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スピンオフ ユリウスの裏稼業編
毒をもって毒を制す
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王宮の「黄金の間」で開催されている晩餐会。新王の誕生と隣国との不可侵条約を祝うこの場は、表向きは平和そのものだが、ユリウスにとっては「死の成分」が充満した実験場に等しかった。
ユリウスは王太子の正装を纏いながらも、その鋭い嗅覚で会場に漂う微かな違和感を察知していた。
豪華な食事の香り。貴婦人たちの香油。だが、その背後に隠された、金属質の冷たい残り香――。
「……南の島の希少な毒草、『デス・リリー』ね」
隣でワイングラスを傾けていたルクレツィアが、耳元で平然と囁いた。
「ルクレツィア、気づいていたのか」
「当然よ。私の嗅覚受容体を舐めないで。……あちらの給仕が持っているトレイの一番右奥のグラス。致死量の三倍は入っているわね。……ターゲットは、私かしら?」
「……だろうね。君がいなくなれば、この国の『技術』は止まる」
ユリウスの瞳が、獲物を狙う死神のそれに変わる。
犯人は、条約締結に反対する隣国の強硬派が送り込んだスパイだろう。給仕に扮した暗殺者が、恭しくルクレツィアの元へ歩み寄ってくる。
「公爵令嬢、本日の記念に、特別なヴィンテージ・ワインを」
暗殺者の指が微かに震えている。ルクレツィアが手を伸ばそうとしたその瞬間――ユリウスが、そのグラスを奪うように手に取った。
「ユリウス?」
「すまない。……今日は、私が先に君に献杯したい気分なんだ」
ユリウスは暗殺者の目を真っ向から見据え、一瞬の躊躇もなく、その毒入りのワインを悠々と飲み干した。
「……なっ!?」
給仕が息を呑み、後ずさる。
ルクレツィアも一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに溜息をついて時計に目をやった。
「ユリウス。……貴方、また私の『抗毒バリア内服薬』を勝手に飲んだわね?」
「……気づいていたか。君のラボに置いてあった新薬だ。『あらゆる神経毒を血中で無毒化し、エネルギーに変換する』……という理論が本当か、確かめたくてね」
ユリウスはグラスを床に置くと、暗殺者の喉元を凄まじい速さで掴み、壁へと叩きつけた。
毒を飲んだはずの男から放たれるのは、衰弱どころか、常人を遥かに凌駕する圧倒的な威圧感だ。
「……き、貴様、なぜ……!? あの量は、象でも即死するはず……!」
「残念だったな。……私は、世界で最も優れた『調合師』の守護者だ。……君たちが用意した毒など、私にとってはただの栄養剤に過ぎない」
ユリウスの手の中で、暗殺者の骨が軋む音を立てる。
その光景を背景に、ルクレツィアは悠然と歩み寄り、暗殺者の胸元から隠し持っていた予備の毒瓶を抜き取った。
「ユリウス、実験は大成功よ。心拍数も呼吸数も、理想的な『戦闘モード』を維持しているわ。……でも、私の試作薬を毒味なしで飲むなんて、万が一があったらどうするつもりだったの?」
ルクレツィアの問いに、ユリウスは暗殺者を衛兵に引き渡すと、彼女の前に跪き、その白い手を取った。
「……君が作ったものなら、たとえ猛毒のままでも私は飲み干すよ。……それに、君を危険に晒すくらいなら、私の体で安全性を証明する方が、効率的だろう?」
「効率的……。本当に、貴方は私の騎士(ナイト)を通り越して、最高の実験体(サンプル)ね」
ルクレツィアは少しだけ呆れたように笑い、彼の髪を指で梳いた。
「毒」を喰らい、それを「力」に変えて愛する者を守る死神。
そして、その死神さえも自分の計算式の一部として組み込む白衣の女神。
会場の招待客たちは、二人の優雅なやり取りが、今まさに暗殺劇を粉砕した直後のものだとは夢にも思わなかった。
「……さて。ユリウス。……毒の成分が完全に代謝される前に、ラボへ戻りましょう。貴方の『毒耐性細胞』、詳しくサンプリングさせてもらうわよ」
「……ああ。今夜は、朝まで君の好きなようにしてくれ」
ユリウスはルクレツィアの肩を抱き寄せ、華やかな会場を後にした。
二人の行く手に、不純物の入り込む隙間など、どこにもなかった。
ハッピーエンド!
