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最後の忠告、そして決別の夜会
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カフェで「魔女」の噂を耳にしてからというもの、ヤスミンの意識は半分、どこか現実から遊離したまま過ごしていた。
図書館の隅で、古い地図や伝説を調べる日々。北の果てにある「静寂の森」。そこは冬が一度も明けたことがなく、絶望した者だけが辿り着ける場所だという。
「……何を見ているの、ヤスミン」
鋭い声に顔を上げると、そこには険しい表情のロザリンが立っていた。彼女はヤスミンが広げていた古い書物を覗き込み、その内容を知るや否や、バタンと乱暴に本を閉じた。
「魔女の薬……? ヤスミン、あんた、本気じゃないでしょうね。そんなおぞましい噂、ただの御伽話よ。仮に実在したとして、心を捨てるなんて正気の沙汰じゃないわ!」
「ロザリン……」
「いい加減にしなさい! あんな男のために、自分の人生を台無しにするつもり? ユリアン様が他の女と遊んでいる間、あんたはどんどん痩せて、今は幽霊みたいよ。あんな男、こっちから捨ててやればいいじゃない!」
親友の悲痛な叫び。それはヤスミンを思っての、心からの叫びだった。
けれど、ヤスミンは静かに首を振る。その瞳には、以前のような潤いはなく、凪いだ水面のような静けさがあった。
「捨てられないのよ、ロザリン。私は……あの人を愛している自分を、どうやっても止められないの。だから、その根源を消してしまいたいのよ」
「ヤスミン、あんた……」
「大丈夫よ。心を失うわけじゃないわ。ただ、恋心だけを凍らせるの。そうすれば、私は彼の隣で、微笑んでいられる。彼が望む、完璧な婚約者になれるの」
ロザリンは絶句し、震える手でヤスミンの肩を掴んだ。
「完璧な婚約者? そんなの、ただの器よ。中身のない人形じゃない。ねえ、ヤスミン。今夜の『白銀の夜会』、行くのはやめましょう。私が病欠の届けを出してあげる。二人でどこか遠い領地にでも遊びに行きましょうよ」
白銀の夜会。それは学園で最も華やかな、冬の始まりを祝う行事だ。
ヤスミンは、少しだけ迷った末に、悲しく微笑んだ。
「ありがとう。でも、行かなければならないの。……最後にもう一度だけ、確認したいのよ」
何を、とは言わなかった。
けれどヤスミンの中には、一縷の望みが残っていた。もし今夜、ユリアンが自分をエスコートしてくれたなら。もし今夜、彼が一度でも自分を、他の誰でもない「婚約者」として扱ってくれたなら。
その時は、魔女の薬の地図を燃やしてしまおう。そう決めていた。
――だが、神様はどこまでもヤスミンに残酷だった。
夜会当日。ヤスミンは、冬の星空を思わせる深い紺色のドレスをまとい、会場ホールの入り口でユリアンを待っていた。
彼は「入り口で待ち合わせよう」と言っていた。エスコートしてくれるものだと、ヤスミンは疑わなかった。
しかし、約束の時間を三十分過ぎても、ユリアンは現れない。
周囲の貴族たちがヤスミンを見て、ひそひそと囁き合う声が聞こえてくる。
「見て、ファーブル侯爵令嬢よ。また一人きりで待っているわ」
「可哀想に。ユリアン様は今、二年生の別の令嬢に夢中だって話じゃない」
「公爵夫人になるためとはいえ、あんなにみじめな思いをしてまでしがみつくなんて、プライドがないのかしら」
冷ややかな視線が、針のように肌を刺す。
ヤスミンは指先を強く握りしめ、顔を上げた。ここで逃げ出せば、ファーブル侯爵家の名に傷がつく。
その時、ホールの扉が大きく開かれた。
現れたのは、ユリアン・ゲットーだった。
彼の腕には、真っ赤なドレスをまとった、情熱的な瞳の令嬢が絡みついている。
ヤスミンの存在に気づいたユリアンは、驚くふりもなく、軽い足取りで近づいてきた。
「ああ、ヤスミン。先に始めていてくれと言っただろう? 彼女がどうしてもこの夜会に出たいと言うから、迎えに行っていたんだ」
ユリアンは、さも当然のことのように言った。
