人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 食事を終えて、ヘリュ様と乗合馬車に乗る。
 ゆらゆらと揺られてまた来た道を戻る。
「女二人で旅行かい?」
 年嵩の女性が私達に声をかけて来た。
「そんな様なものよ。貴方達は?」
 年嵩の女性の横には小さな男の子が馬車の縁に手をかけて外の様子をずっと見ていた。
「この子は孫でね、王都に仕事を探しにいくんだよ。あんた、地の民だろ?王都にはいい仕事はあるかい?」
「そうね、仕事自体はたくさんあると思うけど、身元の保証がないと雇ってもらえないことも多いと思うわ。キツい仕事なら身元の保証もいらないと思うけど」
 私の知りうる限り、選ばなければ仕事はあると思うけれど、それは港での積荷の上げ下ろしだったり、年嵩の女性では厳しい仕事だ。
 後は低賃金の清掃や賄い補助や何処かの商会の家事手伝いの様な仕事。
「……この子の母親は地の民でね、私の息子と一緒になったんだが、二人で海で死んでしまった。この子は私達の村では行き場が無くて出て来たんだ。……王都に出れば良い仕事にありつけると思ったんだけど……。そう上手くはいかないみたいだねぇ」
 女性はふぅと溜息をつく。
「……ちょっと待ってね!」
 私は鞄の中からザラザラの紙と細く切り出した木炭を取り出す。緊急の連絡用にと一応用意しておいた物だ。
 それに書き付ける。

 レイマ・ルーカス・パーシオ様

 この女性とお子さんに住み込みのお仕事を紹介して上げて下さい。
 どうぞよろしくお願いします。
 
 レイティア・エレオノーラ・グランクヴィスト

 その書付けた紙を女性に渡す。
「これを王都のサントニア通りという所にあるキヴィレフト商会の本部に行ってレイマ・ルーカス・パーシオさんという方に見てもらって。住み込みでお仕事を紹介して貰える様に頼んでおいたから」
 女性はその紙を受け取る。
「ありがとうね、お嬢ちゃん……! 感謝するよ」
「いいお仕事が紹介して貰えると良いけど……」
 この人はきっと息子さんが地の民の娘と結婚すると言った時、色々と複雑な思いをしたんだろう。
 それで二人とも亡くして、自分の手元に遺った孫を育てる為に苦労してる。
 この子を捨てるという選択肢だってあった筈なのに、大切そうに孫の頭を撫でている。
 こういう優しい人が報われない事は悔しい。今の私にはこの位の事しか出来ないけれど、この国の地の民が笑って暮らせる様にするのは私の責務だ。
 その様子をヘリュ様はジッと見つめていた。
 そして私に静かに語った。
「この国の地の民は憐れだ。私は貴方の剣と盾になる。なのでどうか救ってやって欲しい」
「……私にどこまで出来るかわかりませんが、最善を尽くします」
 私はヘリュ様の憂帯びている獣の様な黄色い瞳を覗き込んで、誓った。
 ヘリュ様が味方でいてくれるなら、心強い。

 馬車に揺られていると辺りは夕暮れになり、次第に夜になった。
 もうすぐ王都だ。
 王都郊外にある小麦畑を通り過ぎる。ざわざわと小麦が風に流されて黄金色を連想させる音を奏でている。
 街の中の馬場に辿り着くと乗り合ってた人達はドンドン街の中に溶けていった。
「ヘリュ様? ここからもう少し裏の通りにある、抜け路を使って王城に帰ります」
「そこまでお送りする」
 本当はここで別れるつもりだったけど、ヘリュ様なら抜け路の場所を知っても口外したりしないだろうし、お言葉に甘えて送ってもらう。
「ここです。送って頂いてありがとうございます」
 小さな洞窟の入口の前でヘリュ様に別れを告げる。
「気をつけられよ」
「ヘリュ様もお気をつけて」
 こうしてヘリュ様と別れて、抜け路で王城へと戻る。
 この抜け路は覚えられて本当によかった。街を突っ切る最短の道のりで王城にたどり着ける。
 先ずは身なりを整えてから陛下にご報告に行こうと思って、王妃の間へと向かう。
 王妃の間の寝室に続く扉を押す。ヒラリと扉が開いてベッドが見えた。
 そのベッドには陛下が寝ている。
 音を立てない様にそっと鏡の扉を閉じて、陛下の元にゆっくりと歩む。
「やはりここに戻ったか」
「陛下、起きておられたのですか?」
 陛下は起き上がりながら、答える。
「お前がおらねば一睡も出来ん。お陰で寝不足だ」
「そうですか……。今戻りました。今夜はご一緒させて頂けますか?」
「……言ったであろう? お前がおらねばもう一睡も出来ん。お前は儂の傍におれ」
 拗ねた様に仰る陛下が可愛くて、クスリと笑ってしまった。
「して、お前の格好は新鮮だな。男物か」
「はい、少し旅行気分でした。自分の足と乗り合い馬車を使って行ってきました」
「レイティア、こちらへ」
 私はベッドに座り、陛下が拡げる腕の中にぽすりと顔を埋めた。
 陛下の腕が私の背中に回されてギュッと抱き締められる。
「して? 何があった?」
 私は今回あった事を順を追ってお話しした。
 幻獣のオレリア、ライラ、その子どもの事、自分が儀式を行えた事にびっくりした事、ライラがいなくなった事、邑人達の憂いを伝えた。
「陛下? 邑の者達はとても不安だと思うんです。何か彼らが安心できる方法はないでしょうか?」
 陛下はしばらく考える。
「……少しの間公表せず、その間に法案を纏める」
「法案ですか?」
「純血と幻獣を保護する法案だ」
「保護……?」
「ああ、今回はたまたま直轄地で見つかったからよかったが、他領で見つかっておれば儂にも手出しが出来なんだ。それを防ぐ為、純血と幻獣に関する事は如何なる場合においても王家の監護下に置くと法にする」
「なるほど……。確かに他領でしたらどうにも出来ませんね」
「この件に関してはお前の名前を前面に出す」
「私の?」
「儂が前に出るよりもお前の名である方が純血の民も安心するだろう」
「……私の名で役に立つのでしたら喜んで」
「さて、これで安堵したか?巫女殿よ」
「陛下……やめて下さい、私、巫女なんかじゃ……」
 陛下は私の顎をくぃっと持ち上げてキスをする。陛下の舌が口腔内にどんどん入って私の舌を犯す。
「……ん……ぅん……ん……」
 長い長いキスを終えて、陛下は私をベッドに押し倒した。
「お前は儀式が出来たのだろう?なら、純血の民の待ち侘びていた巫女殿だろう」
 いつもの意地悪な顔で私を見下ろして少し笑った。
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