悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

うにたん

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2章 5歳

第十三話:まるぐりっとさんの護衛はヤバイ

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 どうも、ごきげんよう。自称・裏の森の主令嬢マルグリットです。
 
 あれからさらに三カ月が経過して累計半年間、裏の森で訓練してました。
 
 魔獣と戦いたい禁断症状が出てきて、手が震えたりしてましたが、違う禁断症状じゃないのかと自分で自分を疑ってしまいます。
 
 いえ、断じてやましい事などございません。
 
 あと半年は耐え忍ぶのよ、ステイ、ステイよっ!、マルグリット!

 身体能力、魔力量的に十八歳当時の私を上回っているのですが、準備に準備を重ねることは悪い事ではありません。慎重派令嬢マルグリットです。
 
 さて、どうやら本日は近くの街『ガルカダ』でお祭りがおこなわれるという事で参加する気満々なのですが、中身が十八歳とはいえ、やはり見た目が子供。もちろん一人で行くつもりはなく、ナナも一緒の予定ではあるのですが、それでも七歳と五歳の二人で行くなんてことは許されません。
 
 というわけでお祭りに行くならと領軍から護衛を出してもらうことになりました。
 
 庭で待っていてほしいとのことだったので、護衛の方が来るまで愛読書である『国外追放された令嬢は筋肉特盛マッスル騎士団に溺愛される。~元彼ピが今更戻って恋なんてハイパー土下座タイムを使っていたら、通りすがりの赤い仮面のおじいさんに「判断が遅い!」と平手打ちされていた件~』を読み耽っていました。
 
「マルグリット様、お待たせいたしました。本日は私が護衛を担当させていただきます」

 私に声をかけてきたのは女性。年の頃は十七歳~十八歳といったところかしら。
 
 若々しさはあるから新人っぽいのだけど、全然表情が崩れない。まるでお人形さんね、真面目な方なのかしら。
 
 細身だからなのか筋肉量は少な目っぽいけど引き締まっている感じがいいわね。どことなくイザベラを思い出させるわ。

「騎士さん、お名前を伺ってもよろしいかしら?」

「はっ、ヘンリエッタと申します」

「よろしくお願いしますね、ヘンリエッタ。私の専属メイドである『ナナ』が馬車の準備をしてるからお待ちいただけるかしら」
 
「承知いたしました」

 この切れ長の目つき、クールな印象、舐められないように男を一切寄せ付けない雰囲気を感じさせるわね。
 
 私は彼女を観察しようと思ったより近づいてしまったためか、彼女は私から目を逸らしてしまった。
 
 あら? 近づかれるのが苦手なのかしら? それとも、もしかして子供は嫌いなのかしら?
 
 ちょっと情報収集してみましょうか。
 
「ヘンリエッタは新人さんなのかしら?」

「はい、今年より採用頂きまして日々訓練に明け暮れております」

 そうよね。新人と言えば少しでも一人前に近づくために一日でも多く訓練に励まなければならないはず。
 
 せっかくの訓練の時間を邪魔するような子供の護衛だなんて普通は嫌がるわよね。特に貴族だもの、我儘が多くて頭を抱えることも少なくはないという印象はあるはず。
 
「お嬢様~、馬車の準備が整いましたぁ~」

 ナナが手を嬉しそうに振りながらこちらに走ってくる。まるで投げた棒を加えて尻尾を振りながら主人に持ってくるワンワン的可愛さがあるわね。あとでナデナデしてあげないと。
 
『ハァハァ、ハァハァ』

 ん? 今の音は何かしら? 私は周りをキョロキョロしてみるも音の出どころはわからなかった。
 
「ナナ、紹介するわ。今日の護衛を担当してくれるヘンリエッタよ」

「ヘンリエッタさん、よろしくおねがいしますぅ~」

「あ、あぁ。護衛は私に任せてほしい」

 人懐っこいナナがヘンリエッタに近づいて挨拶するも彼女はまたもや顔を逸らしてしまった。
 
 うーん、やっぱり子供嫌いなのかしら? 彼女に聞いた方が早いかしら?
 
