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公爵家の競売、あるいは精算
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「ルクレツィア、話がある。今すぐ応接間へ来なさい」
父・エルヴァイン公爵の声は、かつての威圧感を取り戻そうと必死に虚勢を張っていた。だが、その背後に漂うのは、逃げ場を失った獣の焦燥感だ。
応接間に入ると、そこには不気味な光景が広がっていた。
後妻のアメリアが、私が与えた「エターナル・ブルーム」を病的な手つきで顔に塗りたくっている。彼女の肌は異常なまでの光沢を放っているが、その瞳は充血し、美しさへの執着で正気を失いかけていた。
「ルクレツィア、お前に良い話を持ってきてやった。隣国の老辺境伯から、お前を後妻に迎えたいと打診があった。莫大な結納金が出る。それでこの家の負債を完済し、余った金で『ルミナス・ラボ』を正式に公爵家の直轄事業とする。これが娘としての最後の孝行だ」
父は、私がすでに王宮の経済を握っている事実を無視し、いまだに家父長としての権利を振りかざした。アメリアも、鏡から目を離さずに嘲笑う。
「そうよ、ルクレツィア。貴女のおかげで私はこんなに美しい。でも、貴女がいつまでもこの家に居座っては、私の立場がありませんもの。早く嫁いで、そのラボの権利を置いていきなさい」
私は、静かに笑い声を漏らした。それは、あまりに滑稽な喜劇を見た後のような、乾いた笑いだった。
「お父様、アメリア様。……貴方たちは、本当に『数字』に弱いのですわね」
私は、マーサから受け取った黒塗りの分厚い帳簿を、テーブルの上に叩きつけた。
「これは、過去一ヶ月にわたり、私がこの家の負債を『肩代わり』してきた証拠書類です。……そしてこちらは、アメリア様が使い込んだ美容液の請求書、および、お父様が放蕩の末に担保に入れた領地の『債権譲渡通知書』ですわ」
「な……債権譲渡だと!? 私が許可した覚えはないぞ!」
「許可? 必要ありませんわ。貴方がリード商会を通じて借り入れた資金の出処……あれは裏ギルド、つまり私のパートナーであるユリウス様の資金源です。……先ほど、全債権の回収手続きが完了しました。現在、このエルヴァイン公爵邸、家財、そして『公爵家』という名の権利そのものまで、すべてが私の所有物となっています」
父の顔が、土気色を通り越してどす黒く変色した。
「ば、馬鹿な……。実の娘が、親を破産させるというのか!」
「破産? いえ、これは『買収』ですわ」
私は、冷徹な理系女子としての顔で、最後の通告を突きつけた。
「私は本日、エルヴァイン公爵家の全財産を法的に買い取りました。……お父様、貴方はもう公爵ではありません。……ただの、負債を抱えた初老の男性です。……そしてアメリア様」
私は、震えながら美容液の瓶を抱え込む彼女に歩み寄った。
「その美容液……。使い続ければ、いずれ魔力飽和を起こして、肌がボロボロに崩れますわよ。……それを抑えるための『中和剤』は、私が持っています。……ただし、それは一滴につき金貨十枚。……一文無しになった貴女に、支払えるかしら?」
「ひ、ひっ……! 嫌よ、そんなの嫌! 助けて、助けてルクレツィア! 私は貴女の母代わりでしょう!?」
「母代わり? 私の母は一人だけ。……貴女は、私の母の居場所を奪い、私を納屋へ追いやった不純物よ」
私は扇子で、彼女が縋り付こうとした手を叩き落とした。
「お二人とも、今すぐこの屋敷から出て行ってちょうだい。……衣服以外の持ち出しは禁止です。……これからは、貴方たちが蔑んだ平民以下の生活の中で、せいぜい『かつての栄光』を食べて生きていくことね」
「待て! ルクレツィア! ユーリはどうなる! あいつは次期公爵……」
「ユーリなら、私のラボで誠実に『雑用』をこなしていますわ。……彼は、貴方たちのような汚れた大人とは違い、自分の罪を認める強さを持っていた。……彼には、私の『傀儡』として、新たな公爵家を再興させるチャンスを与えます」
絶叫する父と、狂乱するアメリアが衛兵によって引きずり出されていく。
静まり返った広間で、私は深い溜息を吐いた。
中田ひよりとして、そしてルクレツィアとしての、最も醜悪な膿を出し切った瞬間だった。
「……お嬢様。お疲れ様でございました」
マーサが、温かい紅茶を差し出す。その香りは、かつて社畜時代に深夜の研究室で飲んだものよりも、ずっと芳醇で、達成感に満ちていた。
「……終わったわ、マーサ。……でも、まだ片付けるべき『大きなゴミ』が残っているわね」
私は窓の外、王宮の方向を見つめた。
王家を揺るがす最大の不祥事、ジャリー侯爵家の崩壊。……そして、ユリウスを玉座へと導く「革命」の最終工程が、今、始まったのだ。
「見ている? 本物のルクレツィア。……貴方を捨てた家は、もうどこにもないわ。……これからは、貴方の名前が、この国の正義になるのよ」
