人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 王城に戻るともう夕餉の時刻だったが、確認したい事があったので、王妃の間でレイティアがドレスに着替えている間、重臣達を王の間に呼び寄せた。
「陛下、おかえりなさいませ」
「どうだ? 法案の方は通りそうか?」
「反発は大きかったですよ、純血と幻獣に関しては一応納得したのですが、地の民全体の減税と海の民全体の増税は凄まじかったですね」
 溜息混じりに宰相が言った。その調整に昼夜問わず働いていたので流石にどこか疲れが見えた。
「均すと言っただけなんですけど、自分達の懐が痛む問題ですからね。そら反発もするでしょ」
 法相がいつもの貼り付けた笑顔で言った。
「本命は純血と幻獣の保護法ですが、そっちには目が行っていない。良い目眩しになりました」
 軍師が腕組みをして嗤う。
「結局何割増にした?」
 長椅子に座り、頬杖をつき脚を組んで、宰相に訊ねる。
「均すのは流石に無理でした。結局今までの1割増と言った所で手を打つしかなさそうですね」
「そうか、思っていたより良い成果だ。褒めてやろう」
 宰相が儂に頭を下げる。
「お褒めに預かり光栄です、陛下。……俺としては、あと5分は引き出したかったんですけどね」
「気持ちはわかるが、そう急く事もない。早急な変化は大きな反発を生む。今回も相当無茶をした。この位で上々だ」
「地の民の雇用税を撤廃出来ました。実はこれが一番大きい成果だと個人的には思ってるんですけどね」
「ああ、確かにそうだな。地の民の雇用が増える事だろう。地の民は元々働き者が多い。これで良い雇用先も地の民を使わぬ理由が無くなった」
 レイティアがこの国グリムヒルトにやって来た辺りからずっと温めていた地の民の雇用税の撤廃と地の民への減税と海の民への増税案。これに関しては段階を経なければ想定した税率までは持っていけない。
 この法案と純血と幻獣の保護法を一緒に通す事で後者は霞む。
 いるかいないか分からん幻獣や純血などより自分達の懐の方が余程大事であろうから。
 軍師が珍しく真面目な顔をして儂に訊ねる。
「本当に幻獣や魔法の軍事利用はされないのですか? 原住の国家に対しては無力でもサンドバルに対しては有効な戦力になります」
「王妃の名で保護する以上、使う気は無い。王妃が許さんだろう」
 儂は頬杖をついて答える。
 それに言い添え、釘を刺す。
「それらを使わず切り抜けてみせよ。そうでなければお前を据えてる意味が無い」
「御意」
 軍師が頭を下げる。
「でも、純血が纏まっていたら、海戦随分楽になるでしょうね。いえ、そもそも航海が恐ろしく楽になるわよね」
 外相が腕を組んで口に指を当てた。
「ただ王妃は、シビディア大陸から離れるほど魔法の威力は落ちると、そう聞いていると言っておったな」
「本当に不思議よね、神獣って。有効範囲が決まってるってトコがまた」
 感心した様に外相が言う。
「先日の事で懲りたのでシビディア王国、オルシロン共和国についてもう少し踏み込んでみたんですけど、
シビディアは恐ろしく特産品に恵まれてますよ。正に神獣に愛でられる国って感じですね。
 鉱物資源の産出量、海産物の豊富さも質量共に大陸随一。上質な絹を作り、幻獣の羊毛を安定生産できる唯一の国家。肥沃な土地で農産物にも事欠かない。
何より幻獣の現存数が原住国家であるオルシロン、マグダラスその他の小国群の追随を許さない。
 千騎ですよ、千騎! 勝ち目ないです!
 その上魔法師団が100名の精鋭。戦争するだけ損ですね。
 更に国がよく治まっていて民の王家に対する信頼は厚い。
 特に王太子が人を惹きつける魅力をお持ちだとか」
 宰相はため息混じりに説明をした。
「ほう……王太子については初めて聞くな」
「歳は王妃と同じ歳、今年成人されて立太子され表に出て来た様です。シビディア国内、特に王都周辺では有名な王子だった様ですよ? 武芸の達人だそうです。城下に降りては民と交流していた様です」
 儂は宰相の説明にくつくつと笑った。
「どこかで聞いた話だな」
「オルシロンも同じ様に資源には恵まれていますね。
純血以外は認めず、純血の保護を訴えていますが、かなり過激です。婚姻などにも厳しい制約を設けている様ですね。
 移民のこの大陸からの徹底的な排除を唱えています。
 厳しい婚姻の制限の結果なのか、魔法師団の精鋭は150名。魔法に強い者を多く出しています。騎獣兵は700騎。
 元首は現在、息子にほぼ全権を移譲しようと画策している所だともっぱらの噂ですね。この息子が共和国軍の総指揮です。歳は22、優秀な男ではある様ですね」
「なかなかにきな臭い国だな」
 儂は嗤う。どこもかしこも面倒な事だ。
「ついでに移民の民のモトキス王国とアトンブルク教国について申し上げましょうか。
モトキスは軍事国家でしたが現在の王になってから経済国家へ移行しようとしているようですね。今まで武断の王が続いていた様ですが、現王は文治の王の様ですね。ただし軍備に変化はありません。陸軍の練度は変わらずこの大陸では群を抜いています。
そのモトキスの北に位置するのがアトンブルク教国。スカレオ大陸の宗教、ゼライラ教の分派となる宗教国家ですね。この宗教は一神教ですが、教祖が転生すると信じられてます。前任の教祖が死ぬと次に銀色の髪と紫の瞳を有して生まれた者が教祖となるそうです。今は18の女性が教祖の様ですね」
 儂は反射的に渋面を作る。
 どうにもアトンブルクは名を聞くだけで不快感が込み上げる。
 法相が腕を組んだ姿勢で言う。
「やはり国交を持つならシビディアでしょうが……、シビディアの憂いはオルシロンとの睨み合いだけでしょうから我が国との国交に意義を感じてくれるか……、微妙ですね」
 これに外相が反論する。
「うちの武器は他大陸との交易と航海技術。どの国にもこれだけは負けない。この辺を餌に交渉すれば色良い返事は引き出せる。その自信はあるわよ」
「それをするには今の地の民への現状を変えねばならんぞ」
 皆が儂を見、続きを促す。
「今のグリムヒルトの地の民から買い叩いた価格でシビディアのモノを他大陸で捌く気か。そんな事をすればシビディアが黙ってはおらんだろう。先ずはグリムヒルト国内の問題を解決せねば交易を武器には交渉の席にも座れまい。今回の法案でやっと一歩踏み出せたと言った所であろうな」
 ここでノックが鳴り侍女から声がかかる。
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