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寄生虫たちの断罪
王立夜会の会場は、かつてない緊張感に包まれていた。
豪奢なシャンデリアの下、着飾った貴族たちが集うこの場所で、フローディアは今、壇上に立っていた。その隣には、国王の代理として法務を司る監査官たちが控えている。
会場の隅では、ジャネットとスザンヌが、未だ状況を理解できぬまま顔を見合わせていた。
「な、何? フローディア様、あんなところに」
「お義父様に言いつけてやるわ。病み上がりの分際で生意気よ!」
スザンヌの下品な声は、周囲の静寂に虚しく響いた。
「皆様、本日はこの華やかな場を借りて、長年レイトマン侯爵家を蝕んできた『真実』を明らかにしたいと思います」
フローディアの声は、会場の隅々まで凛と通った。彼女は手にした一束の書類を掲げる。
「ここにありますのは、私の継母であるジャネット・レイトマン、ならびにスザンヌ・レイトマンによる、七年間にわたる資産横領の証拠、および……一年前、私を死の淵に追いやった殺人未遂計画の全容です」
会場が騒然となった。
「何ですって!?」「あの淑やかなジャネット様が?」
ジャネットの顔から血の気が引き、陶器のように白くなった。
「な、何を言っているの!? 根も葉もない言いがかりよ! 旦那様、あの子を止めてください!」
叫ぶジャネットに対し、フローディアは冷徹な視線を向けた。
「お父様は、すでに別室で事実を確認されています。……ジャネット、貴女が領地への支援金を着服し、裏ルートで宝石を買い漁っていた裏帳簿は、貴女の寝室の隠し床板から発見されました。そして何より――」
フローディアは、あの日、彼女を突き落とした計画の「控え」を読み上げた。
『スザンヌが突き落とす際、仕留め損なえば使用人が確実に始末する』――。
「そ、それは……! 違うわ、私は知らない!」
スザンヌが絶叫した。しかし、フローディアは容赦しなかった。
「さらに、重要なことがあります。王立監査官による再調査の結果、ジャネット。貴女が父との婚姻の際、以前の婚姻関係を解消したと偽っていた書類の偽造が判明しました。つまり、貴女たちの婚姻は法的に無効。貴女とスザンヌは、レイトマン侯爵家とは何ら血縁も法的関係もない、ただの『他人』です」
その宣告は、死刑宣告よりも残酷だった。
侯爵夫人の座も、令嬢という身分も、すべては砂上の楼閣に過ぎなかったのだ。
「そんなはずないわ! 私はお義父様に愛されているのよ! バーナード様、助けて!」
スザンヌが縋るような視線をバーナードへ向けた。しかし、バーナードは彼女を見ることさえせず、ただ一点、壇上のフローディアだけを見つめていた。その瞳には、深い絶望と後悔が渦巻いている。
「衛兵、連れて行きなさい」
フローディアの冷たい命令と共に、重厚な甲冑の音が響いた。
「離しなさいよ! 私はスザンヌ・レイトマンよ!」「嫌よ、こんなの嘘よ!」
ジャネットとスザンヌは、かつてない醜態を晒しながら、衛兵たちによって引きずられていく。彼女たちがかつてフローディアから奪った宝石やドレスは、今や彼女たちを縛り付ける滑稽な衣装でしかなかった。
静まり返った会場の中で、フローディアはただ一人、気高く立っていた。
彼女は知っていた。これは復讐の終わりではなく、あるべき姿への回帰に過ぎないことを。
寄生虫たちが排除されたホールには、ようやく清廉な風が吹き抜けた。
その視線の先で、弟のウィリアムが、初めて安堵したような笑みを姉に向けていた。
フローディアは、スザンヌとして過ごした地獄のような、しかし誰よりも愛されたあの一年間を思い出し、一度だけ、誰にも気づかれぬよう小さく目を閉じた。
(さようなら、スザンヌ。貴女が愛されたかったものは、すべて私が灰にして差し上げたわ)
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豪奢なシャンデリアの下、着飾った貴族たちが集うこの場所で、フローディアは今、壇上に立っていた。その隣には、国王の代理として法務を司る監査官たちが控えている。
会場の隅では、ジャネットとスザンヌが、未だ状況を理解できぬまま顔を見合わせていた。
「な、何? フローディア様、あんなところに」
「お義父様に言いつけてやるわ。病み上がりの分際で生意気よ!」
スザンヌの下品な声は、周囲の静寂に虚しく響いた。
「皆様、本日はこの華やかな場を借りて、長年レイトマン侯爵家を蝕んできた『真実』を明らかにしたいと思います」
フローディアの声は、会場の隅々まで凛と通った。彼女は手にした一束の書類を掲げる。
「ここにありますのは、私の継母であるジャネット・レイトマン、ならびにスザンヌ・レイトマンによる、七年間にわたる資産横領の証拠、および……一年前、私を死の淵に追いやった殺人未遂計画の全容です」
会場が騒然となった。
「何ですって!?」「あの淑やかなジャネット様が?」
ジャネットの顔から血の気が引き、陶器のように白くなった。
「な、何を言っているの!? 根も葉もない言いがかりよ! 旦那様、あの子を止めてください!」
叫ぶジャネットに対し、フローディアは冷徹な視線を向けた。
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フローディアは、あの日、彼女を突き落とした計画の「控え」を読み上げた。
『スザンヌが突き落とす際、仕留め損なえば使用人が確実に始末する』――。
「そ、それは……! 違うわ、私は知らない!」
スザンヌが絶叫した。しかし、フローディアは容赦しなかった。
「さらに、重要なことがあります。王立監査官による再調査の結果、ジャネット。貴女が父との婚姻の際、以前の婚姻関係を解消したと偽っていた書類の偽造が判明しました。つまり、貴女たちの婚姻は法的に無効。貴女とスザンヌは、レイトマン侯爵家とは何ら血縁も法的関係もない、ただの『他人』です」
その宣告は、死刑宣告よりも残酷だった。
侯爵夫人の座も、令嬢という身分も、すべては砂上の楼閣に過ぎなかったのだ。
「そんなはずないわ! 私はお義父様に愛されているのよ! バーナード様、助けて!」
スザンヌが縋るような視線をバーナードへ向けた。しかし、バーナードは彼女を見ることさえせず、ただ一点、壇上のフローディアだけを見つめていた。その瞳には、深い絶望と後悔が渦巻いている。
「衛兵、連れて行きなさい」
フローディアの冷たい命令と共に、重厚な甲冑の音が響いた。
「離しなさいよ! 私はスザンヌ・レイトマンよ!」「嫌よ、こんなの嘘よ!」
ジャネットとスザンヌは、かつてない醜態を晒しながら、衛兵たちによって引きずられていく。彼女たちがかつてフローディアから奪った宝石やドレスは、今や彼女たちを縛り付ける滑稽な衣装でしかなかった。
静まり返った会場の中で、フローディアはただ一人、気高く立っていた。
彼女は知っていた。これは復讐の終わりではなく、あるべき姿への回帰に過ぎないことを。
寄生虫たちが排除されたホールには、ようやく清廉な風が吹き抜けた。
その視線の先で、弟のウィリアムが、初めて安堵したような笑みを姉に向けていた。
フローディアは、スザンヌとして過ごした地獄のような、しかし誰よりも愛されたあの一年間を思い出し、一度だけ、誰にも気づかれぬよう小さく目を閉じた。
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