないが、余興程度には丁度いい。

 顔合わせと説明を終え、自身の船の船員たちと話をしていると面布の男がやって来た。
「アナバスと言ったか、来い」
 面布の男についていくと人気のない倉庫に至る。
 人の気配がする。五人ほどに囲まれているようだ。
「なんのつもりだ?」
 儂は面布の男を問いただす。面布の男は儂をまっすぐ見つめ言った。
「どれだけ腕が立つのか見てやろう。ここで死んでも不慮の事故だ」
「ほう……面白い。いいぞ? 試されてやる」
 儂は抜刀し、片手持ちで正眼に構えた。
 1人目の男が正面から斬り込んで来る。儂はその一刀を交わして次後ろから横一閃斬り込んできた一刀を剣でいなす。
 剣を受け止め動きの止まった2人目男の鳩尾に空いた左手で拳を入れる。
 更に右方から斬り込まれる。それを剣で弾いて相手の剣を飛ばす。剣を失った男の背後に回って後頭部に手刀を入れてやると膝から崩れ落ちた。
 残った3人はジリジリと間合いを見ながら儂を取り囲んだ。
 今度はこっちから斬り込んでやる。
 先ずは横一閃に正面の男の横腹に峰で一刀をくれると横腹を抱えてうずくまる。恐らく肋が折れたはずだ。
 その様子にたじろぐ二人の男に向かっていく。
 素早く二人の男の剣を弾いて更にその後ろにいる面布の男に向かう。
 面布の男は頭を庇う様に両腕を持ち上げた。その腕に一刀入れる。
 その一刀は薄く面布の男の腕を裂き、長袖のシャツの下からじんわりと血糊が浮かぶ。
「済まんな、勢い余った。なに、不慮の事故だ。死ななかっただけましだろう?」
 儂は面布の男に笑って見せた。
 面布の男は腕を押さえながら儂を睨みつけた。
「お前はどこかで見た覚えがある」
 儂は納刀しながら言った。
「どこにでもある顔なのだろう」
 面布の男は更に睨みつけて儂に投げつける様に言った。
「私はお前を信用しない。武装船など組織して一体何を企んでいる?」
 儂はニヤリと笑って答えてやった。
「なに、大した事はないぞ? グリムヒルトの海軍と一戦交えてみたいだけだ」
「馬鹿な! お前本気で言ってるのか⁈    こんな武装船如きで海軍に敵うはずがないだろう⁈    そんな馬鹿げた理由で虎の尾を踏む必要はない! 今すぐやめさせる!」
 儂は腕組みをして面布の男に言った。
「まぁ、俺としてはどちらでも構わんぞ? あっても無くても俺の仕事は何も変わらん」
 そう。どうせ本気の海軍に取り囲まれるのだ。恐らく総指揮を執るであろう宰相は蟻の子一匹逃す気はないだろう。
 余興があるか無いかだけの話だ。
 だが、やめるという選択肢はないだろう。
 この密輸や武装船を取り仕切っているマルコが儂に何故だか心酔している以上、儂の言を入れる可能性が高い。
 面布の男は儂を睨みつけている。
「……食えない男だ……。お前、一体何者なんだ!」
「さあな」

 儂はそう答えると、踵を返して船員達の輪に戻る事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

イケメンとテンネン

流月るる
恋愛
ある事情から、イケメンと天然女子を毛嫌いする咲希。彼らを避けて生活していた、ある日のこと。ずっと思い続けてきた男友達が、天然女子と結婚することに! しかもその直後、彼氏に別れを告げられてしまった。思わぬダブルショックに落ち込む咲希。そんな彼女に、犬猿の仲である同僚の朝陽が声をかけてきた。イケメンは嫌い! と思いつつ、気晴らしのため飲みに行くと、なぜかホテルに連れ込まれてしまい――!? 天邪鬼なOLとイケメン同僚の、恋の攻防戦勃発!

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...