2 / 4
光の中にいた少年 ジュリアン
しおりを挟む
オッティ子爵家の跡取り息子として生まれたジュリアンは、幼い頃からその恵まれた容姿と愛嬌で、周囲の大人たちを魅了して育った。
茶色の柔らかな髪に、涼やかな茶色の瞳。その少年らしい明るさは、厳格な父親と慈愛に満ちた母親の間で、素直に、そしていささか「楽天的」に育まれた。
彼にとって、人生とは常に輝かしいものだった。
子爵家という、高すぎず低すぎない心地よい地位。不自由のない暮らし。そして、何より彼を形作ったのは、寄宿学校で出会った同じ歳の一人の少年――ジャッカス侯爵家の嫡男、チャーチルとの出会いである。
ジャッカス侯爵家は、国内でも屈指の名門であり、チャーチルはその次期当主として、幼い頃から帝王学を叩き込まれていた。
初対面のチャーチルは、その体格の良さと鋭い眼光で周囲を威圧していたが、ジュリアンだけは違った。
「君がチャーチル・ジャッカス侯爵令息? 僕はジュリアン・オッティ。仲良くしてくれると嬉しいな」
物怖じせず、天真爛漫な笑みを向けるジュリアンに、チャーチルは毒気を抜かれた。二人は瞬く間に意気投合し、身分を超えた親友となったのである。
チャーチルにとってジュリアンは、張り詰めた公務の合間に息を抜ける「唯一の理解者」であり、ジュリアンにとってチャーチルは、憧れと頼もしさを象徴する「兄のような存在」だった。
二人は共に馬を駆り、夜更けまで将来の夢を語り合った。
「俺が侯爵家を継いだら、ジュリアン、お前を俺の右腕として迎える。俺たちの友情は、一生変わらない」
「光栄だよ、チャーチル。僕も、君を支えられる立派な男になってみせるよ」
その誓いに、嘘はなかったはずだ。やがて少年から青年へと成長したジュリアンは、社交界でも注目の的となった。
華やかな容姿に、チャーチル譲りの洗練された立ち居振る舞い。多くの令嬢が彼に秋波を送ったが、ジュリアンはどこか冷めていた。
彼は女性に対して、一種の「理想」を抱いていた。それは、激しく燃え上がる情熱ではなく、日向のような穏やかさと、自分の未熟さを包み込んでくれるような包容力。
そんな折、チャーチルの婚約が決まった。相手は、気高く美しいセシリア・ランバン侯爵令嬢。
その婚約祝賀の夜会で、ジュリアンはセシリアの親友として紹介された一人の女性と出会う。それが、メラニア・ゴードン伯爵令嬢だった。
豪華なシャンデリアの下、着飾った令嬢たちの中で、彼女は静かに咲く一輪の野の花のようだった。
ブルネットの巻き毛を慎ましくまとめ、優しげなヘーゼルアイを伏せている。派手さはないが、一言言葉を交わせば、その聡明さと奥ゆかしさが深く染み渡ってくる。
「……綺麗な人だ」
ジュリアンは、自分の心の中に、これまでにない穏やかな波が立つのを感じた。
チャーチルとセシリアという、輝かしい「光」の傍らにいる二人は、互いに共通の空気を感じ取ったのかもしれない。
「ジュリアン様、お噂はかねがね。セシリアから、とても明るく素晴らしい方だと伺っておりますわ」
メラニアの少し照れたような、控えめな微笑み。
その瞬間、ジュリアンの「理想」は形を成した。
(この人だ。この人なら、僕の生涯を預けられる)
ジュリアンの恋は、真夏の太陽のように輝かしく始まった。
彼はメラニアを喜ばせるために花を贈り、彼女の好きな詩集を読み込み、彼女が少しでも微笑んでくれるなら何でもした。
チャーチルもまた、親友の恋を面白がりつつも、後押ししてくれた。
「お似合いじゃないか。真面目すぎるお前ら二人は、きっと国内で一番堅実な家庭を築くぜ」
チャーチルのその言葉を、ジュリアンは最大の賛辞として受け取った。
ゴードン伯爵家からも、ジュリアンの誠実な人柄と、ジャッカス侯爵家嫡男との深い繋がりが歓迎され、二人の結婚はトントン拍子に進んでいった。
結婚式の朝、ジュリアンは鏡の中の自分を見つめ、固く誓った。
「メラニアを悲しませるようなことは、一生しない。彼女は僕にとっての、唯一無二の、理想の妻なんだ」
その時のジュリアンに、悪意など一片もなかった。彼は純粋に、メラニアを愛し、大切にしようとしていたのだ。
ただ、彼はまだ知らなかった。
自分の中にある「明るさ」が、困難に直面したときに「弱さ」に変わることを。
そして、メラニアという女性を「完璧な理想」として崇めすぎた結果、彼女を同じ血の通った一人の女性として見られなくなっていくという、歪んだ愛の形に堕ちていくことを――。
__________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇♀️
茶色の柔らかな髪に、涼やかな茶色の瞳。その少年らしい明るさは、厳格な父親と慈愛に満ちた母親の間で、素直に、そしていささか「楽天的」に育まれた。
彼にとって、人生とは常に輝かしいものだった。
子爵家という、高すぎず低すぎない心地よい地位。不自由のない暮らし。そして、何より彼を形作ったのは、寄宿学校で出会った同じ歳の一人の少年――ジャッカス侯爵家の嫡男、チャーチルとの出会いである。
ジャッカス侯爵家は、国内でも屈指の名門であり、チャーチルはその次期当主として、幼い頃から帝王学を叩き込まれていた。
初対面のチャーチルは、その体格の良さと鋭い眼光で周囲を威圧していたが、ジュリアンだけは違った。
「君がチャーチル・ジャッカス侯爵令息? 僕はジュリアン・オッティ。仲良くしてくれると嬉しいな」
物怖じせず、天真爛漫な笑みを向けるジュリアンに、チャーチルは毒気を抜かれた。二人は瞬く間に意気投合し、身分を超えた親友となったのである。
チャーチルにとってジュリアンは、張り詰めた公務の合間に息を抜ける「唯一の理解者」であり、ジュリアンにとってチャーチルは、憧れと頼もしさを象徴する「兄のような存在」だった。
二人は共に馬を駆り、夜更けまで将来の夢を語り合った。
「俺が侯爵家を継いだら、ジュリアン、お前を俺の右腕として迎える。俺たちの友情は、一生変わらない」
