人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 内殿に入るとバーリリンド達、護衛の隊には宰相を探す様に命じた。
 全体の指揮を執り、全てが見えているだろう宰相にこの護衛達も再編制させた方が効率がいい。
 儂とセイレーン殿は海遊庭園へ急ぐ。
 その間に襲って来る輩がいたが、全て切り伏せて前に進む。
 海遊庭園の入り口は多くの黄色い布を巻き付けた兵が取り囲んでいる。
 入り口には防壁が組まれている様で、それを破ろうと幾人かがかりで体当たりしている。
 儂はそれに声をかける。
「どうだ? 破れそうか?」
 取り囲んでいた男達が儂の方に一斉に振り返る。
「……っ! 誰だ、お前は!」
「この城の主だが?」
 男達は絶句し口を戦慄かせて儂を見ている。
 そして次々と叩頭していった。
「なんだお前達、意地が折れたか。つまらんな」
 儂が笑い含みに言ってやったら一人の男が叩頭したまま声を上げた。
「恐れながら陛下! 我らは国を憂い、陛下の御尊名を守る為に立ち上がりました!」
「ほう? 儂の尊名とはなんだ?」
 男は許しもしていないのに頭を上げ、儂の顔を見、叫ぶ様に言った。
「海の民の王としてのその偉大なる御尊名は決して地に落ちる様な事があってはなりません! 我らは陛下を思い、陛下の御為、命を捧げる覚悟で悪女を退けようと……」
 儂は遮る様にはっきりと言った。
「誰が頼んだ?」
 儂の言葉にべらべらと口の回るその男は怯む事無く更に口を回す。
「今は陛下もお怒りでしょう! しかし必ず我らが正しかった事を歴史が証明してくれます! 陛下は王妃の手練手管に惑わされているだけなのです!」
 儂は腰に手を当てて薄く笑った。
「そうか、ご苦労な事だ。まあいい。そこをどけ」
 叩頭する者たちは皆、廊下の端に控える。
 防壁の向こうに向けて声をかける。
「エンリッキ、いるか?」
 防壁の向こうから返事がある。
「はい、ここに」
「もう出て来て問題ない」
「御意」
 防壁の向こうから大きな物を除ける音が聞こえ始める。 
 男達が声を掛け合って威勢よく防壁は取り払われた。
 完全に防壁が無くなると、海遊庭園はようやく開かれた。
 今一番見たい姿を探す。しかし、見当たらない。
 法相がそんな儂の様子に疑問を持った顔をした。
「陛下? 王妃は陛下の元におられるのではないのですか?」
 儂は法相に問う。
「……おらんぞ? ここに一緒に立て籠もっておったのではないのか?」
 法相はいつもとは違う真剣な顔つきで答えた。
「いえ、アレクの判断で王妃には伝達をお願いしました。王妃にしか出来ない仕事です。それに陛下の元にいらっしゃる方が安全だと」
「宰相め、判断を見誤ったな」
 法相が険しい顔で疑問を表情に乗せ、儂に言葉の続きを促した。
「恐らく内通者がおる」
 法相にだけ聞こえる小声で伝える。
 一瞬目を見開き、いつもの貼り付けた様な笑顔に戻る。
「なら、その炙り出しからですか?」
 その青い瞳は表情とは裏腹に獲物を狩る獣の色を放っている。
「そうだな。まずはそこにおる者達の口を割らせろ。……全て赦す」
 これは声を張って言ってやると叩頭していた男達の肩がびくりと揺れる。
「この者達は下中庭の広場へ連行しておけ」
 海遊庭園に立て籠もっていた兵士達が、次々と黄色い布の軍人達を縄にかけて捕らえ、連行していく。
 海遊庭園の奥から声がかかる。
「陛下!」
 二人の妾妃が駆けて来て儂に向かって頭を下げる。
「申し訳ございません、陛下! 私共が付いていながら王妃陛下を危険に晒してしまいました」
 まずは第七妾妃のヴィカンデルが謝罪する。
「私達はお庇いするどころか、王妃陛下に庇われてしまいました。陛下には申し開きのしようもございません……」
 第二妾妃のラルセンはどこか憔悴した様子で同じ様に謝罪した。
「……中で何があった?」
「はい、軍人達がお茶会に乱入して、その場を制圧されました。そして排斥を訴える軍人に王妃陛下がそれを受け入れると……」
 ラルセンは目に涙を溜めて声を震わせてそう語った。
 その後は言葉に詰まるラルセンに代わり、ヴィカンデルが答えた。
「その後船着き場に小舟が到着しまして、商船に乗せられそうな所をハーヴィスト閣下が賊を討伐されました」
「……そうか」
 ラルセンが儂に問う。
「その、陛下? 王妃陛下はご無事に陛下の元へ?」
「いや」
 ラルセンの顔が青ざめる。口許に手を当てて今にも倒れこみそうなのを侍女に支えられた。
「もしかしたら、陛下の元に向かわれる途中、敵の手に落ちたのかもしれませんわ」
 ヴィカンデルが深刻そうな表情で広げた扇子で口許を隠した。
 儂はそれを無視して、法相に命じた。
「エンリッキ、王都の港を封鎖せよ。ギネゼ領の海軍は出港した全ての船を追え」
「賜りました」
「……特に船団を組む商船には注意しろ。恐らく武装しておる」
「御意」
 そう簡潔に答え頭を下げるとエンリッキは足早に海遊庭園を出て行った。

 儂は腰に手を当てて庭園から観える海原を眺めた。
「……さて、宰相にはここから本気で働いてもらわねばな」
 エンリッキの部下のホンニストという男が叩頭した男を拘束していたので命じる。
「ホンニスト、宰相を探して来い」
 ホンニストは自分が儂に名を覚えられてるとは知らなかったようで驚いてでこちらを見た。
 そして感激を表情に乗せると敬礼してハキハキと言った。
「賜りました! 陛下!」

 頭を深々と下げて、海遊庭園を走って出て行った。
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