人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 ヘリュ様は納刀しながら私に問いかけた。
「昨夜はあまり眠っておられない。一度宿で休まれた方が良くはないか?」
 私はそれに笑顔で答える。
「大丈夫ですよ! 一刻も早く陛下の元に戻ってご報告しなければいけませんから、戻ります。……でも、ヘリュ様は大丈夫ですか?ずっと戦って下さいましたし、お疲れでしたら休みましょう?」
 ヘリュ様は首を横に振った。
「私は問題ない。ならば王都に戻ろう」
 私とヘリュ様は一度宿に戻って引き払う。
「嬢ちゃん達、無事だったか! 首尾はどうだ?」
 酒場のご主人から訊ねられる。
「上々だったわ。心配してくれてたの?」
「なんせ女二人きりだろ? 強面の男達に目ぇつけられてたんじゃ心配にもなるよ」
「⁇  目をつけられてた?」
 ご主人が困り顔で言った。
「嬢ちゃん達と話した後、男どもがやって来てな、何話したか聞かれたんだよ」
 酒場にいた時から目をつけられてたのね……。
「そうだったの。心配してくれてありがとう。でも大丈夫だったわよ」
「そうか。だったらよかった。飯食ってくか?」
「そうね! 朝ご飯も食べてないし頂いていくわ」
 私とヘリュ様はカウンターの席に腰掛ける。
「あり合わせでいいか?」
 私はにこりと笑って答えた。
「充分よ! 酒場は夜からなのに気を遣って貰ってしまって……ありがとう」
 ご主人は破顔する。
「こんな可愛い嬢ちゃんと美人の姐さんだったら幾らでもサービスするよ!」
「口が上手いわね。王都に帰ったらこのお店は最高だったって噂しておくわ!」
 ご主人は手早く調理をしながら私に返事する。
「ははははっ! 頼むよ!」
 ヘリュ様はその間ジッとしていたけれど、突然スッと立ち上がる。
「少しだけ出て来る」
 そう言い残すと店の外に出て行ってしまった。
 ……どうしたんだろうか?
「ご主人、私も少し出るわ。すぐ戻るから」
 外に出ると抜刀したヘリュ様が扉の前で立ちはだかっていた。
「……まだ何か用があるのか」
 ヘリュ様の静かな声が周囲に響く。
「へへっ! やられっぱなしで引っ込むと思ったのかよ!」
「この店の周りに油を撒いた。大人しくあの小娘を渡せ」
 手に松明を持った男が言った。きっとそんな風に松明を持った男達がこの店を囲んでいるんだろう。
「断る」
 ヘリュ様の背中越しにこそっと話す。
「ヘリュ様?少しの火の手なら、私の魔法で消せます。どうぞご存分に」
「承知した」
 ヘリュ様は最速の踏込みで松明を持った男に駆けていく。
 鍛え上げられた太腿はヘリュ様の俊敏性を極限まで高めていた。
 男の手にあった松明はヘリュ様の一刀を受けて一瞬で立ち消えた。
 更に帰す刀で横一線、男の鳩尾に素早く一刀入れて指揮する男を早々に落とした。
 素早く駆けて、店の角にいた男の手の松明を断ち切った。コロコロと火種は遠くへ飛んでいき、防火槽の中にポチャンと音を立てて入っていった。
 更に駆けてまた角にいた男の松明に一刀入れる。驚いた男は尻餅をついてヘリュ様を見上げた。
 ヘリュ様はその男に一瞥もくれる事なく次の目標へと駆けていく。
 そして最後の角にいた松明を持った男の喉元に切っ先を向けて言う。
「さっさと引き上げろ」
 私はその男の松明目掛けて、水の魔法で作った水球をぼちゃんと落とした。
 男は水浸しになる。それに怯んでヒィッと声を上げて逃げ出した。
 他の男達も逃げていく。
 ヘリュ様は納刀しながら溜息を吐いた。
「……ふぅ。しつこい奴らだ」
「本当に。余程お金に困ってるんでしょうか?」
「あの手の輩は面子に拘る。女二人に良いようにされたのでは今後商売がやり難くなるのだろう」
「……女と言ったって、この国の至宝、『炎のセイレーン』が相手なのに。面子も何もないと思うのですけど」
「あのしつこさは誰かに雇われていたのかもしれない。引くに引けなかったのだろう」
「なるほど。先に半金貰っていたら成果を上げない訳にはいきませんね」
 私とヘリュ様は男達の仕掛けた店の角に置かれた油の染みた木材を片付けて、お店の中に戻った。
 ご主人に事情を話して謝る。
「嬢ちゃんが謝る事じゃねえだろ。気にすんな。そんな事よりパスタが冷めちまうぞ? サッサと食いな」
 ベーコンとこの辺りで採れただろうキノコのトマトソースのパスタ。凄く美味しそうだ。
「ありがとう! 凄くお腹が空いてたみたい。いただきます」
 早速パスタに木製のフォーク刺して巻き付けて一口頂く。
 トマトソースに刻んで入れてあるバジルがとてもいい香りでベーコンとキノコに絡んで濃厚だけど爽やかな味が口に拡がった。
「美味しい! 夜も思ったけど本当に美味しいわ」
「そうかい? 気に入ってくれたんならよかった!」
 ご主人が私に向き合って言った。
「こりゃ奢りだ。店を守ってくれたお礼にな」
「そんな……悪いわ? そもそも私達がいたから油を撒かれた訳だし」
「そりゃあんた達のせいじゃないだろ。うちにとっちゃあんた達は客だ。招き入れるのは当然だが、油撒いて火ぃつける奴らは客じゃねえだろ?」
「……そうだけど……」
「客に悪漢から店守って貰ったんなら礼ぐらいするのが人情だろ?」
「……ありがとう。お言葉に甘えさせて貰うわ」
「おう! そうしてくれ」
 ご主人は人の良さそうな笑顔で私にそう言って、粉チーズを勧めてくれた。
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