隣の赤いドレスの令嬢は、勝ち誇ったような笑みをヤスミンに向ける。
「ユリアン様……。今夜は、私をエスコートしてくださるのではなかったのですか?」
「ああ、ダンスの一曲くらいは相手をするよ。でも、今は彼女を案内してやりたいんだ。君は僕がいなくても、どこへ出しても恥ずかしくない立派な婚約者だろう? 放っておいても大丈夫だと思ってね」
――立派な。
――放っておいても大丈夫。
ユリアンにとって、ヤスミンの存在はもはや、空気と同じだった。
あれば便利だが、意識する必要もない、ただそこに在るだけのもの。
彼が他の花を愛でている間、道端に放置されていても枯れないと思い込んでいる造花。
ヤスミンの中で、何かが音を立てて砕け散った。
愛おしさも、期待も、執着も――すべてが絡み合い、胸の内を黒く塗り潰していく。
「……そう、ですわね。仰せの通りですわ、ユリアン様」
ヤスミンは、完璧なカーテシーを見せた。その顔には、一点の曇りもない、美しい笑みが浮かんでいた。
それを見たユリアンは、満足そうにうなずく。
「わかってくれて嬉しいよ。やっぱり君は、僕にふさわしい女性だ」
ユリアンはそのまま、赤いドレスの令嬢を連れて、華やかな喧騒の中へと消えていった。
ヤスミンは、その後ろ姿を見送りながら、ドレスのポケットに隠していた小さな紙片――魔女の森への地図――を指先でなぞった。
もう、迷いはない。こんなに胸が痛いのは、今日で最後にする。
彼を愛しているから苦しいのなら、愛を殺せばいい。
「……さようなら、私の恋心」
ヤスミンは、誰にも気づかれないように、静かに会場を後にした。降り始めた雪が、彼女の肩を白く染めていく。それは、これから彼女の心が迎える、終わりのない冬の序曲のようだった。
馬車を飛ばし、屋敷へ戻ったヤスミンは、最低限の荷物をまとめた。
手紙を一通、机に置く。宛名は、ユリアンではない。ロザリンへだ。
『少し、旅に出ます。探さないでください』
ヤスミンは夜闇に紛れ、一人、北へと向かう馬車を雇った。その横顔は、夜会のどの令嬢よりも美しく、そして、死人のように冷たかった。
______________
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図書館の隅で、古い地図や伝説を調べる日々。北の果てにある「静寂の森」。そこは冬が一度も明けたことがなく、絶望した者だけが辿り着ける場所だという。
「……何を見ているの、ヤスミン」
鋭い声に顔を上げると、そこには険しい表情のロザリンが立っていた。彼女はヤスミンが広げていた古い書物を覗き込み、その内容を知るや否や、バタンと乱暴に本を閉じた。
「魔女の薬……? ヤスミン、あんた、本気じゃないでしょうね。そんなおぞましい噂、ただの御伽話よ。仮に実在したとして、心を捨てるなんて正気の沙汰じゃないわ!」
「ロザリン……」
「いい加減にしなさい! あんな男のために、自分の人生を台無しにするつもり? ユリアン様が他の女と遊んでいる間、あんたはどんどん痩せて、今は幽霊みたいよ。あんな男、こっちから捨ててやればいいじゃない!」
親友の悲痛な叫び。それはヤスミンを思っての、心からの叫びだった。
けれど、ヤスミンは静かに首を振る。その瞳には、以前のような潤いはなく、凪いだ水面のような静けさがあった。
「捨てられないのよ、ロザリン。私は……あの人を愛している自分を、どうやっても止められないの。だから、その根源を消してしまいたいのよ」
「ヤスミン、あんた……」
「大丈夫よ。心を失うわけじゃないわ。ただ、恋心だけを凍らせるの。そうすれば、私は彼の隣で、微笑んでいられる。彼が望む、完璧な婚約者になれるの」
ロザリンは絶句し、震える手でヤスミンの肩を掴んだ。
「完璧な婚約者? そんなの、ただの器よ。中身のない人形じゃない。ねえ、ヤスミン。今夜の『白銀の夜会』、行くのはやめましょう。私が病欠の届けを出してあげる。二人でどこか遠い領地にでも遊びに行きましょうよ」
白銀の夜会。それは学園で最も華やかな、冬の始まりを祝う行事だ。
