【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋

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夜会の出会い

  学園の講堂は、煌びやかなシャンデリアの光と、着飾った生徒たちの熱気に包まれていた。
一周年記念の直後に別れを告げた私にとって、この夜会は地獄のような場所だ。壁際に身を潜め、誰にも見つからないようにジュースのグラスを握りしめる。

 けれど、運命は残酷だった。
 人だかりの向こう、テラスへと続くカーテンの影に、見覚えのある金髪の後ろ姿を見つけてしまった。

 ザック様だ。そしてその隣には、燃えるような茶色の巻毛を揺らしたカレン様が寄り添っている。

「……やっぱり」

 二人は親密そうに言葉を交わしている。カレン様は必死な形相でザック様の袖を掴み、ザック様は彼女を見下ろして何かを囁いている。

 実際には、ザック様が「二度とアンに近づくなと言ったはずだ。次はない、今すぐ消えろ」と冷酷な絶縁宣言を叩きつけていたのだが、遠目に見る私には、それが秘め事を楽しむ恋人たちの語らいにしか映らなかった。

 胸が、焼けるように熱い。
 彼を解放してあげたはずなのに、目の前でその光景を見せつけられるのは、耐えがたい屈辱と悲しみだった。

「……ここには、いられない」

 私は逃げるように会場を飛び出した。
 冷たい夜風が吹く学園の庭園。噴水の音だけが響く静寂のなかで、私はようやく大きく息を吐いた。

「君も、あそこにいるのが辛くなった口かい?」

 不意に声をかけられ、私はびくりと肩を揺らした。

 生垣の影にあるベンチに、一人の男子生徒が座っていた。ポール・ザネット子爵令息。カレン様の婚約者だ。
 彼は整っているとは言い難い、けれどどこか安心感を与える素朴な顔立ちをしていて、今はひどく疲れ切った様子で夜空を見上げていた。

「ザネット子爵令息……。申し訳ありません、お邪魔をしてしまって」

「いいんだ、気にしないで。……アンドレア伯爵令嬢だよね。君の彼……いや、元彼のザック殿は、今もあそこで僕の婚約者と熱心に話し込んでいるよ」

 ポール様は自嘲気味に笑った。

「僕じゃ物足りないんだろうね。カレンは昔から、輝いているものが好きだから。……君も、僕と同じ『側』なのかな?」

 その言葉が、すとんと胸に落ちた。

「……捨てられた、のかどうかは分かりません。ただ、私では彼の隣に相応しくないと思っただけです」

「優しいんだね、君は。僕は、彼女が何をしても嫌いになれなくて……。でも、今日確信したよ。彼女の瞳には、最初から僕なんて映っていなかったんだ」

 ポール様の声には、諦念と深い悲しみが混じっていた。

 私たちは、お互いのパートナーが「かつての恋人」を忘れられずにいるという共通の境遇に、言葉を超えた共感を覚えた。

「ポール様は、お優しいのですね」

「優しすぎるのは、無能と同じだよ。……でも、君と話していたら、少しだけ心が軽くなった気がする。ありがとう、アンドレア嬢」

 ポール様が少しだけ表情を和らげ、私の手にそっと触れようとした、その時だった。

「……そこで何をしているんだい、アン」

 夜の闇を切り裂くような、低く、冷たい声。

 振り返ると、そこにはテラスから降りてきたザック様が立っていた。
 逆光で表情は見えない。けれど、彼から放たれる圧倒的な威圧感に、私は呼吸を忘れた。

 ザック様の瞳は、私に触れようとしたポール様の手を、まるで汚物でも見るかのように冷酷に射抜いていた。
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