______________
二人の幸せに、エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇♀️
ユリウスは王太子の正装を纏いながらも、その鋭い嗅覚で会場に漂う微かな違和感を察知していた。
豪華な食事の香り。貴婦人たちの香油。だが、その背後に隠された、金属質の冷たい残り香――。
「……南の島の希少な毒草、『デス・リリー』ね」
隣でワイングラスを傾けていたルクレツィアが、耳元で平然と囁いた。
「ルクレツィア、気づいていたのか」
「当然よ。私の嗅覚受容体を舐めないで。……あちらの給仕が持っているトレイの一番右奥のグラス。致死量の三倍は入っているわね。……ターゲットは、私かしら?」
「……だろうね。君がいなくなれば、この国の『技術』は止まる」
ユリウスの瞳が、獲物を狙う死神のそれに変わる。
犯人は、条約締結に反対する隣国の強硬派が送り込んだスパイだろう。給仕に扮した暗殺者が、恭しくルクレツィアの元へ歩み寄ってくる。
「公爵令嬢、本日の記念に、特別なヴィンテージ・ワインを」
暗殺者の指が微かに震えている。ルクレツィアが手を伸ばそうとしたその瞬間――ユリウスが、そのグラスを奪うように手に取った。
「ユリウス?」
「すまない。……今日は、私が先に君に献杯したい気分なんだ」
ユリウスは暗殺者の目を真っ向から見据え、一瞬の躊躇もなく、その毒入りのワインを悠々と飲み干した。
「……なっ!?」
給仕が息を呑み、後ずさる。
ルクレツィアも一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに溜息をついて時計に目をやった。
「ユリウス。……貴方、また私の『抗毒バリア内服薬』を勝手に飲んだわね?」
「……気づいていたか。君のラボに置いてあった新薬だ。『あらゆる神経毒を血中で無毒化し、エネルギーに変換する』……という理論が本当か、確かめたくてね」
ユリウスはグラスを床に置くと、暗殺者の喉元を凄まじい速さで掴み、壁へと叩きつけた。
毒を飲んだはずの男から放たれるのは、衰弱どころか、常人を遥かに凌駕する圧倒的な威圧感だ。
「……き、貴様、なぜ……!? あの量は、象でも即死するはず……!」
「残念だったな。……私は、世界で最も優れた『調合師』の守護者だ。……君たちが用意した毒など、私にとってはただの栄養剤に過ぎない」
ユリウスの手の中で、暗殺者の骨が軋む音を立てる。
その光景を背景に、ルクレツィアは悠然と歩み寄り、暗殺者の胸元から隠し持っていた予備の毒瓶を抜き取った。
「ユリウス、実験は大成功よ。心拍数も呼吸数も、理想的な『戦闘モード』を維持しているわ。……でも、私の試作薬を毒味なしで飲むなんて、万が一があったらどうするつもりだったの?」
ルクレツィアの問いに、ユリウスは暗殺者を衛兵に引き渡すと、彼女の前に跪き、その白い手を取った。
「……君が作ったものなら、たとえ猛毒のままでも私は飲み干すよ。……それに、君を危険に晒すくらいなら、私の体で安全性を証明する方が、効率的だろう?」
「効率的……。本当に、貴方は私の騎士(ナイト)を通り越して、最高の実験体(サンプル)ね」
ルクレツィアは少しだけ呆れたように笑い、彼の髪を指で梳いた。
「毒」を喰らい、それを「力」に変えて愛する者を守る死神。
そして、その死神さえも自分の計算式の一部として組み込む白衣の女神。
会場の招待客たちは、二人の優雅なやり取りが、今まさに暗殺劇を粉砕した直後のものだとは夢にも思わなかった。
「……さて。ユリウス。……毒の成分が完全に代謝される前に、ラボへ戻りましょう。貴方の『毒耐性細胞』、詳しくサンプリングさせてもらうわよ」
「……ああ。今夜は、朝まで君の好きなようにしてくれ」
ユリウスはルクレツィアの肩を抱き寄せ、華やかな会場を後にした。
二人の行く手に、不純物の入り込む隙間など、どこにもなかった。
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