「ヘンリエッタ、大切な訓練の時間を割いてもらって護衛なんて申し訳ないわ。ヘンリエッタが良ければ護衛の方を変えてもらえるようにお父様にお願いするわ」

「いえ、マルグリット様の護衛は自分が志願いたしましたので、変えて頂く必要はございません」

 え? そうなの? でも顔を見つめるとすぐ目を逸らすからてっきり…… 恥ずかしがり屋さんなのかしら。
 
「わかったわ。それでは、馬車に乗り込みましょうか」

 馬車に向かう途中でまたあの異音が鳴り響いたのを私は聞き逃さなかった。

『スゥ~、ハァ~、スゥ~、ハァ~』

 ん? やっぱり空耳じゃない。 音は先程とは違ってるけど、今度は間違えない。
 
 私は音のする方向に向かって音速、いや光速と言ってもいい速度で顔を向けてみた。
 
 すると、音のする方向にはヘンリエッタの顔があり、彼女は私と同等のスピードで顔を逸らした。
 
 今ヘンリエッタの首から『ゴギッ』って音がしたけど骨は大丈夫かしら?
 
 それにしても私のスピードについてくるなんて、こやつ、やりおる。
 
 それに微妙に頬が赤くないかしら?
 
「ねぇ、ヘンリエッタ。どうして私があなたの方に顔を向けるとあなたは私から顔を逸らすのかしら? 私の事が嫌い?」

「い、い、い、いえ、そそそ、そんなことはございません」

 明らかに動揺しているわ。一気に畳みかけるわよ。追い込み令嬢マルグリットの本領を思い知るがいいわ。
 
「ヘンリエッタ、私の目の前でしゃがみなさい」

「は、はい」

 ヘンリエッタは観念したのか、私の目の前でしゃがみ込むが、息を整えているのか下を向いている。
 
 息を整え終わった彼女がこちらを向いたと同時に私は彼女の頬を両手で抑え込むことにした。
 
「む、むぐっ」

「ダメよ、顔を逸らさないで。こっちをちゃんと見なさい」

 私はこれでもかと言うほど、彼女の顔に自分の顔を近づけて目を合わせようとするが、彼女は耐え切れなくなったのか顔を真っ赤にさせて目線だけが別の方向を向き始めた。
 
 口元もめちゃくちゃ歪んでる。
 
 まさか…… この娘……
 
 ここから先の話はナナに聞かせるわけにはいかない。
 
「ナナ、先に馬車に行っててくれるかしら」

「かしこまりましたぁ~」

 ナナは小動物が如く、小走りで馬車に向かったことを確認して、私は再度ヘンリエッタと向き合うことにした。
 
 ヘンリエッタの目線は走り去っていくナナを捉えている。もう間違いない。
 
「一つ、答えてもらえるかしら。先程、ナナが馬車の準備が終わってこちらに向かって手を振って走って来た時、あなたはどう感じたのかしら?」

 ヘンリエッタは突如、目を見開き、何かに憑りつかれたかの様に口を開きだした。

「ナナ殿の姿はとても愛くるしく手を振ってくる姿は無邪気な子犬の様であの笑顔は国の…… いえ、世界の宝であることは間違いないと認識いたしました。その至宝を守る為に護衛として志願した私は自分で自分を褒めて…… ハッ!」

 心の内をほぼ赤裸々に語っていたヘンリエッタは『やっちまった!』という顔をしてガックリと項垂れていた。
 
 そんなガックリしたところで即バレでしたけど、他者を寄せ付けないクールな女騎士に見せておいてただの真正の幼女好きガチロリとか詐欺具合も半端じゃないわ。
 
 つまり一回目の異音はナナの姿を見て興奮を抑えきれずに漏らしてしまっていたわけね。
 
 あれ…… ということは二回目の異音の時はたしか私の後ろにいたはず…… まさか…… 私の匂いを……

「ヘンリエッタ、あなた、しばらく私の前を歩きなさい。後ろに立つことは禁止します。あと、ナナを変な目で見たら護衛から外すようお父さまに進言します」

「そ、そんなあ~」

 ガチ凹みしているわね。いや、当たり前でしょう。あなたちょっと怖すぎるわ。危うく見た目に騙されるところでしたわ。
 
「それでは、馬車に行くわよ」

 この様子だと五体満足でガルカダに辿り着けるのか不安だわ。
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