【本編完結】白紙の未来

Popo

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第8話

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日野総合病院の番を解消されたΩの精神的、身体的治療ができる治療棟の一番奥の個室に移されること早二週間。

転院した当日にあの人たちは会いに来た。

第一声は

「勝手に家出したと思ったら、噛まれて、解除までされて帰ってくるとはな。…自業自得だな。勝手に死ねばいい。死ぬまでくらいなら金を出してやってもいいな。」

だった。

…家出!?違う、父さん、俺は売られたんだ、父さんの隣にいるその女に。知ってるでしょ?ほんとに家出だと思ってるいるの?

声が出ない。心の中では反論しているのに体が声を出すことを拒否している。

「あなたって本当に身勝手な人ね。私たち家族がどんな目で見られたことか。勝手に家出をするのはいいけど、家族にまで迷惑をかけないでちょうだい。」

…売ったじゃないか。俺を。なんで、なかったことにしてるんだよ。
俺はお前らのご飯代を、生活費を稼いだだろ…?

「お前にかまっている時間はこれ以上ない。」といって帰っていった父さん。

「………なんで帰ってきたのかしら。勝手に野垂れ死んでくれればよかったのに。」

父さんが消えた瞬間、本性を現した女もそう言って帰っていった。


反論できなかった。自分に危害を与えようとしている人に。
なるべく自分が傷つかないように、身を守っていた。

いつもみたいに、少しでも「心配してた」なんて言ってもらえると思っていたら、もう少し悲しかったんだろうけど…。
俺はもう売られる前の「水野杏」じゃないから。

何も望まない。何も期待しない。誰も信用しない。


「…あいつらも、恭さんと同じ…ひとでなしじゃん…。」

のどが張り付いているような感覚がなくなり、声がでる。

「水野さん、お食事の時間です。」

看護師さんの声ではっと我にかえる。

栄養失調になっていた俺は、ほかの人より食事の回数が多い。
通常の人からしたら小腹も満たないような量を、時間をかけて食べる。

食べることが嫌いなわけじゃないけど、ずっと胃がむかむかしているようで多くを受け付けない。
おかゆみたいにまだドロドロしたやつが多いけど1日に2回近く吐いている。

食事後、精密検査の結果が出たので診察室に行く。

「最近体調どう?杏君。」

転院してから俺の担当医になった相沢あいざわ先生。

第二性はβらしく、おかげでΩの治療専門の先生になれたといっていた。

αはΩのフェロモンを嗅ぐことで発情するけどβはフェロモンを嗅げない。
Ω専用病棟で「発情期になったΩの匂いに誘われて医者が患者をおそった」なんて事件が起きないようにこの病棟担当の先生はβが多い。

「…特にないです。」

「そっか…。ご飯は食べれてる?」

「頑張ってたべてはいる…けど、全部は食べきれないです。」

「ちょっとずつ、多く食べれるように頑張ろうね。」

「はい。」

「…それで、本題の精密検査の結果なんだけど、いくつか君に言わなきゃいけないことがある。」

なるべく笑って、元気に見えるように。
…いい子に見えるようにしないと。
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