「光栄だよ、チャーチル。僕も、君を支えられる立派な男になってみせるよ」
その誓いに、嘘はなかったはずだ。やがて少年から青年へと成長したジュリアンは、社交界でも注目の的となった。
華やかな容姿に、チャーチル譲りの洗練された立ち居振る舞い。多くの令嬢が彼に秋波を送ったが、ジュリアンはどこか冷めていた。
彼は女性に対して、一種の「理想」を抱いていた。それは、激しく燃え上がる情熱ではなく、日向のような穏やかさと、自分の未熟さを包み込んでくれるような包容力。
そんな折、チャーチルの婚約が決まった。相手は、気高く美しいセシリア・ランバン侯爵令嬢。
その婚約祝賀の夜会で、ジュリアンはセシリアの親友として紹介された一人の女性と出会う。それが、メラニア・ゴードン伯爵令嬢だった。
豪華なシャンデリアの下、着飾った令嬢たちの中で、彼女は静かに咲く一輪の野の花のようだった。
ブルネットの巻き毛を慎ましくまとめ、優しげなヘーゼルアイを伏せている。派手さはないが、一言言葉を交わせば、その聡明さと奥ゆかしさが深く染み渡ってくる。
「……綺麗な人だ」
ジュリアンは、自分の心の中に、これまでにない穏やかな波が立つのを感じた。
チャーチルとセシリアという、輝かしい「光」の傍らにいる二人は、互いに共通の空気を感じ取ったのかもしれない。
「ジュリアン様、お噂はかねがね。セシリアから、とても明るく素晴らしい方だと伺っておりますわ」
メラニアの少し照れたような、控えめな微笑み。
その瞬間、ジュリアンの「理想」は形を成した。
(この人だ。この人なら、僕の生涯を預けられる)
ジュリアンの恋は、真夏の太陽のように輝かしく始まった。
彼はメラニアを喜ばせるために花を贈り、彼女の好きな詩集を読み込み、彼女が少しでも微笑んでくれるなら何でもした。
チャーチルもまた、親友の恋を面白がりつつも、後押ししてくれた。
「お似合いじゃないか。真面目すぎるお前ら二人は、きっと国内で一番堅実な家庭を築くぜ」
チャーチルのその言葉を、ジュリアンは最大の賛辞として受け取った。
ゴードン伯爵家からも、ジュリアンの誠実な人柄と、ジャッカス侯爵家嫡男との深い繋がりが歓迎され、二人の結婚はトントン拍子に進んでいった。
結婚式の朝、ジュリアンは鏡の中の自分を見つめ、固く誓った。
「メラニアを悲しませるようなことは、一生しない。彼女は僕にとっての、唯一無二の、理想の妻なんだ」
その時のジュリアンに、悪意など一片もなかった。彼は純粋に、メラニアを愛し、大切にしようとしていたのだ。
ただ、彼はまだ知らなかった。
自分の中にある「明るさ」が、困難に直面したときに「弱さ」に変わることを。
そして、メラニアという女性を「完璧な理想」として崇めすぎた結果、彼女を同じ血の通った一人の女性として見られなくなっていくという、歪んだ愛の形に堕ちていくことを――。
__________
エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇♀️
93
あなたにおすすめの小説
三年目の離婚から始まる二度目の人生
あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。
三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。
理由はただ一つ。
“飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。
女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。
店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。
だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。
(あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……)
そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。
これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。
今度こそ、自分の人生を選び取るために。
ーーー
不定期更新になります。
全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの幸せを、心からお祈りしています
たくわん
恋愛
「平民の娘ごときが、騎士の妻になれると思ったのか」
宮廷音楽家の娘リディアは、愛を誓い合った騎士エドゥアルトから、一方的に婚約破棄を告げられる。理由は「身分違い」。彼が選んだのは、爵位と持参金を持つ貴族令嬢だった。
傷ついた心を抱えながらも、リディアは決意する。
「音楽の道で、誰にも見下されない存在になってみせる」
革新的な合奏曲の創作、宮廷初の「音楽会」の開催、そして若き隣国王子との出会い——。
才能と努力だけを武器に、リディアは宮廷音楽界の頂点へと駆け上がっていく。
一方、妻の浪費と実家の圧力に苦しむエドゥアルトは、次第に転落の道を辿り始める。そして彼は気づくのだ。自分が何を失ったのかを。
【追加】アラマーのざまぁ
ジュレヌク
恋愛
幼い頃から愛を誓う人がいた。
周りも、家族も、2人が結ばれるのだと信じていた。
しかし、王命で運命は引き離され、彼女は第二王子の婚約者となる。
アラマーの死を覚悟した抗議に、王は、言った。
『一つだけ、何でも叶えよう』
彼女は、ある事を願った。
彼女は、一矢報いるために、大きな杭を打ち込んだのだ。
そして、月日が経ち、運命が再び動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる