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第17話
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それは唐突だった。
学校が夏休みに入ろうとしている時期、突然両親に、リビングにくるように言われた。
呼び出される時は大抵良くないことが起きる時なので憂鬱な気持ちになりながらリビングへ向かう。
リビングに入るとソファーに家族全員が座っていた。
両親と会うのは久しぶりだが、それ以上に蓮に会うのが久しぶりだった。
蓮は結局、県で1番の高校をトップで入学したんだそうで、入学生代表挨拶もした井上さんから聞いている。
なんて言えばいいのかわからないのでとりあえず挨拶しておくことにした。
「お久しぶり…です。」
「生きていたんだな。」
そう言ったのは蓮だった。
再び訪れた沈黙に気まずくなりながら父さんの方に顔を向けた。
今日は何で怒られるのか全く検討がつかないのだ。中間の順位で怒るには時間が経っているし…。
「お前に縁談が来ている。」
「縁談…俺に?…覚えてます…?俺、死ぬ予定があるし…番を解消されたΩですよ?」
「相手は知らないから隠せ。この縁談は必ず成功させろ。」
「無理があります。αにはバレます。」
「お前の縁談が成功しなかったら、お前は死ぬまで薬の実験台してやる。」
なんてことを言い出すんだこの父親は。
「…家の利益になるんですね。」
「そうよ、あなたがあの方との繋がりを作れば私たちの家は安泰よ。あんたを差し出すだけなんだから簡単ね。」
さすが、子供を売るような女だ。
「何でそんなに嫌がるんだ?」
俺はまだ新しい番が欲しいなんて思わない…。それにこんな一家と繋がるのは向こうの家が可哀想だ。
俺が薬の実験台になるだけでいいんだったらそっちを選ぶ。俺にとっては実験台になることより、新たなαと関わること番になることの方が苦痛だ。
とりあえず、お見合いで謝罪しよう。ちゃんと相手に伝えなくては。
俺は、番いたくない。
「…わかりました。」
「話は終わりだ、部屋に戻れ。」
部屋に戻って縁談の相手について考えてみる。この家は病院を経営もしているっぽいからきっと水野の家よりもっと大きい家が相手だろう。
そんな相手の前で粗相なんてできない。
どうしよう、食事のマナーも知らないし、箸は未だに使えない。ご飯を一緒に食べるんだろうけどそんなにいっぱい食べられない。
こうなったら食事が始まる前に謝罪して帰らせてもらおう。
結局、いい方法が思い浮かばず一応図書室にあったマナーの本だけ読んでおいた。
そして迎えた当日。
前日の夕方に井上さんから預かった服を着て
タクシーに乗った。行き先は駅にある高そうなホテル。
待ち合わせの20分前に着いてしまったけど、意を決してホテルの中に入る。
ロビーで待ち合わせだったのだがどこに座ればいいのかよくわからずとりあえず空いていた席に適当に座った。
外見も名前も結局教えてもらえなかったのでどんな人がくるかわからない。
そもそもどうやって見つけてもらおうかと悩んでいるとホテルの人が玄関前に並び始めた。偉い人が来るみたいだ。
ちょうど車も見えたのでどんな人が降りてくるのか気になって見ていると車の中から、とても綺麗な男性が降りてきた。
あんなに綺麗な人は初めてみた。
「芸能人かモデルさんなんだろうな」と思いまたテーブルに視線を戻す。
数分後、目の前に男性が立っていた。
「水野杏さんですか?」
「はい、そうです。」
返事と共に顔を上げると、さっきの美人さんが立っていた。
まさか、縁談の相手がこの方だったなんて。
綺麗な黒髪は綺麗にセットされており、髪の毛と同じくらい黒い目は鋭く切れ目だった。
真っ直ぐな鼻筋にピンクの唇。
どこをみても美形だった。
立ち姿は上流階級の人そのもので、わずかに香ってくる香水の匂いは落ち着く匂いだった。
全てが完璧なこの人とお見合いなんて無理だ。
「初めまして。二条紫苑と言います。今日は会えて嬉しいです。」
あぁ、低いけどハキハキとした声まで完璧だなんて。