ヤスミンは、少しだけ迷った末に、悲しく微笑んだ。
「ありがとう。でも、行かなければならないの。……最後にもう一度だけ、確認したいのよ」
何を、とは言わなかった。
けれどヤスミンの中には、一縷の望みが残っていた。もし今夜、ユリアンが自分をエスコートしてくれたなら。もし今夜、彼が一度でも自分を、他の誰でもない「婚約者」として扱ってくれたなら。
その時は、魔女の薬の地図を燃やしてしまおう。そう決めていた。
――だが、神様はどこまでもヤスミンに残酷だった。
夜会当日。ヤスミンは、冬の星空を思わせる深い紺色のドレスをまとい、会場ホールの入り口でユリアンを待っていた。
彼は「入り口で待ち合わせよう」と言っていた。エスコートしてくれるものだと、ヤスミンは疑わなかった。
しかし、約束の時間を三十分過ぎても、ユリアンは現れない。
周囲の貴族たちがヤスミンを見て、ひそひそと囁き合う声が聞こえてくる。
「見て、ファーブル侯爵令嬢よ。また一人きりで待っているわ」
「可哀想に。ユリアン様は今、二年生の別の令嬢に夢中だって話じゃない」
「公爵夫人になるためとはいえ、あんなにみじめな思いをしてまでしがみつくなんて、プライドがないのかしら」
冷ややかな視線が、針のように肌を刺す。
ヤスミンは指先を強く握りしめ、顔を上げた。ここで逃げ出せば、ファーブル侯爵家の名に傷がつく。
その時、ホールの扉が大きく開かれた。
現れたのは、ユリアン・ゲットーだった。
彼の腕には、真っ赤なドレスをまとった、情熱的な瞳の令嬢が絡みついている。
ヤスミンの存在に気づいたユリアンは、驚くふりもなく、軽い足取りで近づいてきた。
「ああ、ヤスミン。先に始めていてくれと言っただろう? 彼女がどうしてもこの夜会に出たいと言うから、迎えに行っていたんだ」
ユリアンは、さも当然のことのように言った。
隣の赤いドレスの令嬢は、勝ち誇ったような笑みをヤスミンに向ける。
「ユリアン様……。今夜は、私をエスコートしてくださるのではなかったのですか?」
「ああ、ダンスの一曲くらいは相手をするよ。でも、今は彼女を案内してやりたいんだ。君は僕がいなくても、どこへ出しても恥ずかしくない立派な婚約者だろう? 放っておいても大丈夫だと思ってね」
――立派な。
――放っておいても大丈夫。
ユリアンにとって、ヤスミンの存在はもはや、空気と同じだった。
あれば便利だが、意識する必要もない、ただそこに在るだけのもの。
彼が他の花を愛でている間、道端に放置されていても枯れないと思い込んでいる造花。
ヤスミンの中で、何かが音を立てて砕け散った。
愛おしさも、期待も、執着も――すべてが絡み合い、胸の内を黒く塗り潰していく。
「……そう、ですわね。仰せの通りですわ、ユリアン様」
ヤスミンは、完璧なカーテシーを見せた。その顔には、一点の曇りもない、美しい笑みが浮かんでいた。
それを見たユリアンは、満足そうにうなずく。
「わかってくれて嬉しいよ。やっぱり君は、僕にふさわしい女性だ」
ユリアンはそのまま、赤いドレスの令嬢を連れて、華やかな喧騒の中へと消えていった。
ヤスミンは、その後ろ姿を見送りながら、ドレスのポケットに隠していた小さな紙片――魔女の森への地図――を指先でなぞった。
もう、迷いはない。こんなに胸が痛いのは、今日で最後にする。
彼を愛しているから苦しいのなら、愛を殺せばいい。
「……さようなら、私の恋心」
ヤスミンは、誰にも気づかれないように、静かに会場を後にした。降り始めた雪が、彼女の肩を白く染めていく。それは、これから彼女の心が迎える、終わりのない冬の序曲のようだった。
馬車を飛ばし、屋敷へ戻ったヤスミンは、最低限の荷物をまとめた。
手紙を一通、机に置く。宛名は、ユリアンではない。ロザリンへだ。
『少し、旅に出ます。探さないでください』
ヤスミンは夜闇に紛れ、一人、北へと向かう馬車を雇った。その横顔は、夜会のどの令嬢よりも美しく、そして、死人のように冷たかった。
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