悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

うにたん

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2章 5歳

第十二話:まるぐりっとさんの休日②

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どうも、ごきげんよう。『国外追放された令嬢は筋肉特盛マッスル騎士団に溺愛される。~元彼ピが今更戻って恋なんてハイパー土下座タイムを使っていたら、通りすがりの赤い仮面のおじいさんに「判断が遅い!」と平手打ちされていた件~』が購入出来て満足感一杯の本の虫令嬢マルグリットです。


「ただいま帰りました~」

 私の声に脊髄反射したのか、お父さまが書斎からノンブレーキのまま、私まで一気に突進してくる。スピードを落とすことなく抱き着くという名のダイビングタックルを仕掛けようとしてくるが、危険を察知した私はお父さまを華麗に躱すとお父さまはそのままドアと激突してしまった。
 
「マルグリット、なんでパパの愛を躱すんだい?ドアがバキバキになっちゃったじゃないか」

「お父さま? 今の勢いで突撃されたらドアよりも私の身体がバキバキですわ」

 私の指摘にお父さまは『気づかなかったかも、てへっ!』と言わんばかりな表情をしている。これは絶対、次の時も忘れて同じことやるパターンですわ。
 
 そしてお父さまは無言で私に手のひらを差し出してくる。『わかってるよね?』と言わんばかりだ。
 
「なんですか? その手は?」

「大好きなパパへのお土産は?」

「あっ、すっかり忘れてました!」

 私に抱き着いて泣きわめくお父さま。デジャヴかしら……。
 
「私は買ってきた本を読みますので部屋に戻りますね」

「マルグリット、そろそろ夕飯の時間だよ」

「あっ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 夕飯を食べた私は部屋に戻り、早速購入した本を読み耽っていた。

「はぁ~、最高だったわ。特に騎士団の新人と騎士団長が令嬢を巡ってモストマスキュラーによる筋肉の美しさを競い合うシーンは感動ものだわ。あと三十回は往復できるわね」

 そろそろ寝ようかなーと思ってベッドに向かおうとしたら、ベッドに無造作に投げ入れられていた一冊の絵本が目に入っていた。

「そういえばこれも買ったんだったわ。本屋にいたときは鬱陶しい程に存在感出していたのに、部屋に帰ってきた途端に存在感が迷子とか迷惑極まりない書物ね。せっかくだからついでに読んじゃおうかしら。どれどれ」


――――――――――――――――――――

 むかし、むかし、とおいむかし、あるところにひとりのおうさまがすんでいました。
 
 そのばしょは、おうさまいがいにはだれもいないので、おうさまはとてもさみしいおもいをしていました。
 
 おうさまはおもいました。
 
「そうだ。だれかがいるばしょにいってみよう」
 
 ところが、いつまでたってもだれもいるけはいはありません。
 
 そんなあるひ、そらにひびがはいってるばしょをみつけたのです。
 
「これは、なんだろう。ひび? あけられそうだ」

 おうさまはそのひびをおもいっきりたたいて、わってみました。
 
 すると、そのひびにはおおきなあながあいたのです。
 
 おうさまはあなをのぞいてみると、あらふしぎ。
 
 おうさまがすんでいるばしょとはちがうばしょをみつけたのです。
 
 そこは、おうさまがいままですんでいたばしょとはちがって、みずもあり、もりもあり、そらもあおく、せいめいのいぶきをかんじられるばしょだったのです。
 
 おうさまはびっくりしました。
 
「こんなばしょがあったなんてしらなかった」

 おうさまはうれしくなってあたりをみわたしました。
 
 するとうまれてはじめてじぶんいがいのだいいちむらびとをはっけんしたのです。
 
 おうさまははなしかけようとしましたが、どうしたことでしょう?
 
