人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 夜が明けて、早速武装船の編成が行われた。
 全て儂の指揮下に入るという事で余興としてはなかなかに楽しめそうだ。
 一隻に一人、軍人や傭兵などの経験者を置き、指揮させる。その5人が集められ、儂の元に召集された。
「アナバスという。一応お前達の指揮を執る。どんな経験がある?」
 三人はグレーゲルと後二人。名をブロルとクラースというらしい。二人は元はプトレドで傭兵をやっていたらしいが今はグリムヒルトの花街に流れてきたという。
 グレーゲルは元グリムヒルトの陸軍の軍人だったらしい。そして傭兵として色々な国を渡り歩いてここに行きついた様だ。
 そして他二人も経歴は同じ様に軍人崩れだ。
「俺はダーグ。元サンドバルの海軍だった。今は傭兵業を生業にしてる」
「よろしく頼む。直近ではどんな仕事をした?」
「用心棒としてここの船に乗ってた。この一隻前に着いた船だ」
 儂はレイティアが気を揉んでいるであろう質問をぶつけてみる。
「ほう。……小耳に挟んだが、その船でイザコザがあったと聞いたが」
 ダーグは考え込む。その横にいた男が口を開く。
「あぁ、あんたが言ってんのは俺の船じゃねえのか?」
 なるほど。同じ時期に帰った船が2隻あった様だ。
「俺ぁマッツ。あれだろ? うるせぇ乗組員を海に突き落としたってヤツだろ?」
「ああ、それだ」
「オリヤンって奴がよ? やめときゃいいのに密輸を訴え出るとか言い出しやがって乗組員連中で海に突き落としたんだよ。一応俺は止めたぜ? だがよ、連中興奮しちまって、あっという間に海の藻屑だぜ? 怖ぇよな」
 笑いめかしながらマッツは言った。
「女から貰うあの珠取り上げてドボンだ。女はグリムヒルトの王城で侍女やってるとか言ってたな」
 どうやらアイラの恋人に確定の様だ。
「なるほど。特に面倒ごとになりそうな案件ではなさそうだな」
「ああ。面倒はないと思うぜ? なんたって本人は死んじまってるだろうからな」
 海原に突き落とされたのならば、生きている確率は万に一つもないだろう。他に船影でもあったのなら可能性はなくもないだろうが。

 船団の指揮について簡単な説明をする。基本的に海に出てしまえば各船の判断で動くことになる。
 巡回中の海軍を想定した動きを各々に聞かせておく。
 恐らく軍船に取り囲まれるので、こんな説明は全く意味を持たないが、余興程度には丁度いい。

 顔合わせと説明を終え、自身の船の船員たちと話をしていると面布の男がやって来た。
「アナバスと言ったか、来い」
 面布の男についていくと人気のない倉庫に至る。
 人の気配がする。五人ほどに囲まれているようだ。
「なんのつもりだ?」
 儂は面布の男を問いただす。面布の男は儂をまっすぐ見つめ言った。
「どれだけ腕が立つのか見てやろう。ここで死んでも不慮の事故だ」
「ほう……面白い。いいぞ? 試されてやる」
 儂は抜刀し、片手持ちで正眼に構えた。
 1人目の男が正面から斬り込んで来る。儂はその一刀を交わして次後ろから横一閃斬り込んできた一刀を剣でいなす。
 剣を受け止め動きの止まった2人目男の鳩尾に空いた左手で拳を入れる。
 更に右方から斬り込まれる。それを剣で弾いて相手の剣を飛ばす。剣を失った男の背後に回って後頭部に手刀を入れてやると膝から崩れ落ちた。
 残った3人はジリジリと間合いを見ながら儂を取り囲んだ。
 今度はこっちから斬り込んでやる。
 先ずは横一閃に正面の男の横腹に峰で一刀をくれると横腹を抱えてうずくまる。恐らく肋が折れたはずだ。
 その様子にたじろぐ二人の男に向かっていく。
 素早く二人の男の剣を弾いて更にその後ろにいる面布の男に向かう。
 面布の男は頭を庇う様に両腕を持ち上げた。その腕に一刀入れる。
 その一刀は薄く面布の男の腕を裂き、長袖のシャツの下からじんわりと血糊が浮かぶ。
「済まんな、勢い余った。なに、不慮の事故だ。死ななかっただけましだろう?」
 儂は面布の男に笑って見せた。
 面布の男は腕を押さえながら儂を睨みつけた。
「お前はどこかで見た覚えがある」
 儂は納刀しながら言った。
「どこにでもある顔なのだろう」
 面布の男は更に睨みつけて儂に投げつける様に言った。
「私はお前を信用しない。武装船など組織して一体何を企んでいる?」
 儂はニヤリと笑って答えてやった。
「なに、大した事はないぞ? グリムヒルトの海軍と一戦交えてみたいだけだ」
「馬鹿な! お前本気で言ってるのか⁈    こんな武装船如きで海軍に敵うはずがないだろう⁈    そんな馬鹿げた理由で虎の尾を踏む必要はない! 今すぐやめさせる!」
 儂は腕組みをして面布の男に言った。
「まぁ、俺としてはどちらでも構わんぞ? あっても無くても俺の仕事は何も変わらん」
 そう。どうせ本気の海軍に取り囲まれるのだ。恐らく総指揮を執るであろう宰相は蟻の子一匹逃す気はないだろう。
 余興があるか無いかだけの話だ。
 だが、やめるという選択肢はないだろう。
 この密輸や武装船を取り仕切っているマルコが儂に何故だか心酔している以上、儂の言を入れる可能性が高い。
 面布の男は儂を睨みつけている。
「……食えない男だ……。お前、一体何者なんだ!」
「さあな」

 儂はそう答えると、踵を返して船員達の輪に戻る事にした。
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