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旦那様の心配
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ロクサーヌは日差しのやわらかなテラスで紅茶を飲んでいた。風が髪を撫で、カップの縁から香る茶葉が静かに揺れる。
そこへ、軽い足音が近づいた。
アルベールだ。
第二王子の執務を終え、わざわざ馬車で戻ってきたらしい。
「ここにいたのか、ロクサーヌ」
「ごきげんよう、旦那様。お疲れでしょう?」
「いや、疲れてはいない。君の顔を見たら、吹き飛んだ」
軽く笑う。けれど、その目の奥はほんの少しだけ真剣だ。
「侯爵家の茶会で、アリシア伯爵令嬢に会ったんだって?」
ロクサーヌの指先が、カップの取っ手の上で止まる。
「ええ、挨拶を交わしただけですわ。とても上品な方でしたわよ――」
ロクサーヌは紅茶のカップをそっと置き、ゆったりと視線を上げる。
その瞳の奥には、冷静さと鋭い知性がきらめく。
「……それにしても、三歳も年上の淑女が人前であれほど絡んでくるとは、なかなか大胆でしたわ」
口角に微かな笑みを浮かべながら、ほんの少し首を傾げる。
その一瞬の所作だけで、言葉以上の“含み”が相手に伝わる。
見ている側には柔らかく上品な微笑みだが、実際には皮肉が鋭く光っている――
まるで「油断なさらないほうがよろしいですわ」と静かに警告するように。
「“挨拶を交わしただけ”ね」
アルベールは少し眉をひそめた。
「君が怒ってないか気になっていた」
「怒る? どうして?」
ロクサーヌは涼しい顔で微笑む。
「昔の婚約者に会ったくらいで嫉妬するほど、私は子供ではありませんの」
「……そういうとこ、ずるいな」
「ずるい?」
「大抵の女は“昔の恋人”の話を出されると怒るのに、君はまるで気にもしていない。……だから、余計に惹かれるんだ」
ロクサーヌは目を瞬いた。
彼が本気でそんなことを言うとは思っていなかった。
「お上手ですね、アルベール様」
「本心だよ」
アルベールは真剣な目で、彼女を見つめる。
「俺は昔、婚約者であるアリシア伯爵令嬢を傷つけた。でも今は、誰かを泣かせるのはもうごめんなんだ。君には、笑っていてほしい」
ロクサーヌの胸が、かすかに熱くなる。
「……笑っていられるようにするのは、自分自身の力ですわ」
「そうだな。でも、できるならその隣で、君を笑わせたい」
その低い声に、ロクサーヌは少しだけ頬を染めた。慌ててカップに視線を落とし、紅茶を一口。
「……旦那様は、本当に罪な殿方ですわね」
ロクサーヌは紅茶のカップを軽く揺らし、微笑みを浮かべる。その声は柔らかく、けれどほんのり皮肉を含んでいる。
ヘーゼルの瞳をアルベールに向けたまま、軽く首を傾げる――
まるで「貴方のせいで、こちらの心が少し揺れたじゃありませんか」と静かに抗議するかのようだ。
アルベールはその微笑みと視線に、思わず胸を掴まれた気がした。
罪なほど美しく、そして冷静に自分を惑わせる――彼女の存在そのものが、抗えない魅力になっていた。
「君が本気でそう思うなら、もう少し信用されたいところだ」
アルベールは軽く笑い、ロクサーヌの肩越しに庭を見た。
遠くで風が木々を揺らす。
その音の中で、ロクサーヌはふと微笑む。
「――では、努力なさってくださいませ。
私を“本気で信じさせる男”になれるように」
アルベールは目を細めた。
そして、ほんの少しだけ低く囁く。
「……もう、なってるつもりなんだけどな」
ロクサーヌはその言葉に返事をしなかった。
ただ、紅茶の香りの中で――
胸の鼓動がほんの少し、速くなるのを感じていた。
______________________
いいね❤️&応援ありがとうございます🌿
皆さまのひと押しが執筆の力になります✨
そこへ、軽い足音が近づいた。
アルベールだ。
第二王子の執務を終え、わざわざ馬車で戻ってきたらしい。
「ここにいたのか、ロクサーヌ」
「ごきげんよう、旦那様。お疲れでしょう?」
「いや、疲れてはいない。君の顔を見たら、吹き飛んだ」
軽く笑う。けれど、その目の奥はほんの少しだけ真剣だ。
「侯爵家の茶会で、アリシア伯爵令嬢に会ったんだって?」
ロクサーヌの指先が、カップの取っ手の上で止まる。
「ええ、挨拶を交わしただけですわ。とても上品な方でしたわよ――」
ロクサーヌは紅茶のカップをそっと置き、ゆったりと視線を上げる。
その瞳の奥には、冷静さと鋭い知性がきらめく。
「……それにしても、三歳も年上の淑女が人前であれほど絡んでくるとは、なかなか大胆でしたわ」
口角に微かな笑みを浮かべながら、ほんの少し首を傾げる。
その一瞬の所作だけで、言葉以上の“含み”が相手に伝わる。
見ている側には柔らかく上品な微笑みだが、実際には皮肉が鋭く光っている――
まるで「油断なさらないほうがよろしいですわ」と静かに警告するように。
「“挨拶を交わしただけ”ね」
アルベールは少し眉をひそめた。
「君が怒ってないか気になっていた」
「怒る? どうして?」
ロクサーヌは涼しい顔で微笑む。
「昔の婚約者に会ったくらいで嫉妬するほど、私は子供ではありませんの」
「……そういうとこ、ずるいな」
「ずるい?」
「大抵の女は“昔の恋人”の話を出されると怒るのに、君はまるで気にもしていない。……だから、余計に惹かれるんだ」
ロクサーヌは目を瞬いた。
彼が本気でそんなことを言うとは思っていなかった。
「お上手ですね、アルベール様」
「本心だよ」
アルベールは真剣な目で、彼女を見つめる。
「俺は昔、婚約者であるアリシア伯爵令嬢を傷つけた。でも今は、誰かを泣かせるのはもうごめんなんだ。君には、笑っていてほしい」
ロクサーヌの胸が、かすかに熱くなる。
「……笑っていられるようにするのは、自分自身の力ですわ」
「そうだな。でも、できるならその隣で、君を笑わせたい」
その低い声に、ロクサーヌは少しだけ頬を染めた。慌ててカップに視線を落とし、紅茶を一口。
「……旦那様は、本当に罪な殿方ですわね」
ロクサーヌは紅茶のカップを軽く揺らし、微笑みを浮かべる。その声は柔らかく、けれどほんのり皮肉を含んでいる。
ヘーゼルの瞳をアルベールに向けたまま、軽く首を傾げる――
まるで「貴方のせいで、こちらの心が少し揺れたじゃありませんか」と静かに抗議するかのようだ。
アルベールはその微笑みと視線に、思わず胸を掴まれた気がした。
罪なほど美しく、そして冷静に自分を惑わせる――彼女の存在そのものが、抗えない魅力になっていた。
「君が本気でそう思うなら、もう少し信用されたいところだ」
アルベールは軽く笑い、ロクサーヌの肩越しに庭を見た。
遠くで風が木々を揺らす。
その音の中で、ロクサーヌはふと微笑む。
「――では、努力なさってくださいませ。
私を“本気で信じさせる男”になれるように」
アルベールは目を細めた。
そして、ほんの少しだけ低く囁く。
「……もう、なってるつもりなんだけどな」
ロクサーヌはその言葉に返事をしなかった。
ただ、紅茶の香りの中で――
胸の鼓動がほんの少し、速くなるのを感じていた。
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