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もう一つの物語編

兄として……

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前みたいに強い愛衣はいない、雷の如く、
雷光が落ちるが如く。
弱かった私を引っ張ってくれる愛衣はもう
いない、と言うよりは
死んだのまちがい。


「愛衣また モデルしよ 」

「私がいないほうが、だっていいでしょ?
みんなから私嫌われてるし 」

ウダウダと昔の私みたいになってる、
愛衣アンタは私達黄金組からでさえも
憧れられてんのよ、あなたが来たら絶対に
この業界は革命する。

「ウダウダするなよ! 愛衣!アンタは
私達黄金組の永遠の憧れなんだよ 」

黄金組
その年に売り出したアイドル、モデル、女優
必ず黄金のように輝ける年代を意味する。

ssaは S級グラドル、だが愛衣はその
S級グラドルでさえも頭が上がらない存在
Sを超えたモデル、それは愛衣しかいない。


「もう終わったの…… 私より可愛い娘
なんていまはクサる程いるでしょ?」

そう愛衣が言うと、saaは真顔で
きっぱりと何の躊躇いも無く

「いないよ 」とハッキリ答えたのである。

でも、本人は嫌がっている
ここは、彼氏として、嫌兄として。

「本人がしたくないって言ってんだ
やめてやれよ 」

「彼氏は黙ってろ! 」

saa様口悪っ……
泣きそうになりました。

「すいません…… 」

saa様怖っ、そんな風に思っていると
愛衣が泣きそうな顔で、こちらを
見て来る。

ごめん、無理だった。

「ねぇ 愛衣 アンタはこんなところで
ダラダラとしてる人間じゃあないんだよ
だから! 戻ろう」

そう言ってると、後ろの方から
野太い声が聞こえてきた

「消えなさい! 」

振り返ったsaa、そしたら、そこに
立っていたのは、超大手企業のダイオウ
の会長だった。


「なんで 会長が、ここに?」

saaは逃げて行ったと言うよりは、その場から去った。

「ぱぱー! ! 」

愛衣は寂しさのあまり、ダイツウの
会長をパパと呼んでいる。

「愛衣! パパじゃないだろ!
失礼じゃないか…… 会長って呼びなさい 」

「大丈夫だ! 普通にアリだ!」

このロリコンジジィ、まぁ愛衣が懐いてるし
いいか。

「会長今日はどうしたんですか?
ってか、なんでここにいるんですか?」

「まぁ、たまたまだ。 」

これでよかった、この人相手にタメ口を
聞けるのは愛衣ぐらいしかいない、てか
見た事が無い。

「ぱぱー!なんか買って! 」

飯食いに行かないのか?、僕もうお腹すいた。

「なにが欲しいんだ?」

そう言うと、愛衣はニッコリと微笑んで
会長の手を取り、何処かに向かう。

愛衣が、欲しいなんて言うのは
珍しいな、普段は意地でも我慢するのに。

「モコネルのバッグが欲しい 」

うわっ…… ブランドメーカーかよ
しかも、モコネルって、あのミニバッグ
とかで50万いくクラスだよな。

流石に怒られそうだな、会長に嫌われたな。

「会長すいません、実の娘でも無いのに
こんな事言ってしまった妹を許して下さい
これからも仲良くしてやって下さい! 」

そう、別に
妹は他人、だから会長が妹に対して
こんなブランドメーカーの物を買う必要は
無いし、しかもそれをねだる妹に対して
会長もまた気分が悪いだろう。

まさか、妹の奴
わざと、嫌われに行ったのか?

「あの、超S級のモデルにお願いされる
とは、夢のようだな 」

会長は嫌では無かった、むしろ喜んでいた
そして僕は、妹の表情を見た、そしたら
少し悲しそうな目をしていた。

「いいだろ…… 買ってあげよう!
好きな物を言いなさい 」

「うん、でも、今すぐは無理だから
決まったら言うね 」

このパターンは何回もある、発言だけして
妹は何も欲さない。

妹が持ってるバッグ、俺が初めて給料日
に買った、二万二千円の安いバッグだ。

しかも、もうボロボロだ。

「いつも、そうだな、愛衣お前は願う
だけで実現はさせないな、何故だ?」

道の真ん中、街行く人が私達を見てる
会長は、ただ真っ直ぐに私を見つめる。


「ごめんなさい、優柔不断で 」

会長は僕達より、長くこの世界を見てきた
つまり、簡単な冗談ならバレてしまう
と言う事だ。

「愛衣!!!! 」

「は、はい!!」

本気の目をしていた
会長は妹を自分の娘と同じぐらい
愛しているのだろうか?

「ワシの正式な娘にならないか?」

養子縁組って事か?
それ程にまで、愛衣を愛していたのか?

「愛衣良かったな…… 」

僕は、消えよう、静かに
悪魔でも会長は愛衣が好きなんだ
俺なんかはまた別の話だ。

「何処へいく? 」

「旅にでも 」

「いつ帰って来るんだ?」

「え?」

「お前も立派なワシの息子だ 」

本当の地獄は他人と思っていた、だけど
違った、他人は冷たいけど、それ以上に
暖かい場合もある。

「…… 」

涙が止まりません。
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