 だいいちむらびとはとつぜんおおきなひめいをあげてにげだしました。
 
 おうさまはとてもこまりました。
 
 だれもおうさまのはなしをきいてくれないのです。
 
 しばらくして、よにんのわかものがおうさまのまえにあらわれました。
 
 おうさまはじぶんをしってもらおうと、じこしょうかいをしようとしました。
 
 ところが、わかもののひとりがおうさまにきりかかったのです。
 
「しんりゃくしゃめ、このせかいのへいわはぼくたちがまもってみせる」
 
 わかもののひとりであるおんなのひとは、とめようとしましたが、もうたたかいははじまってしまっていたのです。
 
 こうなってしまったら、だれにもとめられません。
 
 たたかいはみっかかんつづきました。
 
 おうさまはたいりょくがのこっていません。
 
 おうさまはじぶんのせかいにもどるしかなかったのです。
 
 わかものたちはぶじにしんりゃくしゃをおいはらったのです。
 
 ひとびとはおおよろこびです。みんなわかものたちをいつまでもたたえました。
 
 いつまでも、いつまでも。
 
 めでたし めでたし

――――――――――――――――――――

「は? めでたし…… なわけないでしょおおおおおおおおお。若者も王様の話を聞いてやんなさいよっ! 胸糞悪くなってくるわねっ!」

「お、お嬢様~、どうされましたぁ~?」

 私が大声で不満を爆発させたことが部屋の外まで聞こえていたらしい。ナナが何事かと部屋に入ってきたのだ。
 
「あ、ごめんね。今日買った絵本を読んだんだけど、なーんか納得いかなくて」

「そうなのですね、気持ちをリラックスさせるハーブティーでも飲みますかぁ?」

「ありがとう。お願いするわ」

 私はナナに入れてもらったお茶を飲んで気分を落ち着けてからベッドに潜り込んだ。
 
 


 そして私はその日『夢』を見た。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 ここはどこだろう? 戦場だろうか? ここから見る限り四対一の戦いが行われているようだ。四人の会話が聞こえてくる。

「お願い! 待って! 私の話を聞いて!」

「待つも何もではありませんか」

「いえ、出来過ぎなのよ…… まるで最初から図られていたような」

「いえいえ、未来を見通すからこその予言ではありませんか」

「見通す? 違うわ、予言とはそんな「そこまでだ」」
 
「これ以上何を待つというんだ! 奴は危険だ、ここで倒さねばならない」
 
「そうです。あの侵略者に必要なのは鉄槌のみ!」

「いいから邪魔しないでよ、バケモノと戦えるなんてまずないよ?」
 
「そんなもの必要ない! 彼は話が通じるわ。あなたたちは下がっていて」

「何故、その様な事を言うのだ。あんな化け物はさっさと殺さねばならない。世界の為にも。まさか、君はあの男に……」

「どうしてそういう発想になるのよ! 彼は本当は優しい人のはず。私たちが手を出すまで彼はそんな事していなかった。私たちがこんな事をしてしまったから激怒するのはあたりまえだわ」

「やはり、君はあの男に感化されてしまったようだ。だが安心したまえ。私たち二人だけで決着を着けてみせよう。君の事も守って見せるから下がっていたまえ」

「僕は強い奴と戦えればなんでもいいや。だから邪魔しないでくれる?」

「やめて! 私が前に出て対話する! 戦わないで! どうして私の話を聞いてくれないの?」
 
「「「その必要はない!」」」
 
 彼らの戦いは三日間続いた。女性だけはなんとか対話を試みようと必死になったが、三人の男性と侵略者と言われた方は戦いを続けていた。しかし三日目にとうとう三人の男性は力尽きてしまった。
 
「ゴホッ…… お願い…… 話を……」

 女性の方も力尽きそうになっているが、それでも対話をやめようとしない。侵略者は憎しみの目で女性の事を見ていた。あの目は…… どこかで見たことがある気がするが思い出せない。

「ふざけるなアアアアアアアアアアアアアアアア! 刃を振るってきたのは貴様らの方だ! 俺が何をしたというのだ! 俺は……ただ…… 貴様らだけは絶対に許さない! 絶対にだ! 何千年、何万年経とうとも絶対に貴様らを滅ぼしてくれる! クソッ、力を使いすぎたか。いったん帰るしかないか。傷を癒し、力を蓄えた後にまた来る。特に貴様の力は危険だ。貴様と同質の力を持った奴がいるなら、真っ先に殺してやる!」

 侵略者は最後の言葉を力いっぱい振り絞って女性に対して吐き捨てていた。彼は空間に穴を開けて去っていった。
 
「ごめんなさい…… ヴェル……」

 誰に対しての、何に対しての謝罪なのだろうか? 私には皆目見当がつかない。

 程なくして女性の方も力尽きた。遺体となった四人は白い装束を着た集団が運んで行った。

 女性は男性三人とは別の場所に埋葬されたようだ。どこかの遺跡のように見える。

 人々は命をかけて侵略者を追い払った四人をいつまでも讃えていた。
 
 いつまでも、いつまでも。



 

 これはお互い交わることなく最後を迎えてしまった
 
 
 
 
 
 
 とても悲しい『物語』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




「……様」

「……嬢様」

「……お嬢様、朝ですよー」

「んー、よく寝た~」

「おはようございま…… お、お嬢様。な、何かあったんですか?」

「ん? どうしたの? 特に何もないけど」

「何もなくて人は泣いたりしません」

 自分でも気づいていなかった。まるで号泣していたかのように涙を流していた。

「えっ? 全然気づかなかった。わからない…… けど、何かとても悲しいことがあった気がする」

「……お嬢様?」

 何か夢を見ていたような気がする。内容は全然覚えてないけど。それでも何故だか胸を締め付けるような感覚だけが残ってる……。
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