悪役令嬢の番犬~かつて悪役令嬢の取り巻きだった私は敵になってでも彼女を救ってみせる~

うにたん

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2章 5歳

第十七話:まるぐりっとさんのお祭り④

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「なっ、なんだ、お前! ど、どこから出てきやがった?」

「質問しているのはこちらです。今あなたが口にしていた『赤狼』について知っていることを全て答えなさい」

「何言ってんだ、ガキ! 手を放せや、これ以上は遊びじゃ済まねえゾ、コラ!!」

 喋る気が無さそうな誘拐犯を見た私は、首に手をかけて少し力を入れる。
 
「……ア゛ッ…… ガッ……」

 私は首にかけた手の力を抜いて誘拐犯が喋れるように改めて確認した。
 
「お猿さんには人間の言葉が通じないのかしら? 『赤狼』について知っていることを全て話してくださいと言っているのです。」

「ア゛ァ゛ッ? ガキィ! なんでテメエが『赤狼』の旦那を知ってるかはわからねえが、いまなら母親を犯るくれえで許してやる。これ以上は親兄弟をテメエの目の前でバラすことになんぞ、どけってんだよ!」

「あなた、思った以上に素人さんなのですね。脅しのやり方が全く分かってないのかしら? こういう反抗するお馬鹿さんには身体に聞くのが一番なのですよ」

 私は押さえつけていた手の人差し指を握ると躊躇いなく関節駆動域の真逆に思いっきり倒した。
 
 拍子に鳴り響いた乾いた音が静まり返っていた部屋中に蔓延した。誘拐犯は苦痛の表情を浮かべ、私はそれを見て笑みを浮かべていた。
 
「しょっ、正気かああああ! テメエエエエ!」

 私はもう少し意地を張る気概は見せてくれる予想をしていたけど、受け答えが想定と違っていて誘拐犯の言動と表情に余計に可笑しくなってしまった。
 
「あら、骨の一本でこの様とは…… あなたやはりこの仕事向いていないのではなくて? それに、まだ喋りたくないならそれでも結構。まだ手と足合わせて十九本残ってますから」

 誘拐犯は青ざめた表情と脂汗を流しながら震えだしていた。
 
「別に話したくなければそれでもいいのですよ? 残り十九本全てへし折られて無理やり吐かされてから衛兵に突き出されるか、今のうちに吐いて他の骨は無事なまま衛兵に突き出されるかの二択です」

「わ、わかった。話すから、これ以上の骨は勘弁してくれ」

「賢明な判断をして頂いて安心しましたわ。では、こちらからひとつ確認します。『赤狼』とは『赤狼の牙』の事で間違いないですか?」

「そ、そうだ」

「わかりました。やはり間違いではないようです。『赤狼の旦那』とやらについてお話しいただけますか?」

「あぁ、仕事がなくて困っていた時に酒場で話しかけられたのがキッカケだったな」

 彼が語った内容によると、赤狼との出会いから仕事の斡旋について、仕事が完了した後の物資と金銭の交換などの話を聞いた。

「なるほど。仕事…… 今回で言うところのそこで眠っている少女の誘拐をしてガルカダの南東にある森の中の小屋まで連れて行ってあなたは代わりに金銭を受け取るという事ですね。ちなみに何故あの少女を狙ったのか聞いてもよろしくて?」

「あの娘じゃなきゃいけないって訳じゃねえさ。年頃の娘であれば誰でもよかったんだ。たまたま人気の少ねぇ場所にあの娘と弟らしきガキがいて、周りには誰もいなかったから仕事がしやすかっただけだ」

「そして捜索に当たった私に出くわしてしまったという事ですね」

「とんだ厄日だぜ、お前さんみたいな見た目が幼女で中身が魔獣とはな」

「あら、魔獣呼ばわりとは淑女に対する評価ではありませんわね。それで、仕事が上手くいった場合の取引はいつを予定していますの?」

「明日の夜だ。だから出来れば早め、つまりは今日の内に街を出たかった訳だ」

「わかりましたわ。では、あなたもそろそろお休みなってどうぞ。『睡眠魔法スリープ』」

 私は眠らせた誘拐犯の身体を部屋で見つけたロープで縛り、少女を担いで救出した。
 
 民家を出て、近くにいた衛兵に事情を説明して、誘拐犯がたまたまあの部屋で眠っていることにして確保してもらった。
 
 その後、詰所にいるであろうナナと少年の元に姉を送り届けた。
 
「おねえちゃあああん」

「マークも無事でよかったわ。助けて頂きまして本当にありがとうございました」

「いえ、姉弟共に無事でなによりです」

 よしよし、姉弟も無傷だったし全てがまーるく収まった…… と思いきや、ナナさんが怒りの表情でこちらを見ている。
 
「お嬢様? ナナとあれだけ約束して頂いたはずですよね? ぜーったい危険な真似だけはしないって」

「ナナ、聞いて頂戴。偶然にも誘拐犯の居場所を特定してしまったら、何故か偶然にも誘拐犯も女の子も二人とも寝ていたのよ。そして、意を決した私は女の子を連れ去り、衛兵に伝えたってわけ。何もおかしなことはないでしょう?」

 ナナが首を傾げている。クッ、まだダメそうかしら。

「そもそも五歳のお嬢様がどうやって年上の女の子を連れ出したのですか? 運ぶにも身体の弱いお嬢様にそんな力ありましたっけ?」

 さすがに魔法使っちゃいましたなんて言えるわけがないし。身体が弱い設定はそのままにしておきたいし…… どうする? どうすればナナに力が弱くても運べるか説明が……あ、そうだわ。

「マ、マットレスよ。マットレスを階段に敷いて、その上にあの子を載せて一気に滑り降りたわ。そこから近くにいた衛兵に頼んで運んでもらったのよ」

 やはり苦しいか、そんな降り方できたにしろ勢いで投げ出されたら危ない事に変わりはないから。でも、魔法の事をバラすより百倍マシだわ。

「ムムムッ、そんな危ない降り方をしたのですか? ……結果として無事だったから今回はヨシとしますぅ。でも今回だけですよ?」

 ナナが思ったより早く引き下がった……。 もしかして、少女の捜索という危険な任務を買って出た私の事を気遣ってくれたのかしら。
 
 でも、本番は明日。夜、みんなが寝静まった頃にお祭りのフィナーレを迎えるとしましょうか。
 
 待っていないさい赤服。あの時の借りを返してあげるわ。
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