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第3話
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少し暑苦しくなった7月。
その日はいつもと変わらず、学校へ行って栄養源である給食を食べて、殴られて帰っていつものように息をひそめて過ごすはずだった。
だめだ…。頭がくらくらする…。頭、いっぱい踏まれたからかな…。
ぐるぐると回る世界のせいで倒れそうになる体を酷使して家に帰るとお母さんが玄関にいた。
なんで?どうして?これから出かけるのかな?
お母さんの顔、久しぶり見たな。
頭の中は疑問でいっぱいだけど、なにも声が出なかった。
「あんた、使えないと思っていたけど、ようやく役に立ったわ。」
どういうこと?
言っている意味が分からない。
「この子?」
お母さんの後ろから出てきた男。
会ったことがない男の人だった。
親戚の人か誰かに俺は引き取られることになったんだろうか?
「どなた…ですか。」
「んーー強いて言うなら君の飼い主?まぁ来れば分かるよ。」
「じゃぁ、よろしくね。」
「思ったよりかわいい子だから高くしとくよ。」
「ありがと。」
「じゃあ行こうか。杏ちゃん。」
え?行くってどこに??
困惑している僕に男が
「君は売られたんだよ。」
と耳元でささやいた。
売られ…た…?僕が?お母さんに?
親戚の人じゃないの?
放心状態の僕の肩を抱いて家から出そうとする男の人に少し抵抗してお母さんの方を向く。
「お母さん!嘘だよね?…僕何か悪いことした?ねぇ、売ってないよね?」
「うるさいわね、早く持ってって頂戴。」
「お母さん!!!ねぇ…おかあ…さん。」
閉じられた扉からお母さんが戻ってくることはなかった。
「僕…もっと頑張るから…迷惑かけないように生きるから…ねぇ開けてよ。」
扉は開かない。
「僕のこともう見なくてもいいから…開けてよ…ねぇ…僕も…兄さんと同じ血が流れているんだよ…水野家の一人だよ…。どうして…。僕が…僕が…Ωだからなの…?」
男が放心状態の僕の肩を抱いて車に乗せる。
ははっ。僕、売られた。
僕が役立たずだったから。
僕が使えない子だったから。
僕がΩだったから。
僕は、売られたんだ。
涙は流れなかった。
むしろ笑えてきた。
「はははっ。…ふふふっ。あーはっはっは。」
ひぃひぃ言いながら笑う僕を男はどう見ているのだろうか。
親に売られたかわいそうな奴?
卑しいΩ?
もう、何でもいい。
「はぁー。僕、売られた。……売られたんだ。……なんでっ。」
その日、水野杏は表社会から消えた。
静かな車内に男の声が響いたのは家からかなり離れたところにあるビルの目の前についた時だった。
「ついたから、降りろ。」
住宅街からビル街に来たらしく周りにはビルや飲み屋など僕が見たことないものがたくさん広がっていた。
男について行き、五階建てビルの地下に進む階段を下りる。
階段の先についているドアを開くと受付のような部屋が広がっており、奥に続くドアは高級な雰囲気を持っていた。
「ここは、お前みたいな親に売られた奴が集まったソープだ。」
「…ソープってなんですか。」
「体を売るんだよ。わかる?セックスするところ。」
Ωの価値なんてそんなもんだよな。
そんなことを考えられる意外と冷静で客観的な自分がいた。
「Ωはお前を含めて3人、αが5人、あとβが9人。」
親に売られるなんて日本じゃあんまりないことだと思っていたけれど、知らないだけだったらしい。αもβも関係なく不要になればみんな捨てられるんだ。
「じゃあ、オーナーに会わせてから仕事の話するわ。」
VIPルームと書かれた扉より奥に置かれた部屋にオーナーはいるらしい。
扉の先には温厚そうなおじさんがいた。
こんな人も悪い人なのか。
人は見た目によらないんだ。
そうだ。この部屋まで案内してくれた男の人だってまるで親戚の叔父さんかのような笑顔で迎えていたから勘違いした。
緊張して喉が渇いたので目の前にあるお茶を飲む。
するとすぐに眠気がやってきて崩れるように倒れてしまった。
「…力が入らない…。ねむ…い…。」
最後に見たのは声を出して笑うオーナーだった。
その日はいつもと変わらず、学校へ行って栄養源である給食を食べて、殴られて帰っていつものように息をひそめて過ごすはずだった。
だめだ…。頭がくらくらする…。頭、いっぱい踏まれたからかな…。
ぐるぐると回る世界のせいで倒れそうになる体を酷使して家に帰るとお母さんが玄関にいた。
なんで?どうして?これから出かけるのかな?
