完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』

恋せよ恋

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白薔薇の断罪、誇り高き指先

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 放課後の陽光が、噴水に舞う水しぶきを黄金に染めていた。

 芝生の一角、穏やかな風景に似つかわしくない、低俗で湿り気を帯びた嘲笑が弾ける。
 その中心には、泥のついた手袋を握りしめ、孤立してうなだれるセシリア・クレポンの姿があった。

「まあ! 令嬢の身でありながら、爪の間まで泥にまみれるなんて!」
「身の程もわきまえず、ユリウス様に色目を使うから、そんな無様な姿になるんですのよ」
「淑女の教育を、一からやり直して差し上げた方がよろしいかしらぁ?」
 三人の令嬢が扇を広げ、無防備な下級生を言葉の礫で追い詰めていく。

 セシリアは奥歯を噛み締め、震える拳を隠すように耐えていた。

 その時。
 芝を踏みしめる、柔らかな、けれど凛とした靴音が静寂を割った。

「――あら。ごきげんよう、皆さま。随分と賑やかですこと」
 白い日傘をかざし、銀糸の髪を風になびかせて現れたのは、リリアーナ・レーヴェン。

 その場にいた全員が、一瞬で呼吸を忘れた。

「「「 リ、リリアーナ様……! ご、ご機嫌よう……」」」

「三人がかりで一人を囲んで、一体どのような『高尚な』談議に耽っていらしたの?」
 リリアーナの瞳は、穏やかな微笑みとは裏腹に、冬の湖面のような冷たさを湛えていた。その視線の鋭さに、令嬢たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直する。

「何を? ――同じ学院で志を高く持つ方を、寄ってたかって嘲笑うことを?」
「そ、それは……わたくしたちは、彼女の身なりを案じて……」

「剣を握る指が汚れているのは、血の滲むような努力の証ですわ。……それを嘲笑う貴女たちの心の方が、よほど醜く汚れていると私は思いますけれど?」
 ピシャリと、冷徹な宣告が飛ぶ。

 リリアーナはセシリアの前に歩み寄ると、泥のついた手袋を厭うこともなく、そっとその手を取った。

「あなたの努力は、この私が知っています。恐れずに顔を上げなさい。その志こそが、真の誇りなのですから」

 セシリアは驚きに目を見開き、潤んだ瞳でリリアーナを見上げた。白薔薇の女神のような微笑みが、傷ついた心を温かく包み込んでいく。

「……リリアーナ様……ありがとうございます……っ」

 リリアーナは優しく頷くと、再び令嬢たちへと向き直った。
 その顔からは、もはや慈悲は消え失せている。

「ベロニカ子爵令嬢。エミリー男爵令嬢。カサンドラ男爵令嬢」
「「「(っ……!)」」」
 名前を呼ばれた三人の背に、戦慄が走る。

「品位とは血筋ではなく、生き様で決まるもの。次はそれを胸に刻んでおくことですわ。……さもなくば。皆さまのご実家との取引を継続して大丈夫なものか、我が家の『ワイス商会』としても、再考せざるを得なくなりますわね?」

「「「そ、そんなっ! もう二度といたしません! 申し訳ございませんでしたっ!!」」」

 商会の名は、彼女たちの家にとっては生命線だ。三人は青ざめ、揃って深く頭を下げると、逃げるようにその場を去っていった。

「……ふぅ。全く、どちらが淑女らしくないのかしらね」

 独り言のように呟いた彼女の背中は、夕陽を浴びて神々しいまでに美しかった。

 遠く、回廊の影からその光景を凝視していたユリウスは、何も言わずに天を仰いだ。
 嫉妬に狂ってもおかしくない状況で、なお正義を貫き、弱者を守る。

(……ああ。君は、やはり白薔薇だ。誰よりも気高く、俺の手の届かないほどに、美しい)

 ユリウスの胸を締め付けたのは、彼女への深い敬愛と、そして――自分への激しい嫌悪だった。
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