普通の家で生まれて、番のいないΩだったら喜んでこの人と番になったのに。
学校が夏休みに入ろうとしている時期、突然両親に、リビングにくるように言われた。
呼び出される時は大抵良くないことが起きる時なので憂鬱な気持ちになりながらリビングへ向かう。
リビングに入るとソファーに家族全員が座っていた。
両親と会うのは久しぶりだが、それ以上に蓮に会うのが久しぶりだった。
蓮は結局、県で1番の高校をトップで入学したんだそうで、入学生代表挨拶もした井上さんから聞いている。
なんて言えばいいのかわからないのでとりあえず挨拶しておくことにした。
「お久しぶり…です。」
「生きていたんだな。」
そう言ったのは蓮だった。
再び訪れた沈黙に気まずくなりながら父さんの方に顔を向けた。
今日は何で怒られるのか全く検討がつかないのだ。中間の順位で怒るには時間が経っているし…。
「お前に縁談が来ている。」
「縁談…俺に?…覚えてます…?俺、死ぬ予定があるし…番を解消されたΩですよ?」
「相手は知らないから隠せ。この縁談は必ず成功させろ。」
「無理があります。αにはバレます。」
「お前の縁談が成功しなかったら、お前は死ぬまで薬の実験台してやる。」
なんてことを言い出すんだこの父親は。
「…家の利益になるんですね。」
「そうよ、あなたがあの方との繋がりを作れば私たちの家は安泰よ。あんたを差し出すだけなんだから簡単ね。」
さすが、子供を売るような女だ。
「何でそんなに嫌がるんだ?」
俺はまだ新しい番が欲しいなんて思わない…。それにこんな一家と繋がるのは向こうの家が可哀想だ。
俺が薬の実験台になるだけでいいんだったらそっちを選ぶ。俺にとっては実験台になることより、新たなαと関わること番になることの方が苦痛だ。
とりあえず、お見合いで謝罪しよう。ちゃんと相手に伝えなくては。
俺は、番いたくない。
「…わかりました。」
「話は終わりだ、部屋に戻れ。」
部屋に戻って縁談の相手について考えてみる。この家は病院を経営もしているっぽいからきっと水野の家よりもっと大きい家が相手だろう。
そんな相手の前で粗相なんてできない。
どうしよう、食事のマナーも知らないし、箸は未だに使えない。ご飯を一緒に食べるんだろうけどそんなにいっぱい食べられない。
こうなったら食事が始まる前に謝罪して帰らせてもらおう。
結局、いい方法が思い浮かばず一応図書室にあったマナーの本だけ読んでおいた。
そして迎えた当日。
前日の夕方に井上さんから預かった服を着て
タクシーに乗った。行き先は駅にある高そうなホテル。
待ち合わせの20分前に着いてしまったけど、意を決してホテルの中に入る。
ロビーで待ち合わせだったのだがどこに座ればいいのかよくわからずとりあえず空いていた席に適当に座った。
外見も名前も結局教えてもらえなかったのでどんな人がくるかわからない。
そもそもどうやって見つけてもらおうかと悩んでいるとホテルの人が玄関前に並び始めた。偉い人が来るみたいだ。
ちょうど車も見えたのでどんな人が降りてくるのか気になって見ていると車の中から、とても綺麗な男性が降りてきた。
あんなに綺麗な人は初めてみた。
「芸能人かモデルさんなんだろうな」と思いまたテーブルに視線を戻す。
数分後、目の前に男性が立っていた。
「水野杏さんですか?」
「はい、そうです。」
返事と共に顔を上げると、さっきの美人さんが立っていた。
まさか、縁談の相手がこの方だったなんて。
綺麗な黒髪は綺麗にセットされており、髪の毛と同じくらい黒い目は鋭く切れ目だった。
真っ直ぐな鼻筋にピンクの唇。
どこをみても美形だった。
立ち姿は上流階級の人そのもので、わずかに香ってくる香水の匂いは落ち着く匂いだった。
全てが完璧なこの人とお見合いなんて無理だ。
「初めまして。二条紫苑と言います。今日は会えて嬉しいです。」
あぁ、低いけどハキハキとした声まで完璧だなんて。
普通の家で生まれて、番のいないΩだったら喜んでこの人と番になったのに。
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