私は、空になった公爵邸の王座のような椅子に、誇り高く腰を下ろした。
______________
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父・エルヴァイン公爵の声は、かつての威圧感を取り戻そうと必死に虚勢を張っていた。だが、その背後に漂うのは、逃げ場を失った獣の焦燥感だ。
応接間に入ると、そこには不気味な光景が広がっていた。
後妻のアメリアが、私が与えた「エターナル・ブルーム」を病的な手つきで顔に塗りたくっている。彼女の肌は異常なまでの光沢を放っているが、その瞳は充血し、美しさへの執着で正気を失いかけていた。
「ルクレツィア、お前に良い話を持ってきてやった。隣国の老辺境伯から、お前を後妻に迎えたいと打診があった。莫大な結納金が出る。それでこの家の負債を完済し、余った金で『ルミナス・ラボ』を正式に公爵家の直轄事業とする。これが娘としての最後の孝行だ」
父は、私がすでに王宮の経済を握っている事実を無視し、いまだに家父長としての権利を振りかざした。アメリアも、鏡から目を離さずに嘲笑う。
「そうよ、ルクレツィア。貴女のおかげで私はこんなに美しい。でも、貴女がいつまでもこの家に居座っては、私の立場がありませんもの。早く嫁いで、そのラボの権利を置いていきなさい」
私は、静かに笑い声を漏らした。それは、あまりに滑稽な喜劇を見た後のような、乾いた笑いだった。
「お父様、アメリア様。……貴方たちは、本当に『数字』に弱いのですわね」
私は、マーサから受け取った黒塗りの分厚い帳簿を、テーブルの上に叩きつけた。
「これは、過去一ヶ月にわたり、私がこの家の負債を『肩代わり』してきた証拠書類です。……そしてこちらは、アメリア様が使い込んだ美容液の請求書、および、お父様が放蕩の末に担保に入れた領地の『債権譲渡通知書』ですわ」
「な……債権譲渡だと!? 私が許可した覚えはないぞ!」
「許可? 必要ありませんわ。貴方がリード商会を通じて借り入れた資金の出処……あれは裏ギルド、つまり私のパートナーであるユリウス様の資金源です。……先ほど、全債権の回収手続きが完了しました。現在、このエルヴァイン公爵邸、家財、そして『公爵家』という名の権利そのものまで、すべてが私の所有物となっています」
父の顔が、土気色を通り越してどす黒く変色した。
「ば、馬鹿な……。実の娘が、親を破産させるというのか!」
「破産? いえ、これは『買収』ですわ」
私は、冷徹な理系女子としての顔で、最後の通告を突きつけた。
「私は本日、エルヴァイン公爵家の全財産を法的に買い取りました。……お父様、貴方はもう公爵ではありません。……ただの、負債を抱えた初老の男性です。……そしてアメリア様」
私は、震えながら美容液の瓶を抱え込む彼女に歩み寄った。
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「ひ、ひっ……! 嫌よ、そんなの嫌! 助けて、助けてルクレツィア! 私は貴女の母代わりでしょう!?」
「母代わり? 私の母は一人だけ。……貴女は、私の母の居場所を奪い、私を納屋へ追いやった不純物よ」
私は扇子で、彼女が縋り付こうとした手を叩き落とした。
「お二人とも、今すぐこの屋敷から出て行ってちょうだい。……衣服以外の持ち出しは禁止です。……これからは、貴方たちが蔑んだ平民以下の生活の中で、せいぜい『かつての栄光』を食べて生きていくことね」
「待て! ルクレツィア! ユーリはどうなる! あいつは次期公爵……」
「ユーリなら、私のラボで誠実に『雑用』をこなしていますわ。……彼は、貴方たちのような汚れた大人とは違い、自分の罪を認める強さを持っていた。……彼には、私の『傀儡』として、新たな公爵家を再興させるチャンスを与えます」
絶叫する父と、狂乱するアメリアが衛兵によって引きずり出されていく。
静まり返った広間で、私は深い溜息を吐いた。
中田ひよりとして、そしてルクレツィアとしての、最も醜悪な膿を出し切った瞬間だった。
「……お嬢様。お疲れ様でございました」
マーサが、温かい紅茶を差し出す。その香りは、かつて社畜時代に深夜の研究室で飲んだものよりも、ずっと芳醇で、達成感に満ちていた。
「……終わったわ、マーサ。……でも、まだ片付けるべき『大きなゴミ』が残っているわね」
私は窓の外、王宮の方向を見つめた。
王家を揺るがす最大の不祥事、ジャリー侯爵家の崩壊。……そして、ユリウスを玉座へと導く「革命」の最終工程が、今、始まったのだ。
「見ている? 本物のルクレツィア。……貴方を捨てた家は、もうどこにもないわ。……これからは、貴方の名前が、この国の正義になるのよ」
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