お母さんの顔、久しぶり見たな。
頭の中は疑問でいっぱいだけど、なにも声が出なかった。
「あんた、使えないと思っていたけど、ようやく役に立ったわ。」
どういうこと?
言っている意味が分からない。
「この子?」
お母さんの後ろから出てきた男。
会ったことがない男の人だった。
親戚の人か誰かに俺は引き取られることになったんだろうか?
「どなた…ですか。」
「んーー強いて言うなら君の飼い主?まぁ来れば分かるよ。」
「じゃぁ、よろしくね。」
「思ったよりかわいい子だから高くしとくよ。」
「ありがと。」
「じゃあ行こうか。杏ちゃん。」
え?行くってどこに??
困惑している僕に男が
「君は売られたんだよ。」
と耳元でささやいた。
売られ…た…?僕が?お母さんに?
親戚の人じゃないの?
放心状態の僕の肩を抱いて家から出そうとする男の人に少し抵抗してお母さんの方を向く。
「お母さん!嘘だよね?…僕何か悪いことした?ねぇ、売ってないよね?」
「うるさいわね、早く持ってって頂戴。」
「お母さん!!!ねぇ…おかあ…さん。」
閉じられた扉からお母さんが戻ってくることはなかった。
「僕…もっと頑張るから…迷惑かけないように生きるから…ねぇ開けてよ。」
扉は開かない。
「僕のこともう見なくてもいいから…開けてよ…ねぇ…僕も…兄さんと同じ血が流れているんだよ…水野家の一人だよ…。どうして…。僕が…僕が…Ωだからなの…?」
男が放心状態の僕の肩を抱いて車に乗せる。
ははっ。僕、売られた。
僕が役立たずだったから。
僕が使えない子だったから。
僕がΩだったから。
僕は、売られたんだ。
涙は流れなかった。
むしろ笑えてきた。
「はははっ。…ふふふっ。あーはっはっは。」
ひぃひぃ言いながら笑う僕を男はどう見ているのだろうか。
親に売られたかわいそうな奴?
卑しいΩ?
もう、何でもいい。
「はぁー。僕、売られた。……売られたんだ。……なんでっ。」
その日、水野杏は表社会から消えた。
静かな車内に男の声が響いたのは家からかなり離れたところにあるビルの目の前についた時だった。
「ついたから、降りろ。」
住宅街からビル街に来たらしく周りにはビルや飲み屋など僕が見たことないものがたくさん広がっていた。
男について行き、五階建てビルの地下に進む階段を下りる。
階段の先についているドアを開くと受付のような部屋が広がっており、奥に続くドアは高級な雰囲気を持っていた。
「ここは、お前みたいな親に売られた奴が集まったソープだ。」
「…ソープってなんですか。」
「体を売るんだよ。わかる?セックスするところ。」
Ωの価値なんてそんなもんだよな。
そんなことを考えられる意外と冷静で客観的な自分がいた。
「Ωはお前を含めて3人、αが5人、あとβが9人。」
親に売られるなんて日本じゃあんまりないことだと思っていたけれど、知らないだけだったらしい。αもβも関係なく不要になればみんな捨てられるんだ。
「じゃあ、オーナーに会わせてから仕事の話するわ。」
VIPルームと書かれた扉より奥に置かれた部屋にオーナーはいるらしい。
扉の先には温厚そうなおじさんがいた。
こんな人も悪い人なのか。
人は見た目によらないんだ。
そうだ。この部屋まで案内してくれた男の人だってまるで親戚の叔父さんかのような笑顔で迎えていたから勘違いした。
緊張して喉が渇いたので目の前にあるお茶を飲む。
するとすぐに眠気がやってきて崩れるように倒れてしまった。
「…力が入らない…。ねむ…い…。」
最後に見たのは声を出して笑うオーナーだった。
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