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あまりに深い、愛ゆえの誤解
馬車の中で泣き崩れるアンドレアの脳裏には、この数週間の出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。
一度や二度の偶然なら、見逃せたかもしれない。けれど、積み重なった「証拠」が彼女の心を粉々に砕いていた。
一ヶ月前。ザックの屋敷に招かれた際、彼が席を外した隙に見てしまった事務机の引き出し。
そこには、美しい装飾が施された封筒が、山のように積まれていた。差出人はすべて『カレン・シャンピア』。
(あんなにたくさんの手紙が届いているのに、彼は私に一言も教えてくれなかった……)
隠されているということは、私に知られたくない大切な存在なのだと、アンドレアは思い込んだ。実際には、ザックが「視界に入れるのも汚らわしい」と封も切らずに放置していたゴミの山だったのだが、宛名だけを見た彼女には、それが「密かに育まれている愛の証」に見えてしまった。
さらに、学園の裏庭での会話。
ザックの親友である侯爵令息カイル様が、彼に問いかけていた。
「なあザック、結局カレン嬢とはどうなってるんだ? 彼女、まだ君に執着してるんだろ?」
それに対するザックの返答は、低く、短かった。
「……ああ。放っておいてくれ。彼女のことは、僕がなんとかする」
その「なんとかする」という言葉。
アンドレアの耳には、「現在の恋人(アンドレア)との折り合いをつけて、元カノとヨリを戻す算段を立てる」という意味に聞こえてしまった。
本当は、ザックが「法的手段を使ってでもストーカー女(カレン)を排除する」という意味で言った言葉だったのだが、恋に臆病なアンドレアにそれを読み取る術はなかった。
「私は、ザック様の優しさに甘えていただけだったのね……」
馬車の揺れに身を任せながら、アンドレアは自嘲気味に呟く。
彼が自分に向けてくれる微笑みも、甘い囁きも、すべては「身分の低い自分への憐れみ」か、「カレン様を忘れるための代償」だったのではないか。そう考え始めると、すべてが腑に落ちてしまった。
一方で、レストランに取り残されたザックは、怒りに身を震わせていた。
「……写真? 手帳? 何のことだ」
彼は荒々しく自分の学生手帳を開く。
そこには確かに、忌々しい女――カレンの写真が挟まっていた。
「……ああ、そうか。あの時か」
思い出した。数日前、カレンが街で強引に詰め寄ってきた際、無理やり手帳にねじ込まれたのだ。あまりの不快さに、後で捨てようと思ってそのまま忘れていた。
「会いたい」というカードも、彼女が勝手に入れたものだ。
ザックにとって、カレンは「初恋」などという綺麗なものではない。
幼い頃から歳上ぶって自分を振り回し、飽きたら別の男に乗り換えた、傲慢で身勝手な女。
今のザックが抱いている感情は、憎悪を通り越して「無」だった。
「アンは、これを見て僕がまだあの女を愛していると……?」
あまりの馬鹿々々しさに笑いが込み上げる。と同時に、その程度のことで自分を捨てようとしたアンドレアへの、どす黒い独占欲が鎌首をもたげた。
「いいよ、アン。君がそうやって勝手に絶望して、僕を解放したつもりでいるなら……。その誤解ごと、僕の腕の中に閉じ込めてあげる」
ザックはテーブルに残されたアンドレアの飲みかけのグラスを指でなぞる。その瞳からは、いつもの爽やかな輝きが完全に消失していた。
「明日、学園で会うのが楽しみだ。……震えて待っていてね、僕の可愛い婚約者候補のアン」
_________
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一度や二度の偶然なら、見逃せたかもしれない。けれど、積み重なった「証拠」が彼女の心を粉々に砕いていた。
一ヶ月前。ザックの屋敷に招かれた際、彼が席を外した隙に見てしまった事務机の引き出し。
そこには、美しい装飾が施された封筒が、山のように積まれていた。差出人はすべて『カレン・シャンピア』。
(あんなにたくさんの手紙が届いているのに、彼は私に一言も教えてくれなかった……)
隠されているということは、私に知られたくない大切な存在なのだと、アンドレアは思い込んだ。実際には、ザックが「視界に入れるのも汚らわしい」と封も切らずに放置していたゴミの山だったのだが、宛名だけを見た彼女には、それが「密かに育まれている愛の証」に見えてしまった。
さらに、学園の裏庭での会話。
ザックの親友である侯爵令息カイル様が、彼に問いかけていた。
「なあザック、結局カレン嬢とはどうなってるんだ? 彼女、まだ君に執着してるんだろ?」
それに対するザックの返答は、低く、短かった。
「……ああ。放っておいてくれ。彼女のことは、僕がなんとかする」
その「なんとかする」という言葉。
アンドレアの耳には、「現在の恋人(アンドレア)との折り合いをつけて、元カノとヨリを戻す算段を立てる」という意味に聞こえてしまった。
本当は、ザックが「法的手段を使ってでもストーカー女(カレン)を排除する」という意味で言った言葉だったのだが、恋に臆病なアンドレアにそれを読み取る術はなかった。
「私は、ザック様の優しさに甘えていただけだったのね……」
馬車の揺れに身を任せながら、アンドレアは自嘲気味に呟く。
彼が自分に向けてくれる微笑みも、甘い囁きも、すべては「身分の低い自分への憐れみ」か、「カレン様を忘れるための代償」だったのではないか。そう考え始めると、すべてが腑に落ちてしまった。
一方で、レストランに取り残されたザックは、怒りに身を震わせていた。
「……写真? 手帳? 何のことだ」
彼は荒々しく自分の学生手帳を開く。
そこには確かに、忌々しい女――カレンの写真が挟まっていた。
「……ああ、そうか。あの時か」
思い出した。数日前、カレンが街で強引に詰め寄ってきた際、無理やり手帳にねじ込まれたのだ。あまりの不快さに、後で捨てようと思ってそのまま忘れていた。
「会いたい」というカードも、彼女が勝手に入れたものだ。
ザックにとって、カレンは「初恋」などという綺麗なものではない。
幼い頃から歳上ぶって自分を振り回し、飽きたら別の男に乗り換えた、傲慢で身勝手な女。
今のザックが抱いている感情は、憎悪を通り越して「無」だった。
「アンは、これを見て僕がまだあの女を愛していると……?」
あまりの馬鹿々々しさに笑いが込み上げる。と同時に、その程度のことで自分を捨てようとしたアンドレアへの、どす黒い独占欲が鎌首をもたげた。
「いいよ、アン。君がそうやって勝手に絶望して、僕を解放したつもりでいるなら……。その誤解ごと、僕の腕の中に閉じ込めてあげる」
ザックはテーブルに残されたアンドレアの飲みかけのグラスを指でなぞる。その瞳からは、いつもの爽やかな輝きが完全に消失していた。
「明日、学園で会うのが楽しみだ。……震えて待っていてね、僕の可愛い婚約者候補のアン」
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